第30話 それぞれの後日談
《エディゼート一行》
【――この世界に最初の魔願樹が誕生してから千と二百十一年。数えて十三番目となる魔願樹が、グラシア東部に発生した。願人の調教並びに願魔獣討伐に四名の魔願術師、二名の冒険者が対処に当たり、任務を完遂させた。その一行は―― 】
「......あれ、四と二って、足し合わせたら六だよな?僕たちって、七人だったよな?」
「そうだけど、まぁ、仕方ないよね。上層部にも、事情があるだろうからね」
「......まぁ、そうだろうと思ったけどもさ。ここでもそうなのか......」
カイレンに同情されながら煎り豆に手を出す。
カリッ―― と香ばしさと歯ごたえを堪能し、それをよく冷えた葡萄のジュースで流し込む。
「......はぁ」
あの慌ただしい出来事から三日後。僕たちはディザトリーの酒場で夕食を食べていた。
僕らの任務での活躍は瞬く間に世界中に広まり、今ではどこの吟遊詩人たちも僕らの根も葉もない着色されまくった英雄譚を饒舌に歌い上げている。
しかし、その英雄譚に共通していることが一つある。――それは、どの話にも僕の存在が出てきていないのだ。
別に、頑張ったのに誰も僕のことを話してくれないことに対して不満があるわけではない。仕方のない事情があることくらい、僕も十分わかっている。
「それにしても、まさか魔願術師協会の上層部がエディの公開をどうしようかあれほど悩んでいるとはね」
エイミィはそう言うと小魚の揚げ物をぱくりとつまんだ。
エイミィが言っていたことのように、僕の存在というのはどうやらあまりにも扱いにくい状態になっているらしい。
それもそのはずだ。突如として現れた『見願』という存在。そして魔願術師協会に所属して間もない戦闘員の研修生がグラシアでの出来事に大きく関与しているとなると、見えないところでの対応に追われることになるだろう。例えば、研修生を重要な任務に同行させた際に発生する責任を誰がどう負うつもりだったのか、今回のような特例を許可してよいのだろうかなど、思いつくものだけでもかなりの数になる。
現にガネット会長はその対応に追われているらしいが、このようなことはカイレンが魔願術師協会に所属した時にもよくあったらしく、「こうなることは予想していたが、カイレンほどではない。だからエディゼートが心配することはない」と、協会本部で出会ったときに言っていた。
「この状況だと、私が所属できるのは少し先の話になるのかなぁ」
レイゼは椅子の背もたれに寄りかかり、手にしたコップの中のジュースに反射して映る自分の姿をボーっと眺めていた。
レイゼは僕たちがディザトリーに帰還するのと同時に、城門の前で待っていた。
どうやら僕たちが帰還する頃合いを見て、この酒場の一番目立たない死角となる席を確保してくれていたらしい。
おかげで騒ぎになることなくゆっくりと落ち着いて食事をすることができていた。
帰還してから既に一日が経過しているが、カイレン達が成し遂げた偉業に熱を上げる群衆が後を絶たないせいで安らぐ暇がなかった。
宿にいるよりも、こうした元から騒がしい場所にいる方がましだ。そう思えるくらいには、外の様子はすさまじかった。
「作戦本部はエディが『見願』と知ったらあっさり同行を許可したのに、なんで今更くすぶっているんだろうねぇ。早く私のエディのすごさを世に広めたいのになぁ......」
本当に、その通りだ。確か、イグロットという男だったか。あの場では一番偉い人のような気がしたが、作戦中とそれ以外とでは対応が違うのだろう。
前代未聞レベルの被害規模が想定されていたらしいから、藁にも縋りたくなるほど戦力が欲しかったのだろう。
――でも、もう終わったことだ。後のことは、その時の自分に任せてしまえ
「まぁ、あれだ。僕たちは頑張った。だからこれからのことはまた後で考えて、今は腹がはち切れるまで食べよう!」
「「うん!」」
全員の元気のいい声と共に料理がぞろぞろと運ばれてきた。
これからのことについての考えは、大量の料理の前であっさりと掻き消えた。
僕たちが潜伏している事情を知らない店員に見つかったせいで、結局落ち着いて食事ができなかったのはまた別の話。
――――――
《クレウルム》
――俺は納得がいってない。こればかりだ
今思えば、よくわからないままに、よくわからないことが起き、よくわからないうちに任務に当たっていた。
