第25話 心機一転

 上空から地上へ、そして横から横へ。


 正面に手を重ねるアレザから放たれた純白の一閃の前に、立ち塞がるものは何もなかった。いや、立ち塞ぐことができるものがあるのだろうか。

 エイミィの魔法よりも先に、アレザの一撃が願魔獣を『聖盾』越しに貫いた。

 願魔獣は後部から胴体の前方にかけて一直線に貫かれると、周囲に展開していた『聖盾』を解除した。


 ――そこに間髪入れず叩き込まれる崩壊の強制。


 離れた場所からでも内臓が破裂しそうに感じるほどの衝撃波が、願魔獣を打ちつける。


「っ――!?」


 願力抵抗ができていないのか、エイミィの魔法の余波によって全身が痺れたような感覚に襲われる。

 視線の先は、またしても立ち上る土煙で見えない。

 しかし、確実に言えることは、魔法を受けた願魔獣だけでなく地表面さえも粉々になっている。視界が不鮮明になる直前に見たのは、地表面と共にさいの目状になる願魔獣の姿だった。


 周囲には破片となった大地が飛散する乾いた音と、水分を含んだ粘性の細かい何かが雨のように打ち付ける音が響き渡った。


 ――視界が晴れる。


「......はは、これが。これが......か。はは」


 ――言葉を失う光景が、眼前に広がっていた。


 一面黒で塗りつくされ微塵となって崩壊した大地。沸き立つように願力を放出させながら消失していく黒。円形に陥没した大地は、とてもこの世とは思えないような有様だった。


 エイミィが放った一撃は、禁忌という言葉を体現しているようだった。

 熱線によって照らされた範囲に射出された、崩壊を強制させる衝撃波。


 ――もし、今ここでこの魔法を放たれたら、僕自身の魔力だけで防げるだろうか。最大硬度の『絶界』でさえ、防げるかどうかの判断がつかない。


 この力を有してなお第七位。なるほど、順位など所詮ただの飾りだったわけだ。


「はぁ......」


 普段の優し気な性格とはかけ離れた圧倒的な一撃を前に、完全に放心してしまった。

 ますます自分が凡夫であるように感じる。卑屈にならざるを得ない。嫌な自答が心の底から沸々と湧き上がるばかりだ。


「――ふぅ。とりあえず、前哨戦はまだ終わっちゃいないが、一区切りはついたな」


 抉り取られた大地の端から、クレウルムは顔を覗かせるように姿を現した。

 頭部からの出血は完全に止まり、制服に跳ねた泥に付着した血液以外は外傷がないように見えた。


「そうだね。次はあの飛んでるやつだ」


 カイレン達は地上に降り立つと、浮遊する怪鳥型の願魔獣に顔を向けた。

 アレザやアベリン達も、続くように姿を現した。

 全員、あれほどの戦闘を行いながら疲労感を一切見せずに次の標的に狙いを定めていた。


 ――今の僕に、できることはあるのだろうか


 焦りのような感情が、ふつふつと湧き上がる。


「――それにしても、エディの強化魔法はすごいねぇ。まるで自分の身体じゃないみたいだ」


「......え?」


 何の脈絡もなく、アレザはアベリンとベリンデをそばに寄せ撫でながら唐突にそう言った。

 その言葉の意図がわからない。


「ふふ。エディ、戦闘中にまるで僕たちに引け目を感じているような可愛い顔してたの、僕は見ていたよ」


「......そうだったか」


 ――ああ、顔に出ていたのか


 なんと、表情に出していたつもりはなかったが、アレザには見透かされていたらしい。

 情けない姿を見られてしまった自分が恥ずかしい。


「......ん?どうしてエディゼートがそんな風に思う必要があるんだ?」


 クレウルムが不思議そうに問いかけてくる。


「......いや、この三体の願魔獣の討伐に僕は何もできなかったから......」


 情けないことに、心の内が、ほろりとこぼれてしまう。


「はぁ――エディゼート、お前はなにバカなことを言っているんだ?」


「......」


 呆れたような口調で、クレウルムはそう言った。

 バカなこと、それは何を指して言っているのか、わかるようで、わからない。


「えーと、いいか、エディゼート。俺はお前がどんだけつえーかわからない。でもよ、誰だって初めっから連携なりなんなりできるわけじゃないに決まってるだろ。――特別な自分に勝手に自惚れて、勝手に幻滅するな。馬鹿馬鹿しい」


