第18話 早々に戦闘開始

 部屋を出た際、職員からフードのついた外套を全員分受け取った。可変式のものではなかったが、雪を弾くには丁度良い。体温調節が器用にできない僕にとってはありがたい。


 本部のある二階から降りた僕らは大勢の人で溢れかえる協会本部のロビーを抜け、扉から外へと出る。


 途中、クエストボードには普段の褐色の色の紙とは違って、朱色の紙がたくさん貼られていた。


「緊急クエストだね。それもあんなにたくさんあるなんて」


 冒険者であるアベリンは朱色の紙の意味がわかるようだ。


 冒険者たちは張り出された緊急クエストをまじまじと眺めていた。それとは対照的に、冒険者協会の職員たちは忙しなくクエストカウンターやロビーの中を移動していた。


「......ひどい天気。これじゃあ遠くが見渡せない」


 カイレンは目を細めてそう言った。


 外は降雪だけでなく、横薙ぎの北風まで吹いていた。外套がなければ、凍えるような冷たい風にさらされて体調を崩していただろう。


「とりあえず、東門を目指そう」


 僕らはカイレンの言葉に従い、駆け足で東門を目指した。




――――――




 街の端まで来たからだろうか、人通りがかなり少なくなっていた。


 門を警備していた騎士たちと目が合う。


「帝級魔願術師「カイレン・ゾーザナイト」一行。これよりグラシア南東へと向かいます」


 カイレンは騎士の一人と話すと、騎士は改まったような様子で、


「かしこまりました。どうか、ご武運を」


と、まるで出発の報告を確認するように言った。


 僕らはカイレンの後に次いで門を潜り抜ける。


「おじいちゃんに行ってきますって伝えといてね!」


 振り向きざまにカイレンは騎士たちに向かってそう言った。


「さて、指針はあっちを指しているから......アベリン達をよろしくね」


 カイレンは僕の胸のあたりに手をかざし、願力を注ぎ始める。

 白光が次第に可変制服から滲みだし、ほのかに明るさを増す。


「エディは私たちの後についてきてね。エディのペースで進まれると私たちがばてちゃうから」


 エイミィはそう言うと消失させていた翼と尻尾を展開させた。


「わかった。――そうだ、二人に身体強化の魔法をかけるよ。楽になるかどうかはわからないけど」


 僕はカイレンとエイミィに向けて手をかざして、身体強化の魔法をかける。


 魔法の効果自体、疲労回復効果を早めたり、筋力を向上させたりするものなので今の状況において有用性はあまりないが。


「......これがこの前アベリン達にかけていた......」


 魔法をかけ終えると、エイミィは興味津々そうに手の開閉を繰り返していた。


「――よし!エディがかけてくれた魔法のおかげでいつもより早く注ぎ終えた」


 するとカイレンはかざした手を下におろした。


 カイレンの口ぶりから、どうやらこの魔法は僕が知っている以外の効果があるらしい。


「何か変わったのか?」


「うん。いつもより魔力を願力に変えた時の疲れが少ない」


「なるほど、そんな効果もあったのか」


 これは思わぬ収穫だ。そうとなればこの魔法はアベリン達のような体術を戦闘スタイルとする人以外でも使えそうだ。


「ただ、これに依存しそうで怖いな。もしエディがいないときにいつもの感覚で戦えなくなりそう」


「それは、確かに怖いな」


 その考えも頷けるが、僕からすると死なない確率を上げられるのであればそれに越したことはない。必要な時以外はなるべくかけないようにしよう。


「さて、みんな準備はいいね?」


「ああ、問題ない」


「アベリン達も大丈夫そう?」


 後ろを振り向くと、アベリン達は自信ありげな表情で、


「うん!」


「いつでも行けます」


と、力強い眼差しでそう言った。


「それじゃあ戦地に向けて、出発!――『飛翔イアルヴ』!」


