第53話 後輩そして男の名
「えーと、確かここら辺だよね」
「ああ」
かつて僕が講義という名の規律指導を受けた多目的室は、一度冒険者ギルドのロビーがある一階まで降りてから右手に入った廊下の先にあった。おそらくそこに後輩がいるのだろう。その思いのまま突き進んでいった。
「なぁ、俺がその立ち合いにいていいのか?完全に部外者だろ」
「まぁ、いいんじゃないか?知り合いは多いに越したことはないし、もしかしたら今後の手助けになってくれるかもしれない」
おおよそその可能性はないに等しいが、それでもこの世界に居場所がない以上知人は多いに越したことはない。ただし、自身が抱える秘密を隠し通さなくてはいけないが。『見願』という大きな後ろ盾を存分に発揮するためにはまだ男には実力が足りていなかった。これからその才を開花させていけばいいと思うが、男の見た目は僕同様成人を迎えたあたりなので今まで何をしていたのだと言及されてしまうだろう。
「まぁ、そうかもしれないけど、そもそも俺には名前がないじゃないか」
「「あっ」」
一同は思い出したように口をそろえた。
すっかり忘れていた。カイレンが『異端者くん』と言っていたこともあり、それが僕たちの間で男の名前として定着していた。改めて思うとさすがに事情を知らない人の前ではこの名で男を呼ぶことはできない。非常に困った。
「えーと、どうしようエディ」
「......そうだ。カイレン、こういうのはどうだ?イアゼルの時とは少し違うけど、こいつの好きな魔法から着想を得るのがいいんじゃないか?」
何とも安直な思い付きだが、今はこれが最善に思えた。
「確かに。ねぇ、異端者くん。異端者くんは何か好きな魔法があったりする?」
するとカイレンの質問に男は悩むような仕草を取った。
「そうだな。......俺は空を駆け抜けるのが好きだ。だから飛行魔法だな」
これまたカイレンと同じ趣味趣向を男は述べた。
そうなると考える魔法の名前は『
「飛行魔法かぁ。うーん、イアゼルに付けたのと同じになっちゃうなぁ」
「名付けって自分の子供以外にそんな頻繁に行うものなのか?」
男の指摘に何も言い返すこともできず僕たちは苦笑いした。
そんなこんなで気づけば多目的室の近くまで来てしまっていた。部屋の中からはセノールらしき声が聞こえてきた。どうやらこの部屋で間違いないらしい。
「まぁ、まだ終わりそうにないからうるさくならない程度に異端者くんの名前と設定を考えよう」
「そうだな」
僕らは声が部屋の中に聞こえないように少し距離をとって立ち止まった。
「ねぇ、ひとついいかな?」
するとレイゼがその場で低く手を挙げて注意を促した。
「これまたすごく突拍子もないことを言うけど、エディの弟という設定にすればいいんじゃないかな?」
「「......」」
一同に訪れた沈黙の間、僕と男は顔を見合わせた。
「俺と......」
「お前が......?」
――兄弟!?
本当に突拍子もないことをレイゼは言い放った。男も僕もここが静かな廊下でなければ大声を上げて反応していただろう。
「あー、でも確かにそう言っても問題ないかも。同じ兄弟でも願力特性の有無によって瞳の色とかは変わってくるし、髪色にも変化が出たりするから誤魔化せるね」
カイレンから今まで聞いたことのない情報が公開された。その話が本当ならば、多少瞳の色が違えど誤魔化しはききそうだ。そうなると男の設定は――。
「ってことは、僕と同じ極地で生まれ育ったってことになるのか?」
「......でもどうやって魔法もなしに生きてきたんだ?」
男が疑問に思うのも無理はない。何故なら以前のグラシアは魔境も魔境。原生生物は総じて強力な個体ばかりで、人が生きていくにはあまりにも過酷な環境だったからだ。そのことは、僕たちから話を聞いただけの男にもわかっていたようだ。
「設定は設定だよ。『見願』であるだけでなく『破願』まで持ち合わせていると魔法がうまく使えないってことにしておけばいいんじゃない?」
「な、なるほど......?」
カイレンはレイゼの言葉を半分理解しつつしてないように首を傾げた。
「『破願』は願力の侵食性と排他性の二面の要素が著しく突出しているのでしょ?生きてく途中で願力特性が発現するケースは稀にあることだから、自分の体がその変化に対応できていないと言えば問題はないはず。それに何より何でもありの『見願』だからね。まぁ、その情報さえ公開できればの話だけれど」