グラシア周辺が危機に陥ることなんて馬鹿げた話だと思っていた。
もともと、あんな誰も住んでないような魔境がどうなろうと知ったこっちゃなかった。
でも俺は運の悪いことに、グラシア周辺の人間だ。おまけに俺は自分のいる国で一番強い奴ときた。
冒険者気分で魔獣を薙ぎ払った。願魔獣もだ。
何が世界の危機だ。こんな暴走した木っ端の群れ相手に大げさだ。大抵の魔獣は、俺の魔法に反応を見せるまでもなく切り殺されている。
――退屈な考えは、あいつを見て首を引っ込めた。
気味の悪い魔法に、気味の悪い性格。なんだあれは。何もかもが根本的に違うせいで、そいつを否定したくなる気力すら湧かなかった。
あんなに強いのに、『見願』であるのに、あいつは俺たちに合わせようと遠慮していた。心底腹立たしかった。
でも、今の俺はあいつに対してそこまで悪い印象は抱いていない。
俺ももう大人だ。他人の事情を察することくらいできて当たり前だ。
「......」
――俺は、何に納得がいってないんだ?
わからねぇ。
ああ、でもあれだ。今わかった。
あいつのおかげもあって成し遂げられたことがあったのに、あいつの名前を誰も口にせず、誰もあいつのことを褒めていないことだ。
何だか手柄を横取りしているみたいで気分が悪い。
周りのやつらは俺のことをひどく褒め称えてきた。最初は気分が良かったさ。でも、あいつのことを思い出す度に段々と、段々と――。
「―― い。おい、坊主。聞こえているか?」
「......あぁ?」
いてて、体が痛い。頭も、じんじん痛い。くそ、酒場のカウンターなんて狭い場所で居眠りしてたとは。今は、何時だ。
「何度も言わせやがって。そろそろ閉店の時間だ。英雄様になった坊主なら、俺が言いたいことくらいわかるよな?」
「......うるせぇ、わかんねぇ。まだ、まだ俺は―― 」
――えっ、空?浮いてる?
気づけば、俺の身体は宙に飛んで酒場の外へと放り出されていた。
「ぐぁっ!いってぇーっ!?」
「ふん。坊主、お前がどんなに偉い人になろうと、この店の中では俺が絶対だ。わかったならさっさと宿にでも帰りな」
この野郎。ガキの頃からの付き合いだからっていつまでも――。
「ん、そうだ。忘れていた。―― 坊主、少しそこで待ってろ」
「あぁん?なんだよ、出ていけだの待ってろだの......」
ちっ、俺の言葉を聞くことなく中に行きやがって。
「くそ......頭がいてぇ」
あいつら、俺を置いて先に帰りやがったな。今頃ぶさいくな寝顔をさらしているって考えるとムカつく。
「―― おい、坊主」
「あん?なんだよすぐ出てきて......ん、これは?」
何かを投げつけられた。何だろう、これは。
「っ!?......おい、これって!」
「ああ。坊主、お前にやる」
「でも、これは......」
ぼろ衣に雑に包まれていたのは、店に何気なく飾られていた古龍の鱗だった。
龍の鱗と言えど、その大きさはこぶし程度。だが、それは朝日に照らされて七色に光り輝いていた。
古龍種の、さらにその上位種である白龍からしか入手できない貴重な素材。しかも、生え変わって間もない柔らかい状態で本体から切り離されないと手に入れることのできない上物。
ガキの頃、どんなにねだってもくれることのなかったものが今、この手の中にあった。
「なんで今更これを俺に?」
「なんでって、簡単な話だ。その鱗は、所有者に対して欲しいと言ってきたやつが、渡すのに十分な価値があると所有者が見込んだ時に渡す。そうやって受け継がれてきたものだからだ」
「......えーと。なんて?」
とりあえず、すごいことをしたやつが受け継ぐことだけはわかった。
「まぁいい。とにかく、俺はこれを坊主に渡すに十分だと思った。それだけだ」
「いや、でも......なんで俺が魔願帝になったときにこれを渡さなかった?」
本当に、なんでなんだ。
「ああ、それはだな坊主。―― 俺はお前がその程度で満足することなく、より高みを目指せると信じていたからだ」
「......は?」
なんだよ、いきなりそんなこと言ってきて。気味が悪い。
「願魔獣くらい、今までいくらでもぶっ殺してきた。この前のだって、やってることはあまり変わってない。でも、なんで......」
「俺の故郷を、救ってくれたからだ」
「......え?」
――このジジイの、故郷を?