 低く、気だるそうな口調でクレウルムはそっぽを向きながら口を開いた。


「......そうだな」


 クレウルムが言い放った言葉は、何よりも心に響き渡るように頭の中で反芻した。

 勝手に気を落としたことに関して、誰かが言及してくれたことがうれしかったのだろうか。自己分析しようとする僕の癖が、そんなことを考えている。


「おぉ。クレウルムの兄ちゃん、ズバッといいこと言うね!」


 アベリンがクレウルムに向けて拍手をする。


「そ、そうか?そうなのか。まぁいい。ただ――エディゼート。お前は俺たちをまだ信用しきれていない。だから遠慮が生まれるんだ。そしてこれは俺からのアドバイスだ」


 そう言うと、クレウルムは手にした長剣を地面に突き刺して僕の方を振り返った。




「――あまり俺たちを舐めるな。お前が思うほど、俺たちは弱くもないし、バカでもない。だから、やりたいことがあればちゃんと口で伝えろ。わかったか?」




 体が動かなくなるほど力強い眼差しが、一直線に向けられる。

 目の前に立つクレウルムの姿が、とても大きく見えた。

 周囲に立つ皆も、頷きながら僕を見る。


 ――心の中に滞留していたわだかまりが、一気に晴れる。どこか、そんな気がした。


 ――ああ、そっか。僕は皆を信用できていなかったんだ


 答えは単純なことだった。

 それが故、気づくまでに時間がかかっていたのだ。

 皆のことを信用していないだなんてあり得ない。潜在的にそのような前提が当たり前のように存在していた。それが無意識下の過度な心配を、いつまでも隠し続けていた。


 ――こんなことで、僕は......本当に、馬鹿馬鹿しいな


 目の前に立つのは、世界屈指の実力を持つ戦闘員たちだ。その称号を背負うのに相応しい実力を、この目で、目の前でたった今の今まで見てきたじゃないか。

 新入りの分際で、彼らたちを心配できるほどの圧倒的強さは持ちかねていないのに、いつまでも卑屈な態度をとってしまってはみっともない。


 ――ああ、なんだよクレウルム。お前、すげえいい奴じゃないか


 今思えば、誰も僕に過度な期待などしてもいなかった。勝手に焦っていただけだった。

 僕は皆に僕のやりたいこと、どんなことができるのかについて共有しきれていない。そのことについての解決策は既にクレウルムが提示してくれた。

 言葉を使って意思疎通を計る。至って単純で、簡単なことだった。

 そのことに気づけたならば、いつまでもこうしてはいられない。


「......お前の言葉、よくわかった。――ありがとう、クレウルム。そしてアレザも」


「ふふん」


「......」


 アレザは得意げそうな顔で微笑み、クレウルムはきまりが悪そうに頭を掻きながら視線をそらした。


「まぁ、正直言うと、お前の強化魔法がなければ俺は片腕を吹っ飛ばされて、それを再生するのに相当な願力を消費して危なかった。だから......ありがとよ」


 気恥ずかしさを紛らわせるように、クレウルムは僕に背を向けた。


「......クレウルム、顔真っ赤だね」


「うるさいっ!やめろ、覗くなカイレンちゃん!アベリンちゃんも......っておい!皆して覗いてくるな!やめろって、ばか!」


 面白がるように、赤面するクレウルムを皆が取り囲む。


 ――くすりと、その光景に思わず笑みがこぼれた。


「はは。でも、もし怪我したら僕に言ってくれ。とれた腕の再生くらいであれば、他者であってもできる。――『再生ほら』」


 腕を横にゆっくりと振り払って、全員に治癒魔法を付与する。


 全員大きな怪我をしていたわけではなかったが、アベリンやベリンデのような薄着を着用していた二人は、数か所擦り傷のようなものができていた。

 すると薄緑のオーラが弾けるように消失するとともに、二人の傷は痕も残らず消滅した。


「「おお!」」


 一同から驚きの声が上がる。


「は......はぁ?『見願』ってなんでもありなんか?え、意味がわからねぇ......。なんで他人を治癒することができるんだよ?」


「それは......僕が『見願』だからじゃだめか?」


「うう......理由になっているようでなっていないような......」


