第49話 第一次グラシア開拓作戦 6

 ――第一次グラシア開拓作戦三日目の早朝。日が昇り少しずつ気温が上昇していく中、日の光を側面から浴びるように僕とカイレンは上空で待機していた。


 既に西部と東部の人員の配置は済み、あとは開始の合図を待つだけだった。


 早朝の森の静けさは言うまでもなく、今か今かとその始まりを心待ちにしているようだ。


「――じゃあ、現時点を以って西部掃討作戦を開始するよ!エディ!」


 気の籠ったカイレンの声が響き渡る。


「あぁ、撃ち上げるぞ!――『閃光くらめ』!」


 カイレンの合図を引き金に、上空に向けて開始の合図を撃ち上げた。

 射出された眩い光の塊は徐々にその高度を上げ雲が滞留する場所まで辿り着いた。


「......よし、始まったな」


 するとその合図を引き金に、グラシアの樹海各地で土煙が立ち昇った。

 ゲテル、イリス、セントレッタの三名は、魔願樹の向かうように魔法を一清掃射した。

 突然の出来事に驚くように、木々の至る所から鳥たちが鳴き声を上げながら四方八方へと飛び去って行った。

 当然それは魔獣も例外ではなく、目を凝らすと先ほどまでは視認すらできなかった地龍や地を掛ける怪鳥の群れなどが走り去る様子が確認できた。

 開拓範囲内にいた魔物たちは狙い通り魔願樹のある方へと逃げ出していった。


「私たちも行こう」


「ああ」


 合図を出し終えた僕らは開拓範囲外縁に向かって二手に別れた。

 すぐさまカイレンは無数の『顕願ヴァラディア』を自身の背後に装填し、無差別に地上へと弾幕の雨を降り注いだ。


「――『氷穿つらぬけ』!」


 魔力によって形成された魔法陣を背後に展開。氷柱の弾幕を魔願樹側へと射出する。境界線上を横に滑るように移動しながら魔法を放つと、地上から微かに何かが騒がしく喚き立てる声が聞こえてきた。

 引き続きその手を緩めることなく、更に内側へと追いやるように魔願樹側へと進行していたった。


「――後方も騒がしいな」


 外側へと逃げ出した魔物の鳴き声だろうか、ラーカの狙い通り逃げ出した魔物は更にその先へと連鎖的に移動を始めた。

 引き続き、今度は木々の高さほどまで高度を落として偵察を始めた。

 一度にすべてを追いやってしまっては、魔願樹側で殲滅を担当する者たちへの負担が多くなってしまう。このことに留意しながら魔法を構えた。


 ――いた


 視線を向ける先、頭の位置を高くして周囲を慌てた様子で見渡す地龍を数体確認した。

 すぐさま急降下。両手に魔力を凝縮し、魔法の展開に備える。


「――『雷槍くらえっ』!」


 地龍に向かって急接近。轟音と共に両手から放たれた雷属性の魔法は地龍の頭部へと違うことなく着弾し、焦げ臭い臭いと共に地龍の首から上が弾け飛んだ。


「――!?」


「逃がすか!」


 近辺の生き残りは突然の襲来に四方へと逃避を試み駆け出した。

 すぐさま後方に展開した魔法陣を再編集し、弾幕を土属性魔法の仕様に変化させる。

 魔法陣をそれぞれ地龍の生き残りが逃げた先へと向け、吸収した魔力を注ぎ込み水龍の魔法装甲を貫通する威力の弾幕を叩き込む。


「――!!」


 凄まじい速度で射出された矢じり状の土魔法は木々を貫通しながら地龍の硬い体表を易々と突き破ってみせた。

 鳴き声を上げる間もなく、地龍だった肉塊はぼとりと音を立てて地面を転げた。


 ――次!


