2.まるで異世界
目の前に古風な街並みが広がる。中世ヨーロッパのようでありながら、少し違うようにも思える。ようするにファンタジーらしい町並みである。
軽く深呼吸をして手足を動かし、空を見上げたり地面の感触を確かめたりして感覚を確かめる。
「異世界転生してしまった・・・!?」
わけではもちろんなく。様式美としてあまりにリアルなゲームに感動したときに言われる有名なセリフだ。ただ、このリアリティーの高さは、仮に異世界だと言われても疑えないレベルである。
過ごし易い春の陽気が呼吸とともに肺の中に入り込んでくる。体が熱をもち、それを吹き抜ける風が冷やしていく。石畳が太陽の熱を受け取り暖かくなっているのに対し、木陰の土は湿ってひんやりしている。町の喧騒にはプレイヤーやNPCの会話、足音、街路樹の
「さてと。まずはチュートリアルはどう受けられるんだ?」
ひとしきり感動をかみしめた後、初期スポーンの広場に案内NPC的な存在がいないことを確認する。チュートリアルがないなんてことはないだろうが、どうやって受けるのだろうか。と思いながら、なんとなく手癖感覚でUIを開くと通常のウィンドウのほかにメッセージが現れた。
『ようこそALTellaの世界へ!まずはクエストメニューを開いてみましょう』
なるほど、クエストで道筋を示すタイプのチュートリアルか。指示にしたがってクエストメニューを開くと、チュートリアル用のクエストがいくつか受注済みになっていた。
「えっと、一番簡単なのは散策してマップを埋めるのと買い物するやつかな」
ならんだクエストの中からすぐに終わりそうなものをピックアップする。
こういうとき真っ先にスキルをとったり、戦闘に向かったりするのは個人的に愚策だと思っている。簡単なクエストで操作感や世界観をつかみつつ、報酬を受け取る。そうすることで序盤にとれる選択肢が格段に増える場合が多い。そういうわけで、この初期の街からでなくても終わらせられるような簡単なクエストを終わらせていくことにする。
「リンゴからリンゴの味がする・・・」
NPCの露店で買ったリンゴを食べた感想だ。当たり前すぎて
「これは料理とかのクオリティーもとんでもないことになってるんじゃないか?」
習得可能なスキル一覧から料理系のものを探しながら、チュートリアルで得た情報を脳内でまとめる。
まずステータスはこんな感じだ。
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PN:アイシオ
Lv:1 (SP:5)
Job:無し
種族:ヒューマン
HP:20/20
MP:20/20
STM:100/100
STR:10
VIT:10
AGI:10
DEX:10
INT:10
スキル:言語理解
アーツ:
魔法:
装備:旅人の旅装
持ち物:リンゴ、石×5
所持金:1000AG
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各ステータスの値はLv1時点では全員、横並びなので特に見どころはない。リンゴは買ったもので、石はなんとなく拾ってみたらアイテム化したもの。『旅人の旅装』は初期装備で特徴がなくて効果もない。通貨は銀貨で単位は
最後にSPについて。SPはステータスポイントの略で、スキルの習得やステータスの強化に使えるポイントだ。ステータスの方は普通にレベルアップでも上昇するので、序盤は主にスキルを取るときに使うと考えていよいだろう。
得た情報はこんな感じだ。で、チュートリアルとして次にやるべきことは、スキルを習得することとモンスターを討伐すること。ここら辺がやりやすいだろう。ギルド加入とかJobとかは気になるが後で。
「うーん、予定通りに無難な構成にするか、別のスキルを試すか」
一応、Lv10を超えるまでは、ほぼノーリスクでステータスリセットができるのでそこまで深刻に考える必要もない。ともかく、何をとるか考えるためにもスキルを試す場が欲しい。実際の使用感に合わせて、どんなスキルをとるかを決めていきたい。
「そのためにフィールドに出たいんだけど……街でこんだけ人が居るとフィールドも混んでるだろうなぁ」
そう、現在俺がいる始まりの街、もとい王都シンシャという都市には夏休みシーズンにこのゲームを始めた、俺と同期となるプレイヤーたちが大量にあふれかえっている。そして、そんな彼らが街をでて次に向かうであろう最初のフィールド、南に広がる”シンシャ平原”にもプレイヤーたちが大量に押し寄せていることだろう。
「さすがにそんな中で落ち着いて検証はできんし……その次のフィールドはどんなところだっけ」
マップを開いて、大雑把な周辺の地形を確認する。
この王都はシンシャ平原のど真ん中に存在している。そこからマップを移動させると北のほうに”キノスタ森林”と示された森が映る。たしかここが、難易度的にシンシャ平原の次だったはずだ。モンスターの強さは平原と大差ないが地形的に見通しがききずらいので高難易度という評価だったが、どちらにせよ初心者用のフィールドには違いない。
「こっちのほうがまだ空いてるかな?森なら人の視線も少ないだろうし、検証するならこっちかな」
そう方針を決めた俺は街の北門を目指して歩き始めたのだった。
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