「ニグルスという、小さな村だ」
「えっ、あそこが故郷って聞いたことねぇぞ?」
そういえば、このジジイは全く自分の話をしてこなかった。
しかし驚いた。まさか、いつの間にかこのジジイの故郷を救うことになっていただなんて。
「子も、孫も、皆あそこで今も暮らせている。―― 坊主。いや、クレウルム。ありがとう、私の思い出と大切なものを守ってくれて」
「お、おい。よせ、いきなりこんな頭を下げて。気味が悪いぞ......」
俺がそう言うと同時、ジジイは頭を上げて背を向けるように店の中へと向かっていった。
「今の俺は気分がいい。だから、お前らが暴れた分の修繕費と代金はチャラにしてやる。だから、とっとと失せな」
そう言って、ジジイは扉をパタンと静かに閉めた。
「......な、なんなんだよ」
ふと、手にした鱗が目に映る。
試しに、朝日に照らしてみた。
「......おお、やっぱり綺麗だ。あの臭い酒場に置いとくのがもったいないくらいだ」
しかし、なんだ。気味悪いと思ったが、不思議と今は悪い気分じゃない。
頭も体も痛い最悪の状態なのに、不思議だ。
「ふあぁ~。ねみぃ。とっとと帰ろ」
早く泥みたいに眠って、すっきりしたい。
その考えを第一に、それ以外何も考えず鱗を見て宿に向かった。
――――――
《ベリンデ》
今日のディザトリーの冒険者協会の広間は大盛り上がり。何てったって、今回の地脈異常の報酬が配布されるからだ。
暴走した魔物たちの被害は、あたしたちが行っていた前線だけでなく四方あらゆるところまで及んでいたらしい。
上位の冒険者ともなると、飛行魔法が使える人がいる。
―― エディゼートさんがいなかったらあたしたち、何もできなかったなぁ
空を飛んでみたい。昔からの夢だったけど、今なおできる気がしない。
だから飛べなくても飛ぶように駆けるように魔法を練習した。
他の皆はすごい。でも比べていたら自分のことが嫌になっちゃう。だから考えないで自分の思うように生きよう。――お姉ちゃんの言葉だ。
そんなお姉ちゃんはというと、真っ先に報酬を受け取りにカウンターの最前列を陣取っていた。普段は朝なかなか起きないけど、今日は特別早かったなぁ。
「おーい!ベリンデ!」
人ごみの中からお姉ちゃんの声がした。
最近身長が伸びてきているけど、まだまだ他の人よりちっちゃいんだな、あたしたち。全く見えないや。
「お姉ちゃん!こっちだよ!」
「あっ、そっちにいるんだね!待ってて―― とうっ!」
掛け声とともに、お姉ちゃんは人ごみをぴょんと軽々飛び越えた。
「もう、お姉ちゃんもそろそろ大人らしい振る舞いを心掛けた方がいいよ?」
「ん?いいのいいの。縛られず、自由気ままに生きていけるようになったんだから」
「今までも変わらないようなぁ......」
そんなことよりも、今は報酬が気になる。
「おっ、白牙の英雄様たちじゃないか!」
「人ごみに紛れてて気づかんかったわ!それで、英雄様はいくらもらったんだい?」
少し人気の少ないところに出たからか、あたしたちを見つけた人たちがぞろぞろと集まりだした。
「まぁ待ちなよ!今から机の上に広げるね!どれどれ......」
そう言いながらお姉ちゃんは袋の紐を解いて中身を机の上に広げた。
「えっ!?うそぉ!」
「......どうしよう、お姉ちゃん」
金貨が、金貨が、数えられないほど、入っていた。
「えっ、あっ、あわわわわわわわわわわわわわ」
「お、お姉ちゃん!しっかりして!」
どうしよう、お姉ちゃんが壊れちゃった。
周りにいる人たちも、すごい顔をしている。
「どうしよう、お姉ちゃん。これだけあればあたしたちの拠点が買えたり......」
「ふふっ、ベリンデ。それは違うよ」
「......え?もしかして、またいつもみたいに......」
急に正気を取り戻したお姉ちゃん。
何をするのかと思って見ていると、報酬を袋に戻して広間を一望できる中央の階段へと駆け上がっていった。