 再び円弧をなぞるように低空飛行を始める。

 木々の間を縫うように駆け抜けると、鼠等の小さな動物たちも慌てた様子で地上や木々の上へと駆けていた。

 住処を奪うことに対して少々心苦しさを覚えたが、心を鬼にして見ないふりをした。


「あれは......魔物か?」


 それらはどちらともとれる見た目をしていた。

 少し小高くなった場所に生えた大樹を囲うように、黒を基調とした人間の子供程の大きさの魔物が翼を大きく広げけたたましい声で鳴いていた。

 すると僕を敵と認識したのか、何匹もの魔物の翼が願力によって赤黒く光り出した。


「――っ!?――『聖盾まもれ』!」


 瞬間、風を裂くような半透明の斬撃が体の側面をすり抜けた。

 すぐさま防御壁を展開。何匹もの魔物から放たれた魔法は障壁と衝突すると地面に激しく打ち付けられたガラスのように散開していった。


「こりゃどうも!」


 展開していた魔法陣を全て消失させて、手先の魔力操作に集中する。

 魔物の攻撃を防御魔法と旋回行動によって回避しつつ、手をかざして炎を練り上げ、次第にそれは蒼白の様相で揺らめきだした。

 飛行する複数体の魔物に対して有効的な攻撃方法。――火属性最高の破壊力を誇る爆裂魔法、その灼熱と熱風による範囲攻撃だ。


 ――『破蒼』!


 自身が被弾することのないように威力を調整し、火球を魔物に向けて放つ。

 手を横なぎにすると放たれた青白い光の塊は一瞬にして上方へ到達。そして眩い光を放つと魔物の中心で炸裂した。

 轟音と凄まじい熱風そしてその風圧が一気に押し寄せてきた。


「っ、――『再生なおれ』」


 眩む視界と不自然な耳鳴り、そして体の内部をぐちゃぐちゃにされたような鈍い痛みを回復魔法によって即刻治す。

 魔法は見事に魔物たちを一掃してみせたが、その余波は近くにいた僕にも十分に伝わっていた。


 ――次だ


 休む間もなく僕は飛び立った。


 その後も幾度となく魔物を追いやっては倒しと繰り返した。

 生息域上、この地には地龍と怪鳥、そして黒羽の魔物以外は見当たらなかった。

 どの魔物も地脈異常の時とは違い暴走状態でないため、身の危険を感じるとすぐに逃げ出し、間合いに入ると立ち回りを考えているように攻撃や回避を行っていた。

 非常に厄介だ。まさか本来の魔物相手はこれほどまで手ごわいものだったとは。


 それでもただひたすらに魔物を狩り続けていった。




――――――




 ――どれほど時間が経ったんだだろうか?


 気づけば山際から顔を出していた太陽は高くまで昇っていた。

 ある程度魔物を追いやったり駆除したからだろうか、遠くから聞こえる魔法の音以外魔物の気配を感じることはなかった。その静けさからか、途端に喉の渇きを覚えた。

 まだ完全に昼ではないが、それでもかなりの時間が経過していた。


 ――『創水』


 指先より生成した水の塊を口の中へと放り込む。

 生ぬるい水は張り付きそうだった喉を潤し、心なしか気分が少しばかりよくなった気がした。


 ――距離的には......ここら辺か


 地図を取り出して現在位置を確かめる。

 周囲の景色から推測して、作戦範囲外縁と魔願樹の丁度中間辺りまで来ていることがわかった。


 ――皆の様子が気になるな


 心配はなかった。何せグラシア特別区に集結した最高戦力たちだ。それに冒険者であれば僕よりも魔物との戦闘に慣れているはずだ。そのおかげで自分の役割に専念することができていた。