 これまたクレウルムは気味悪そうに僕を何度も見返した。


 彼ら自身に備わる願力による治癒効果は、どれほどのものなのかはあまりよくわからない。ただ、治癒に膨大な願力を要するならば、回復役として皆を支援する役目を担うことができる。

 なんだか自分の存在意義が増えたような気がして、少し気分が落ち着いた。


「......すごい、体がぽかぽか暖かい」


 ベリンデは傷が完治した自身の身体を見まわしながらそう呟いた。


「エディって、やっぱりすごいんだね」


「当然だよ、アレザ。だって私のエディなんだもん」


 またしても、理由になっていないような返事をするカイレン。


「でもよかった。エディの心のもやもやが解消されたみたいで。気づいてくれてありがとね、アレザ」


 何故かカイレンは僕に次いでアレザに礼を言った。


「ふふふ。ただの気まぐれだよ」


 そう言ってアレザは、傷が完治した箇所を見せ合うアベリン達の方にふらっと立ち寄ってそのまま二人を抱き寄せた。

 完全に、アレザは二人の虜になったようだ。

 アベリンとベリンデには、何か人を惹きつける特性があるのだろうか。


「さて、一息ついたところで――」


 カイレンは再び宙を漂う願魔獣に視線を向ける。

 浮遊島群の隙間、漆黒の怪鳥は依然としてこちらを認識していない様子で宙を漂っていた。


「――出番だよ、エディ。私とエイミィと一緒に、三人であいつを倒そう!」


「――ああ!」


 気分が晴れ、気合が漲る。

 カイレンが力強くそう言うと、エイミィはそれに合わせて近づいてくる。


「ねぇエディ。エディはあの盾のような魔法を貫通できる魔法ってある?」


 エイミィは横から顔を覗くように問いかけてくる。


「そうだね。――ここら一帯広範囲に、『破願』の特性を付与した『調界イノヴニス』を展開してくれれば」


「わかった」


 エイミィは僕の意図をすぐに理解したのか、カイレンの方に駆けていき、僕の要求を端的に話した。


「――なるほど。大技を決めるってことだね」


 カイレンは僕を見て頷いた。


「そうだ。だから、二人ともよろしくな」


「もちろん!」


「任せて」


 カイレンとエイミィは力強い眼差しで返事をした。


 僕たち以外の四人は、一体何をするつもりなのか見当もつかない様子で僕たちを眺めていた。

 それもそうだ。混乱を招かないように、わざわざ『破願』の願力領域内で魔力を消費しようとしているだなんてわかるはずがない。


「それじゃあいくよ、エディ」


 前方に立つカイレンは振り返りながらそう言った。


「ああ。頼む」


 僕の言葉と同時、二人の周囲に願力が渦巻きだす。


 カイレンは七色の煌きを纏わせ、エイミィは目が異常を訴えかけるほど濃縮された赤を翼に宿した。


 二人は、同時に深く息を吸い込んだ。そして――




「「――『調界イノヴニス』!」」




 二人の少女の詠唱が重なると同時、『破願』の特性を有した願力領域が、凄まじい速度で広範囲に展開された。


 半球状の願力領域は、僕らと宙を漂う願魔獣との中間の距離まで拡張する。


「――ん?エディゼート、一体何をする気なんだ?これじゃあ魔法が......」


「クレウルムの兄ちゃん、エディに『破願』は効かないんだ」


「......え?......は?どういう――これも『見願』だからなのか?」


 視界の際では、アベリンの言葉を理解できない様子のクレウルムが、僕を訝しむように見ている様が映った。


「そうだよ。僕に願力特性は適応しない」


「......」


 クレウルムから返事は返ってこなかった。


 そんなことよりも、今は集中だ。

 想定していたよりも、二人が展開してくれた願力領域の範囲は広大だった。

 これほどの規模であれば、気を失う一歩手前まで一撃の威力を高められそうだ。


 ――すぐさま、魔力の吸収と消費を始める。


 僕の願力によって直上一点に凝縮する魔力の流れによって、周囲に風が吹き荒れる。


「――一体、何をする気なんだよ......これ」


 視界の外から声が聞こえた。

 だが、膨大な魔力を操作する過程では気に留める余裕すらなかった。


 ――さすがに、意識がぐらついてくる......