レイゼは自身が提唱したことを補足するようにそう語った。
歴代の『見願』は願力と体の異常なまでの融和性によって願力を視認することができたとされている。もしかしたら、男と同じような境遇の者がほとんどなのかもしれない。――魔法に関する記憶のみを引き継いでこの世界にやってきた。体のデザインはこの世界のものだが、その記憶を頼りに何とかしてこの世界の理に則ったうえで魔力による魔法を願力によって再現させていた。もしこうでなければ、僕のように体と願力の相性が最悪という結果が語り継がれるはずだ。
――僕がそんなことを考えている間に、カイレンや男たちは設定についてあれこれと楽し気に語り合っていた。
「じゃあ俺はエディと二人で極地という場所で暮らしていて、そこは運よく魔物もいなかったため今まで何事もなく生きていけた。そんな中カイレンと出会って魔法が使えるエディだけが人里へ。残った俺も後から来ることになったが、時間差で来た理由は『見願』であるが魔法が使えないということで世間から晒し者にされないようにするためとすれば、ある程度誤魔化しが利きそうだ」
「うんうん、いいね。はぁ、思い返すと、今頃の私もエディとこんな感じで設定を考えてたなぁ」
設定は作ってはあるものの、それを公に言う機会はこれといってなかった。きっと、ガネット辺りがそうならないように手筈を整えてくれていたのだろう。一応男には僕の設定を会長室で事細かに伝えてあるため情報に齟齬があるという事態にはならなそうだ。
「――ん?そう言えば俺って『破願』なんだよな?」
男は何か思いついたように突然切り出した。
「そうだけども、それがどうしたの?」
カイレンがそう言うのと同時、男はレイゼに視線を向けた。
「いや、何と言うか。どうして会長室でレイゼは俺に願力を流せたんだろうなと不思議に思っただけだ。ほら、途中で願力を纏っていたじゃないか。その時もレイゼと願力の受け渡しができていた」
するとレイゼは男の言葉に少しだけ顔をしかめた。男はレイゼにとって気づいてほしくない何かに気づいてしまったようだ。
「はぁ。異端者くん、君は本当に余計なことを言ってくれるんだね」
「え、もしかして触れてはいけないことだったか?......すまん」
確かに考えてみればそうだ。レイゼは以前『破願』には抵抗できないと言っていた。だが先ほど願力を纏った状態の男に対して願力を通じて魔願変換の感覚を植え付けていた。明らかな不可解な点だった。
「え、もしかしてレイゼもエイミィと同じ『転願』だったの?」
カイレンはそんなレイゼの様子を一切気にすることなく踏み込んだ質問をした。するとレイゼは何かを諦めるように深々とため息を吐いた。
「......はぁ。ここまで聞かれたら仕方ないね。――まず最初に、私は『転願』ではないよ」
「えっ、じゃあどうして......?」
僕にも皆目見当がつかなかった。何故レイゼは『破願』を有する願力に自身の願力が侵食されることがなかったのか。その答えを伺うように僕らはレイゼを見た。
「先ほどの出来事、私の場合は願力特性といった領域じゃない要因によるものなんだ。――今まで言わなかったけど、私に願力特性はないよ」
「......」
その言葉を前に、僕らは口を開くことすらできなかった。願力特性がなければ、そもそも『破願』に抵抗できる手段が思い浮かばない。それなのにレイゼは自身をそれに当てはめない異端な存在として『破願』に抵抗してみせた。
「......じゃあ、なんでレイゼは異端者くんに願力を流せたの?」
「そのことについて、あのガネットっていう間抜けにでも聞いてくればいいと思うよ。あいつ、この男が『破願』であることをわかって私に頼んだんだ。本当に、忌々しい」
珍しくレイゼは不機嫌そうに唇を尖らせていた。皆、これ以上の言及はよくないと思ったのかしばらく顔を見合わせていた。
「まぁ、とりあえずこの話題はここまでとするか。すまないな、俺のせいで」
「ううん、異端者くんは悪くないよ。悪いのは全部ガネットだから」
レイゼがこれほどまでガネットに対して嫌悪感を抱いているのは、きっと過去に何かがあったからなのだろう。顔なじみ以上の関係が二人の間にありそうだ。
「それじゃあ名付けの続きに戻るか。あ、そう言えばカイレン。僕の名前って願魔導師を意味するんだよな?」
「うん、そうだよ」
ようやくこの疑問をぶつける機会が来たので伝えることにしてみた。