「お、あれは」


 近くから連続で地面に投射物が突き刺さる音が聞こえた。


「おーい!」


 その存在に向けて掛け声とともに手を振った。


「あっ、やっほー!」


 呼びかけに気づいたのか、僕が見逃していたであろう魔物を駆除したカイレンが手を振って返事をした。

 するとカイレンは空中を流れるように移動し、僕のもとへと駆けつけてきた。


「そっちは順調か?」


「うん!命を懸けた追いかけっこは楽しいね」


「......魔物が聞きでもしたら身震いするぞ」


「へへへ」


 物騒な言葉とは裏腹に、カイレンは疲れた様子を一切見せずに笑っていた。

 昨日の作戦会議の時点でカイレンは前衛に割り振られていたが、魔願変換による消耗が最も少ないという理由から魔法による遠距離攻撃を担当することになっていた。


「それで、どうする?一緒に狩りでもするか?」


「お、私も丁度そう言おうかなーって思ってたんだ」


 そう言ってカイレンは背後に装填していた『顕願ヴァラディア』の弾丸を二つに凝縮し、一対の双剣を創り出した。


「それならなら決まりだな。というか、その双剣ってもしかして」


「そう!昔おじいちゃんの真似をしてたら戦い方を教えてくれたんだ」


「あぁ、だから接近戦が得意だった訳だ」


 ようやく合点がいった。確かに元十二武願だったジルコが身近にいるとなると接近戦の心得を習得する機会があって当然だ。

 それにしても、今までカイレンは一度たりとも接近戦を行ってこなかったので、その戦いぶりが少々気になるところだ。


「ふふっ、エディは私の弟子のアベリンとベリンデについていけたようだけど、私はどうかな?」


「なに、問題ないさ。僕はカイレンの助手パートナーとして、そして婚約者として一生を共にすると決めてるんだ。これくらい、なんてことないさ」


 僕を試すような言葉と共にいたずらな表情を浮かべるカイレンに自信をもって言い返す。

 準備を整えるために魔力を手の内に集中させ、いつでも魔法を放てるようにイメージを完成させた。


「嬉しいことを言ってくれるねぇ。ふふっ、その心意気やよし!カイレン・ゾーザナイト、只今よりエディゼートと共に殲滅行動を再開します!」


「あぁ、いくぞっ!」


 僕の掛け声が最後となり、カイレンは宙を舞うことなく、だが極めて軽快に木々の隙間を駆け抜けていった。

 その背後を捉えるように僕も続いた。


「このまま奥にいるみんなのとこまで行こう!相当な数の魔物を追いやったから、まだ数は残っているはずだよ」


「了解」


 ここら周辺には魔物の姿が見られなかったが、少しずつ何者かが戦闘を繰り広げる音が聞こえだした。徐々に木々の密度は低くなり、視野が確保できるようになってきた。

 すると正面、『最強男児』の三人が十体以上の地龍の群れと戦闘を行っていた。


「――加勢するよ!――『瞬動デューザ』!」


 カイレンはそう唱えると双剣を構えて急加速。一気に地龍と間合いを詰めて身を翻しながら刃を振るった。

 『破願』の願力特性を滲ませた願力を強固に練った『顕願ヴァラディア』によって為された連撃を前に、地龍は一瞬にして切り刻まれ肉塊へと変貌した。


「おっ、ありがてぇ!にしてもやるじゃねぇか!」


「へへん!言ったでしょ?私は接近戦が得意なんだって」


 ジニーの言葉にカイレンは得意げそうな調子で答えた。

 両者は会話をしつつも、攻撃の手を緩めることなく次々と地龍を薙ぎ倒していった。


 ――さて、僕もやるかっ!


 その様子に感化されるように大地を一気に蹴り上げて地龍と距離を縮める。


「――『雷槍くらえっ』!」


 手の内に充填した魔力を地龍の頭部に向けて一気に解放。青白い光と共に放たれた雷撃魔法を前に地龍の頭部は爆ぜるように弾け飛んだ。


「うおっ、びっくりした!なんだその魔法はよぉ!?」


「すまないジニー。でもこれが一番楽に地龍を倒せるんだ」


「はぁ、にしても雷まで扱えるんか、すげぇな『見願』って。おっと、――『瞬動デューザ』!」


 ジニーは背後から爪を振り上げてとびかかってきた地龍を難なく回避すると、瞬間的に短距離を駆け抜け地龍の首を『顕願ヴァラディア』によって生成した長剣によって切り落とした。

 背後にいるバレッタやローレルも近接武器を振り上げて地龍を殴殺していった。


「いやぁ、すっげー楽に片付いた!ありがとな二人とも!」


 気づけば周囲にいた地龍は全て倒れていた。五人もいるとなるとその対処はあっという間だった。


「へへ、お安い御用だよ。どうかな、私も『最強男児』に入れるかな?」


「あぁ、カイレンちゃんの男気溢れる姿に思わず男を感じちまったぜ。今日から『最強男児』を名乗ってもいいぞ!」


「やったー!」


 性別の垣根を超えてカイレンは『最強男児』を名乗ることが許された。なんとも言い難い感情が芽生えたような気もしたが、気のせいだろう。


「それにしても、ジルコさんそっくりだったな」


「そうだよ。何度も見て真似してきたからね」


 カイレンの太刀筋にはジルコを彷彿とさせるものがあった。

 刃を振りかざした後の隙を無くす動作や、身を翻した際の体重のかけ方などが一致していた。


 ――なんだか嫌な思い出が甦ってきたなぁ......