 物凄い勢いで願力が消耗されている、気を保つのに精一杯。油断したら気を失いそうだ。


「......はぁ」


 息を吐く。


 周囲の魔力のほとんどを一点に凝縮させると、空間が歪んだような不可思議な現象が直上に出現した。

 願力によって消費された魔力は白色の光を帯びだす。


「――ッ!キイェエエエエエーッ!」


 願魔獣とは距離をだいぶとっていたが、さすがにこの異常を察知したのか、視線を僕らに向けて奇声を放った。

 それと同時、幾重にも展開された『聖盾』が、僕と願魔獣との距離の中間ほどまで出現する。願魔獣は間に存在する浮遊島を気にする様子もなく『聖盾』を展開したため、衝突した浮遊島は押しのけられるように横に弾かれた。


「――ありがとう。カイレン、エイミィ。もう大丈夫だ」


「わかった」


 カイレンが一言だけ返事をすると、二人は展開していた願力領域を解除させた。

 視線を願魔獣に向ける。



 ――なぁ、願魔獣。お前が僕と同じ魔法を使えるなら、この魔法の威力くらい、わかるよな?



 すぐさま飛翔して凝縮した魔力(だったもの)に手をかざす。

 いつの間にか、体外での願力操作が可能になっていたため、自身の体内に魔力を吸収することなく空中に滞留させる。


「――、――はぁ」


 深く呼吸を挟む。


 残りの願力を絞り出し、発現させる魔法のイメージを魔力に落とし込む。

 願力操作によって、凝縮された魔力の一部は一瞬にして形を変える。

 前方に展開された、蠢く幾何学模様を内部に有する純白の魔法陣。

 凝縮された魔力から放出されるように展開されたそれは、保持した魔力量に比例するように徐々にその大きさを拡大していく。



 ――そろそろだ



 蠢く幾何学模様は完全に静止し――今。魔法陣が、成った。


 禁忌の発現。その行使に、可能な限りの願力を注ぎ込む。

 光は煌々と満ち、そして――





「――【融光きえうせろ】!」





 ――願魔獣に向けて展開された光の円盤に、純白の魔力の雫が吸い込まれるように滴った。同時に放出される、八属性の融合魔法【融光】。


 存在の痕跡すら残すことを許さない身に余る一撃が、僕の手によって放たれた。


 身を焦がすほどの熱線が、上空に一閃。

 空気は爆ぜたように轟き、呼吸はその衝撃波によって困難となる。


「っ――!くっ――」


 歯を食いしばっていなくては耐えられないほどの凄まじい風圧が、全身を打ち付ける。

 周囲は熱線の光によって昼間以上に白んで映り、魔法による余波は周囲一帯まで及ぶ。


 あまりの光量に、願魔獣がどうなったか確認できない。

 それだけでなく、魔法から放たれた轟音によって、『聖盾』を破壊して攻撃が到達したのかすらわからない状況。――いや、確実にこの一撃は到達している。


 遥か上空まで、視線を向けると光の柱のような熱線がどこまでも伸びていた。



 ――魔法陣は、その魔力を完全に消費しきると跡形もなく微塵となって消えていった。



 再び、森に静寂が訪れる。


「――うっ......」


 忘れた精神的疲労を思い出すように、意識に靄がかかる。

 心臓の鼓動が、やけにうるさい。


「......はぁ、はぁ。......はぁ」


 今はただ、意識を保つ以外何も考えられなかった。

 ふと、空を見上げる。


 雲一つかからない月の光が、眩しく見えた。


「――ふぅ」


 何度か深く呼吸をすると、先ほどまでの疲労感が嘘のように消えていった。

 意識はいつも通り回復し、視界のぼやけが完全に晴れる。


「......不思議だ」


 願力の急速回復。やはり、僕の身体はここに来てから短期間で変化していた。


 僕と願魔獣を結ぶ直線上には、文字通り、何もなかった。

 雲までも貫いた一撃の威力は、言うまでもない。自身の願力で生み出した魔力では到底再現することができない破壊力。