「それで前から思っていたんだが、――どうしてそれがエディゼートっていう風に変換されたんだ?」
「あぁ、そういうことね。実は――」
僕ら一同はカイレンの言葉を今か今かと待ちわびるように視線を口元へと向けていた。そして――。
「――実はエディの名前はね、何となくの思い付きなんだ」
「......思い付き?」
「そう!かっこいい名前がないかなぁって思ってたらピンと閃いたんだよね。『願魔導師エディゼート』、かっこよくない?あ、でも私の中ではエディゼートって名前は願魔導師のことを指してるからね」
「......そうだったのか」
僕の名前、名付け主曰く、かっこよさそうな語感だけで付けられたものだったらしい。一応補足として当人の中では願魔導師のことを指しているらしいが。そうだとしても、まさか一瞬の思い付きを今まで僕は名乗っていたとは。ここまで来れば逆にカイレンらしい気もするのだが。
「え、その表情は一体......」
「いや、僕自身この名前をすごく気に入っているさ。ただ、カイレンらしい決め方だなって思っただけ。別にがっかりしているわけでは全くない。むしろ謎が解けてすっきりだ」
イアゼルの時はエイミィと共にどういった存在であってほしいかを名前に込めていたが、僕の場合は寝起き五分での出来事だ。むしろよくそんな状態でしっくりくる名前を思いついたものだ。
「何だかそこまで言われるとそれ以外のことも思っていそうだけれど......。まぁ、エディなら私がどういう人間なのかっていうのがわかってるはずだから大丈夫だよね」
「あぁ。――じゃあその天才的な閃きをこの男にも発揮してやってくれ、うん」
僕は満面の静かな笑みを浮かべてカイレンを見た。ずいと踏み込むとカイレンは少し後方へと退いた。
「ちょっ、エディその笑顔なんだか怖いってば!やっぱり私が語感だけで名付けをしたこと怒ってるでしょ!」
「いいや、そんなことはないさ。語感だけで決められていたら今頃変な名前にでもなっていたんじゃないのかって思っているわけじゃないから」
以前より、カイレンはこちら側が攻勢に出ると慣れない様子でたじたじになることがわかっていた。その慌てふためく様子が何とも可愛らしい。最近は雷撃魔法のお仕置きではなく、距離を詰めて満面の静かな笑みを浮かべて言及する方向へとシフトチェンジしている。
「ひいぃい~!エディに襲われる~!」
「......はぁ。私たちそっちのけで何をいちゃついてるんだ二人は」
レイゼのため息と男の苦笑が聞こえてきたので攻めの姿勢はここまで。再び壁に寄りかかるような姿勢で何事もなかったように取り繕った。
「それで、カイレン。俺の名前、何か思いつきそうか?」
「そうだね。エディと同じでいいって言うのなら閃いてるよ。というか、今ピーンときたんだよね」
一同から「おお」と、驚きと感嘆の声が上がった。なんとカイレンは僕に責められながらもしっかりと男の名前を考えていたのだ。
――もしかして、僕とのこのやり取りを楽しんでいたのか?
「それで、俺の名前は――」
「――それでは、お先に失礼します」
男の言葉と同時、目の前の扉が少女の声と共に静かに開いた。一同はそのことに意識も言葉も奪い取られたように釘付けにされた。
「「......」」
「......えーと」
部屋の中から出てきたゴーグルを首に掛けた赤髪の長耳族の少女と目が合った。
身長はエイミィよりも少し高いだろうか、全体的にすらっとした印象だった。よく見ると白い肌の一部はまるで薄く敷き詰められた金属や鉱石のような光沢と模様を散らしていた。瞳は黄色く特徴的な模様が滲むように刻まれていたことから、今まで見てきた長耳族とは少し違った印象を受けた。そしてまつ毛が長く釣り目であることと物静かそうな口調から、どこか気品があるようにも感じた。だが、最も目を惹いたのは、少女が背中に背負っている背丈にも匹敵する程の剣のような銃のような形状をした金属の塊だった。
そんな少女は大勢が部屋の外で自信を待ち構えていたことに困惑するように僕らを一瞥した。
「君がディザトリー支部の新人ちゃんだね。――私はカイレン。君に会いに来たんだ」
最初に口を開いたのはカイレンだった。すると少女はカイレンの名前を聞いたからか、その表情を次第に驚きへと変化させていった。
「......まさか、あなたがあのカイレン様なのですか!?」
少女は見た目に反して少し幼げな声音でそう言った。
「えへへ、そうだよ。十二魔願帝序列第一位、『破願のカイレン』だよ、後輩ちゃん!」