 思えば目覚めてから二日後の時点でなんの断りもなしにジルコと決闘をする羽目になっていた。その甲斐あって魔願術師協会にすぐに所属することができたのは否定できない事実なのだが、あの時は少しばかりカイレンを恨むこともあった。


「それじゃあエディ、次の人に会いに行こう」


「お披露目会、って訳だな」


「うん!」


 昨日の会議の時点で何人もが接近戦をするカイレンを見てみたいと言っていた。

 カイレンも早く皆に見せたいとうずうずしていた。


「ってことで、僕たちは行ってくるよ」


「ああ!みんなにも見せてこい!」


 ジニーはそう言って遠ざかる僕らに手を振った。


 ――こうして僕らは魔物の殲滅をしつつカイレンのお披露目会をしに樹海を駆け抜けていった。




――――――




「あっ、イリスちゃんはっけーん!」


「ん?その声は......」


 北側に向かって進んでいると、小高くなった地形に生えた大木の枝の上に立つイリスの姿を見つけた。

 するとカイレンは魔法を使うことなく願力によって強化した身体能力を駆使して駆け上がっていった。

 僕も後に続くように飛行魔法を発現して二人のもとに向かっていった。


「えっ、それにしてもカイレンちゃんってそんな速く動けるんだ......」


「何だか今は走りたい気分だからね。そう思ったらつい、へへへ」


 僕もイリスと全く同じことを考えていた。


 普通の人間は跳躍から幹を一蹴りしただけで大木の頂点付近まで登ることはできない。明らかにカイレンの動き方は異常だった。


「やぁ、イリス。そっちの様子はどうだ?」


「とりあえずある程度の魔物は追いやったから、後はここから狙撃しているわ。――あ、見つけた」


 するとイリスは右手を突き出して左手で左目を隠すように覆った。瞬間、イリスの周囲に凄まじい量の願力が渦巻いた。


「――『顕願ヴァラディア』」


 イリスの詠唱によって、青白く光り輝く願力の弾が指先に装填された。その大きさは小瓶ほどで、形状は先端が鋭利なものだった。


「――、ふぅ」


 狙いを定めるように一呼吸置くと、一発の弾丸の周囲に願力が満ちた。

 次第に弾丸は高速で回転し、力を籠めるように願力の光を放った。


「――『瞬射デューゼ』」


 イリスが静かに詠唱すると、蒼白が一閃。弾丸は目にも止まらぬ速さで空中を突き抜けていった。その速さは視認できるものでなく、気づけば遠くの方で土煙が木々の高さほどまで上がっていた。


「当たった?」


「ええ、地面ごと吹き飛んだわ」


「おおっ!すごい......」


 僕らには見えないが、一般的に視力がいいとされている長耳族のイリスには着弾の様子が見えていたらしい。

 たとえ狙いを外したとしても、あの威力の魔法を撃ち込まれたらひとたまりもないだろう。たった一発で土煙があそこまで高く昇るほどの威力の魔法は、今まで一度も見たことがなかった。


「今のイリス、とてもかっこよかったな」


「そ、そうかしら。へへ、でも二人に比べたら大したことじゃないわ」


 イリスはそう謙遜したものの、僕の目には絶対に真似できない超遠距離攻撃をやってのけたイリスがかなりの実力者として映った。


「私はさすがにあの距離は無理かなぁ」


「僕も、射程はあるけどあそこまで正確な射撃はできないな」


「何だかグラシアの英雄の二人からそう言われると恥ずかしいわね。ふふ、でもありがとう」


 そう言ってイリスは再び標的を見つけたのか手をかざした。集中したその横顔は凛としており、話しかけるのすら躊躇われるような様子だった。


「それじゃあ私たちはここを離れるね」


「わかったわ。カイレンちゃんの戦いっぷり、ここから見てたから。すごいわね、本当に」


「えへへ、ありがとね。それじゃあまた後で」


「またな」


「うん、また後ね」


 イリスの邪魔をしないように僕らは地上へと降り立った。




――――――




 カイレンのお披露目会はその後ミリカナ帝国支部の魔願術師二人組、『玉砕命令』の三人組と続いていった。


 皆カイレンが想定以上の動きを見せるあまり目を丸くするように驚いてみせた。一番カイレンの戦いっぷりを楽しみにしていたゲテルは終始興奮した様子で魔物を薙ぎ倒すカイレンを眺めていた。それを見たバーゼンに何度手を止めるなと注意されていたことやら。