「はぁ......。貯金しようと思っていたのに」
――こうなるとは、わかりきっていた。そう、お姉ちゃん曰く処世術とやらをするつもりなのだろう。
「......すぅ。―― みんなぁーー!!聞いてぇーー!!」
突如として叫び声をあげたお姉ちゃんに、視線が一気に集まる。
喧騒に包まれていた広間はしーんと静まり返った。
「なんだか!すっごいお金が手に入ったから!今晩は!皆で!ここに集まろう!」
お姉ちゃんの言葉は建物中に響き渡った。
その反響は、すぐに喧騒となって耳に届いた。
「うぉーっ!さっすが!英雄様!」
「ひゅーぅ!懐もホクホクで!」
「やったー!今日は英雄様の奢りだぁっ!」
もはやこのギルドの名物となった、報酬の分配会。
あたしたちが装備を新調できていないのも、あまりいい宿に泊まれていないのも、上級冒険者にもなって馬車を持ち合わせていないのも、全部このお姉ちゃんの振る舞いのせいだ。
――でも、あたしはお姉ちゃんの行動が間違っているとは思わなかった。
右も左もわからないまま冒険者となったあたしたちを導いてくれたのは、いつだってお姉ちゃんの気前のいい振る舞いだった。
冒険者になって最初の頃は、新入りのガキのくせにポンポンランクを上げやがってと、あたしたちのことをよく思っていない人たちの声の方が大きかった。でも、お姉ちゃんは立ち回り方が上手だった。
今日のように、本当は貯金をしなくてはならないはずなのに、あたしの居場所を作るために考えてお金を使ってくれていた。
あたしたちは二人でいればどんな困難も乗り越えられる。だからあたしはベリンデを信じるし、ベリンデもあたしのことを信じてほしい。――初めてのクエストに出発する前に言った、お姉ちゃんの言葉だ。
あたしたちが英雄様と言われるほどの活躍ができたかと聞かれると、素直に首を縦に振ることはできないかもしれない。もちろん、あたしたちよりも強い冒険者は数えきれないほどいる。でも、こうして誰からも直接的に嫌な顔をされないのは、お姉ちゃんのおかげ。
「はぁ。まったく、お姉ちゃんったら」
調子に乗るように、報酬の入った袋をじゃらじゃらと鳴らすお姉ちゃん。
皆は興奮するようにお姉ちゃんをおだてている。
――今晩は、カイレン様やエイミィ様、それにエディゼートさんは予定がないのかな?
今日はお昼を食べるついでに、宿の方にも寄ってみようっと。
――――――
《アベリン》
「はぁ......」
あまり寝心地のいいとは言えないベッドに横たわり、天井を見上げる。
今までで一番、ベリンデのお姉ちゃんになるのが大変な数日間だった。
何がどういうわけで、ただの冒険者であるあたしたちがこんな大事に巻き込まれることになったのか。
冒険者を生業としておきながら、ベリンデには危ないようなことをさせたくなかった。でも生きていくために必要だと考えると、断ることはできなかった。
――ベリンデのお姉ちゃんだったら、きっとこのような選択をするはずだ。
もう、どっちのあたしが本当なのか、いよいよわからなくなってきた。
今になって、無意識にあたしはベリンデのお姉ちゃんになることができる。こっちの方が、いろんなことがうまくいくからだ。
「......」
――あたしたちを捨てた親は、今頃どこで何をしているのだろうか
絶対に忘れない。
「......ふふっ」
出来損ないと、産まなきゃよかったと散々言い聞かせてきた娘たちは、今となっては英雄様だ。それを知ったら、どんな顔をするのだろう。いや、どんな顔をしてたのかも思い出したくない。
――いけない。ベッドに横になるといつも暗いことを考えちゃう
それはベリンデのお姉ちゃんがしないことだ。いつだって、明るく元気であるべきだ。
「......」
ふと、少なくなった報酬の金貨が入った袋が目に留まった。