 今はただ、無事に願魔獣を撃破できたことに安心するばかりだった。


 ――さて、皆が待機する地上に降りよう


 カイレン達には再度礼を言わないといけないな。

 そう思いながら、地上に向けてゆっくりと降下した。


「――ん?どうした。皆して僕を見て固まって......」


 何とも言えないような表情で、一同は僕の一挙手一投足を見逃さないような様子で見つめていた。

 何も言わずに見つめられると、少し不気味に感じる。


「えーと、あの願魔獣は倒せたんでいいんだよな?」


「あ、ああ。――倒せたも何も、何だよこの威力はよ......全部が、粉々じゃねぇか」


 クレウルムが視線を向ける先。発現した魔法によって、円形にくり抜かれて所々発火した浮遊島の残骸が、無数に飛散していた。


「うん......。皆にいいところを見せたいがため、少しだけ張り切り過ぎたかも。はは......」


「......少しってなんだよ、少しって」


 クレウルムは完全に困惑していた。

 だが、困惑していたのは彼だけでなかった。それは皆のことを指しているわけではない。


 ――僕自身も、かなり困惑していた。


「はぁ......」


 一呼吸。


 ――まてまてまて!なんであんな威力になってんだ?!そもそも『聖盾』を貫いて攻撃できればいいなと思っていたのに、あの有様って......


 表情に出すまいと、必死に取り繕うしかなかった。

 内心もう滅茶苦茶だ。

 今は平然を装うんだ、エディゼート。そう念じて皆の方を再び見る。


「......」


 ――ああ、カイレンとエイミィが僕を見て苦笑いしている


 二人と視線が合うと、早々に二人は表情を変えてぎこちなく笑った。


「あははは......。エディ、やっぱり、私のエディだ。凄まじい......うん、凄まじいなぁ」


 今まで見たことのない様子でカイレンはそう言った。


「うん、さすがカイレンのエディだね。......うん、すごいなぁ。ははは」


 エイミィまでも、おかしな様子で口を開いた。


 アベリン達やアレザは......言うまでもなくポカンとした様子で僕を無言で見つめたままだ。先ほどから視線しか動いていない。


「はぁ――もうわけわからねぇよ!なんなんだよお前はよ!なぁ!」


 突然、クレウルムに肩を掴まれ激しく揺さぶられる。


「やめっ!おい、離せ!こら、なんだよ!八つ当たりはよせ」


「何が!どうして!こんな力を持ってたお前が俺たちに遠慮してたんだよ!馬鹿にしてんのか?ああん?なああああああああ!」


「ばかっ!やめろ~っ!」


 クレウルムの頭が、ついにおかしくなった。

 相当な力で揺さぶられてこっちまで頭がおかしくなりそう......だ。


「ちょっ、ちょっとクレウルム!エディから手を離してよ!こんなに振ったらバカになっちゃうよ!」


 カイレンがクレウルムを止めようと背後からしがみつく。


「カイレンちゃん、こいつおかしいと思わないのか?」


「おかしいと思うよ!」


 ――おいっ


 クレウルムの言葉に間髪入れず返答するカイレン。


 カイレンにおかしいと思われていると考えると、少しなんだか......。


「なぁ、エディゼート。さっきのあれはなんなんだよ?」


「えーと、よくわからないけど、すごく威力の高い魔法だったね」


「わからないであの威力なわけねぇだろ!ああっ、これだから『見願なんでもあり』はよぉ!」


 先ほどからクレウルムが何に対してこれほどまで熱をあげているのかがわからない。

 ずっと興奮した様子で僕に当たり散らすばかりだ。


 ――ああ、もうわけがわからねぇ......


 今はただ、何も考えず空を見上げるしかなかった。

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