カイレンはそう言って少女の手を取った。身長差が少しあったため、カイレンは少女を見上げるように見つめていた。
「え、えーと。こんなところでお会いできて光栄です。申し遅れました、私の名前は『アイラ』、『アイラ・スピルネル』と申します」
そう言ってアイラは後ろに一つに編み込まれた長い髪を揺らしてカイレンに会釈した。
「ふふっ、やっぱりスピルネルの出身だったんだ。いつも君の一族のある人には魔道具のことでお世話になってるよ。やっぱり魔道具は名門スピルネル家のものに限るよね」
「そうでしたか。いつもご贔屓にしていただきありがとうございます」
僕とカイレンが出会った頃、カイレンは魔道具として収納する際に圧縮を掛けて大きさを小さくするものを持っていた。そしてその時に魔道具を作ることが得意な知人がいると言っていた。おそらくその一人がアイラという少女と同じ一族なのだろう。
「そうだ、私にはそんなかしこまった態度じゃなくてもいいよ。それにアイラの方が年上だろうし」
「えっ、あぁ、いえ。私、カイレン様と同じ年の十六歳です......」
「......え?」
カイレンが握っていた手をはらりとほどいた。力なくだらりと落ちる両手とは対照的に、視線だけはアイラを上から下へと何度も往復して忙しなく動いていた。
「......本当に、私と同い年なの?」
「はい。ですので、カイレン様やエイミィ様のことは以前より同年代の魔法使いとして憧れの存在だったのです。えへへ」
カイレンも決して年の割に幼い見た目をしているわけではない。むしろアイラという少女が特別背格好が高いだけだ。長耳族には背の高い女性が多いのだ。隣に並んでしまっては小柄なカイレンの小ささが際立ってしまうのも当然だ。
「それにしても、ガネット会長からはアイラがもしかしたら私と性格が合わないかもって言っていたけど、そんなことなさそうで安心したぁ」
「えっ、あの怖そうな雰囲気の方がそんなことを言っていたのですか?」
確かに、カイレンとエイミィに憧れを抱いていると伝えていなければ、カイレンのようなグイグイくるタイプは苦手だと判断するだろう。しかし、現状ではまだアイラの性格がどのようなものであるかを完全に把握することはできない。
「そうなんだよ。まぁ、ガネット会長はそういうところがあるからね。でも、あの人はとっても優しいんだ。後で怖くならない方法を教えてあげるよ」
「本当ですか?ありがとうございます」
ぱあっと、静かな笑みをアイラは見せた。カイレンも満足げに頷いて微笑み返した。
「でもその代わり、同い年なんだから私に対してかしこまらないこと。これは先輩として、魔願帝序列第一位としてのアイラへの命令だよ。わかった?」
カイレンの要求に、アイラはどこか嬉しそうな表情を見せた。
「えぇと、そうね。――あぁ、わかった。ってことで、おしとやかなアタシはここまでだ。さて、気を取り直して。これからよろしくな、カイレン!」
そう言って、気前のよさそうな威勢のいい声が廊下中に響き渡った。
――......えぇっ!?
驚愕のあまり心の声が表に出そうになった。
「ふふっ、やっぱりあれは外向け用の性格だったんだね。じゃあこっちもアイラに合わせて。――おぅよ!これからよろしくな、アイラ!」
「あぁ、よろしく頼むぜ!へへ」
そう言って二人は拳同士を突き合わせてにやりと笑ってみせた。まるで冒険者同士のやり取りのようだ。この光景に驚愕していたのはどうやら僕と男だけらしい。レイゼは特に驚いたそぶりも見せずに壁に寄りかかって目を閉じていた。
「――あぁ、やっぱり。俺の前でも余所行きだったんすね。どうりでスピルネル家の出身の割に物静かな子だなと思ったっす」
すると扉の奥からセノールが出てきた。どうやらアイラはセノールやガネットの前ではおしとやかなふりをしていたらしい。
「あっ、セノールさんだ。グラシアのパーティー振りですね」
カイレンは小さく手を振った。
「カイレン様も、エディゼート様も、って、ここはかしこまる必要はないか。二人とも、パーティー振りだけど元気そうで何よりっす」
そう言ってセノールは相変わらずの爽やかな笑顔を僕らに向けた。僕らを陰より支えてきたこの男は、事務作業だけでなくパーティーの司会者など幅広い活動をやってのける若きエリートだ。
――やっぱり、この人を見ると少し安心するな
そう思って僕は続けた。