 『玉砕命令』の面々もカイレンの実力を認めたのか、ラーカによるパーティーへの勧誘があった。だがカイレンも僕と同様で、「私はエディと一緒にいたい。エディが冒険者になるんだったらいいよ」と言って断った。すると再びラーカは僕をパーティーに勧誘してきたが、魔願術師として活動する方が性に合っていると思ったので二度目の断りを入れた。


 そんなこんなで三日目の殲滅作戦は日が傾くまで続き、なんと総勢たったの十一名だけで西部の魔物を確認できる範囲で全て狩りつくすことに成功した。


 そしてその日の行動をすべて終えた僕らは今、東部に構えられた拠点に向かって移動していた。


「はぁ、疲れた疲れた」


 ゲテルはそう言って伸びをした。

 その他の面々も同じ様子かと思いきや、冒険者一同は疲れた様子も見せずに満足のいった表情で歩いていた。その肩には袋が担がれており、中には今日狩った魔物の素材がたんまりと詰められていた。


「いやぁ、大量大量」


「ちょっとラーカ、俺だけ持つ量おかしくないか?」


「あぁん?か弱い女の子を前に同じことが言えるのか?」


「少なくとも、お前に対してははっきりと言えるわこのデカ女」


 小柄なバルトレッドは重たそうに素材が詰められた袋を背負っていた。


「ま、今日の格付けは俺たち『最強男児』の勝ちってことでいいな?」


 そう言ってジニーはパーティーメンバー全員が背にした袋を指差した。

 どうやら今日の格付けは討伐した魔物の数によって行われていたらしい。


「私らは価値のある魔物の素材しか詰めてねぇよ。後で精算でもしてみろ、こっちの方が高くつくはずだ」


「はっ、負け惜しみか?弱い奴は己の負けを認められねぇってわけか」


 ぎゃいぎゃいと冒険者同士の会話が後方から聞こえてきた。


「えーと、そこのうるさい金髪さん。百二十六対七十一で私らの勝ちだから負け犬は静かにしといてー」


「なっ!?なんでお前覚えてるんだよ......」


「うるさい金髪さんがうるさいせいだよー」


 セントレッタはジニーの勢いを封じ込むように呆れた様子でそう言った。


「ま、とにかくみんなの頑張りで今日を終えられたんだ。みんなお疲れ様ってことで引き分けでいいんじゃねぇか?」


 そう言ってゲテルはジニーの肩を叩いた。


「ふん。まぁ、魔願術師ディザイアド様がそう言うのなら仕方ねぇな。せいぜい感謝するんだな」


「と言うか、この格付けって勝手にジニーだけが始めたやつだろ。俺たちだけじゃなくパーティーメンバーも巻き込むなよ」


「いいんだ。クレウルムがいない間は俺がリーダーだ。俺の意見はパーティーの総意ってわけさ」


「......あんたらも苦労してるんだな」


 バルトレッドはそう言ってバレッタとローレルを憐れむように見た。二人も思うところがあるのか苦笑いしていた。


「さて、そろそろ着くぞ」


 バーゼンがそう言うと、小高くなった場所に広がる平地に設置された天幕が見えてきた。


「腹減ったなぁ」


「丁度いいころかもな。あそこから湯気が立ち昇っている」


 空腹宣言をするゲテルに対して朗報とばかりにバーゼンは一つの天幕を指さした。

 心なしか、その様子を見ると僕もお腹が空いてきた。

 昼は携帯補給食しか口にしていなかった。それに加えて一日中動き回っていたため体は栄養を欲していた。


「あぁ、待ちきれねぇ!俺先に行ってくるわ、――『飛翔イアルヴ』!」


「おい、待て!......はぁ、本当に俺より年上なのかあいつは」


 一足先に飛び立っていったゲテルをバーゼンは呆れた表情を浮かべて見ていた。

 すると後方にいた冒険者たちも足早に僕らを追い抜かして拠点の方へと向かっていった。


「へへ、愉快な人たちがたくさんで楽しいね」


「そうだな。はは、本当にそうだ」


 夕日の橙色に染まり上がった斜面を登りながら、僕とカイレンらはいい匂いに誘われるように拠点を目指した。



 ――こうして、第一次グラシア開拓作戦三日目は無事終了した。


 今晩の献立は地龍のテールステーキで、皆腹がはち切れんばかりの勢いでかぶりついていた。

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