ベリンデは、昔貯金がしたいと言っていたが、最近はあまりしなくなった。
なるべく安定した生活をさせてあげたい。それはあたしも重々わかっている。
――でも、金は悪だ。溜め込むだけ、よくないことが起きる。
冒険者のような、常に危険が付きまとう業種において、大金を持っているという理由だけで殺されることなどよくある話。
そして、あたしたちを捨てた親もまた、金に溺れて破滅していった。
あんな風にはならず、常に生きるために必死でいてほしい。
「......」
――なんであたしは、こんなことを考えているのだろう
ガチャリと、扉が開く音がした。
「あっ。お姉ちゃん。ここにいたんだ。珍しいね、夕食前にベッドで横になっているだなんて」
「―― ふふっ。なんてったって、今晩はあたしたちの活躍を称えるパーティーだからね。お昼寝をしとけば、夜更かしできるからね」
「もう。別に夜遅くまで起きている必要はないのに......。それじゃああたしは先に会場に行ってるね。遅れないようにね!」
そう言って、いつもより上機嫌なベリンデは部屋を後にしていった。
今晩は魔願術師協会主催の祝賀パーティー。特に何も考えなくとも、ベリンデのお姉ちゃんはできるだろう。
「―― よしっ!それじゃあ行こうか」
あたしをあたしたらしめる白のバンダナを首に巻く。
ふふ~ん。今日はどんな料理が食べられるのかなぁ。
ここ数日は、楽しみがあって嬉しいね。
――――――
《アレザトリエ》
「いやぁ、どこを歩いても声を掛けられるから大変だよぉ」
あの一夜のせいか、僕の周りは人だらけで大変だ。
帰還してから出席しないといけない用事ばかりで、あちこち忙しく顔を出さなくちゃいけない。
本当に、大変だ。
こうして落ち着ける屋敷に戻ると、余計にそう感じちゃう。
「左様でございますか、ご主人様。よろしければ、私を――」
――もふっ。
「ふふっ、やっぱり可愛い子は最高だ」
この時期の白い狐っ子の尻尾は最高だ。
有翼種の子もいいけど、獣人種の子の尻尾もいい。細長くてすべすべしたのも、綿毛のようにふわふわしたのも、どれをとっても格別だ。
僕の好きなものを集めたこの屋敷。好きなものを集めるために頑張ってきた、努力の証。
今回の任務のおかげで、より一層この屋敷が僕の好きなものでいっぱいになりそうだ。
両脇に、可愛い子が二人。一人は少しお堅い様子の狐っ子で、もう一人は静かだけど嫉妬深い黒猫ちゃん。
「あの子たち、元気にしているかなぁ」
「むぅ、私以外の子ですか?」
ぐりぐりと、黒猫ちゃんが頭を僕に擦り付けてくる。
「すぅー、はぁ。いい匂い」
「もぉ、主様ったらいつもそうやって誤魔化す」
ぽんぽんっと、二人の頭を撫でる。
――しかし、なんであの二人はあそこまで可愛いと思ったんだろう
ここにいる子たちも、とびきり可愛い子ばかりだ。しかし、アベリンちゃんとベリンデちゃんの二人だけは、何故だか違った。
――彼女らは、一体何が違うのか......あぁ、そういうことだ
わかった。
ようやく理解した。僕が求めていた可愛さが。それを引き出すための、最高のスパイスが。
「ご主人様?もう外へ?」
「ん?主様?」
「ねぇ、二人とも。僕、気づいちゃったんだ。この世の可愛いものが、より可愛くなれる最高の武器を」
――そうだ。可愛さは、そのギャップがあればあるほどいいんだ!
この子たちにも、きっと同じことが言えるはず。
「さぁ、行こう!他の皆も連れて、一緒に特訓だ!」
「ご樹人様の命とあらば」
「よ、よくわからないけど、今の主様は楽しそうだね」
僕の好きなものを集める長い旅路は、新たな段階へと進んだのだ。
「あははっ」
――アレザが鍛えた少女たちが街の自警団となるのは、また先の話。
アレザのコレクター道は、まだまだ始まったばかりだった。
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