「セノールさんが司会を務めてくれたパーティーのおかげもあって、僕たちは元気に開拓を進められています」
元気に二体の水龍を追い払って、元気に予定期間よりも早く魔物を殲滅させた。一週間ほど前の出来事だったが、どこか懐かしくも感じられた。
「はは、元気に開拓ね。二人の活躍は聞いたっすよ。なんでも魔力濃度が上昇して危険度が増した水龍を二体も撃退したらしいじゃないっすか。聞いた時はさすがに驚いたっすよ」
「ふふっ、エディと私のコンビの前ではどんな脅威だって立ちはだかることはできないんだから」
誇らしげな様子でカイレンは鼻を鳴らして腕を組んだ。その様子を、セノールは頼もしそうに笑みを浮かべながら見ていた。
「いいなぁ~。アタシも間近で見てみたかったなぁ。ねぇ、セノールさん。アタシを今度できるグラシア支部に籍を移してくれないですかねぇ?」
「あぁ、このディザトリー支部にこだわりがあるわけじゃなかったんすね。だったら多分だけどできるっすよ。もともとディザトリー支部は協会の総本部だけが置かれているようなものっすからね」
するとアイラはセノールの言葉を聞いて嬉しそうに「やったぁ!」と言ってカイレンの手を取った。
「これから生ける伝説と称されるカイレンとエディゼートの勇姿を間近で見届けられるだなんて。微力ながらこのアイラ、誠心誠意お二方のために尽くしたいと思います」
「はは、僕に対しても尽くしてくれるんだな。アイラ」
そう言って僕はアイラに手を差し出した。
「そうだぜ、アタシは強い存在が大好きなんだ。だからこれからよろしくな、エディゼート」
「あぁ。よろしくな」
そう言って僕らは握手を交わした。アイラの細くしなやかな手は、一部
「それで、後ろのお二方はどちら様っすか?」
するとセノールは僕らの背後にいるレイゼと男の様子が気になったようで声を掛けてきた。
「あぁ、私から紹介するね。――こっちの女の子はレイゼ。こう見えて、ディザトリーの冒険者ギルドの中でも随一の戦闘力を誇る期待の新人なんだ。もうすぐ行われる上級冒険者を対象とした魔願術師協会への特別試験を受ける予定だから、もしかしたらアイラの後輩になるかもね」
カイレンから紹介に与ったレイゼは静かに頭を下げて会釈した。
「おぉ、巷で噂の冷徹嬢レイゼがまさかこんな小さな女の子だったとは驚きだぜ」
アイラがそう言う通り、レイゼの背丈は小柄なカイレンよりも小さく、とても高い戦闘能力を秘めているとは思えない容貌だ。本人もそれを自覚せざるを得ないほど、冒険者たちから洗礼を浴びせられてきたと言っていた。
「どうも初めまして、未来の先輩そして職員の方。そのうち私もグラシアに行くつもりだから、その時はよろしくね、アイラ」
「あぁ、よろしく頼むぜ。レイゼ嬢」
にいっと、白い歯をむき出しにするようにアイラはレイゼに笑い掛けた。
「俺からもよろしくっす。もしかしたら、俺が研修期間中は補助職員として担当をすることになるかもしれないっすね。今は試験を頑張ってほしいっす!ぜひ、共に世界の平穏のために力を尽くそう!」
「はい、その時はお世話になります」
セノールはレイゼに熱いエールを送ると、レイゼは一歩下がって隣にいる男の方を意味ありげな眼差しで見た。まるで自分の次はお前だと言わんばかりに。
「ではでは~。続いてはお待ちかね、隣にいるこの人の紹介です。どこか、ある人と似ていませんか?」
そう言ってカイレンは僕を男の隣に並ぶように背を押してきた。そのまま無理やり隣に並ぶと、一同の視線は一気にこちら側へと向けられた。
「......髪色が似ているっすね。それに、背丈も。骨格は違うっすけど、心なしかどこか似ているような......」
「って、アタシの予想が合っているとしたらもしかして!?」
二人はカイレンの誘導にまんまと乗せられるように目を見開きながら僕らを見た。
「そう!実は実はの衝撃の事実。この人は隣にいるエディの弟にあたる存在。その名も――『アズラート』!」
すると男はカイレンの言葉を聞いて一歩前に出た。
「二人とも、初めまして。俺の名前はアズラート。――『見願』の英雄エディゼートの弟にして、同じく『見願』。そして『破願』を持ち合わせる――異端者だ」
男――アズラートは、一切の情報を包み隠すことなくそう宣言してみせた。
一同、理由は違えど、アズラートの言葉に驚きを隠すことができなかった。
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