 カイレンは声高らかに詠唱すると、たちまち彼女の体は宙に浮いて地上遥か上に飛び立った。


 天候は大荒れ一歩手前。そんなことも一切気にしない様子で、白光を纏う少女は降りしきる雪の中を突き進んでいった。




――――――




 僕らが飛び立ってからしばらく経っただろうか。景色はディザトリーのような岩がちの地形から比較的背丈の高い木々が生い茂るようになっていった。


 相変わらず天候は吹雪一歩手前。だが幸いなことに視界はそこまで悪くはなかった。


 カイレンは可変制服に大量の願力を注いでくれたのか、または蓄願素材の性能が良いのか、僕が思っていた以上に願力が放出される時間が長かった。おかげで今も再度蓄願することなく僕は大気中の魔力を直接消費して飛行魔法を発現できている。


「結構な時間飛んだな」


「そうだね。今は私たちが出発してから二時間ほど経過しているね」


 カイレンは腕に付けられた時計を見ながらそう言った。


 僕も時間を知る術が欲しくなってきた。この世界に来てからあまり指定の時間通りに行動をしてこないことがほとんどだったため、物資調達の際に腕時計のようなものを買い忘れてしまった。


「ねぇねぇ、あとどれくらいで拠点に着きそう?」


 アベリンはカイレンのそばまで行くと、腕時計を覗き込んだ。


「うーん。大雑把に考えると......あと二時間くらいかな」


 今は大体午後の四時あたり。このままのペースで行くと到着よりも暗くなる前に拠点に着けそうだ。


「とりあえず、拠点に着いたら状況を確認しよう。場合によっては、そのまま夜になっても戦地に向かうかもしれない」


 既に何人かの戦闘員が戦地に赴いていることを考えていると、ゆっくりしていられる時間はなさそうだ。


「いよいよだな......」


 あれほど心配していた雪は気づけば数えられる程度しか降っていなかった。


 だが空覆いつくす曇天が、いつまでも僕の心のざわつきを助長しているような気がした。




――――――




 時刻はおよそ六時前。すっかり辺りは暗くなり、少しだけ肌寒くなってきた。


 グラシアには人が住んでいる様子がなかったため、月明かり以外は何も光を見ることはなかった。静けさも相まって、余計に不気味に感じる。


「......あ、見て!あそこ光ってる!」


 アベリンが指差す方向に目を向ける。


 暗く静かな森の中、遠くからでも視認できるほどの小さな明かりの集まりが確認できた。方位磁針の青色の指針が指し示す方角と一致していることから、あれが拠点となる村で間違いないだろう。


「行こう、きっと私たちの到着を待っているはずだから」


 カイレンはそう言うと速度を一気に上げて拠点の方へと向かっていった。


 僕らも、それに追従するように速度を上げていく。






 拠点上空、下を見る。


 『ニグルス村』は石造りの塀で囲まれた比較的大きな村だった。広場のような開けた場所にはいくつも仮設式の布でできた天幕が建てられていた。


 人の往来とその明かりから、まるで夜市でも行われているようにも見える。


 僕らは徐々に高度を下げていき、ゆっくりと村の広場へと降り立った。


「ん。あれは......」


 広場にいる人々の視線が僕らに集まってくる。

 だがカイレンとエイミィは気にしない様子で一際大きな天幕へと向かっていった。


「それじゃあ私とエイミィはこれから拠点本部に顔を出してくるから、エディとアベリン達は外で待っててくれるかな?」


「わかった」


 そう言って、カイレンたちは天幕の中へと消えていった。


 取り残された僕らは互いに顔を見合わせる。


「さて、僕らはこれからどうするのかな」


「皆、とても慌ただしい様子ですね」


 ベリンデの言う通り、どこも話し声が聞こえて落ち着ける場所がなさそうな様子だった。


「そういえば、二人は願魔獣と戦ったことはあるのか?」


「うん、一度だけあるよ」


 アベリンはそう答える。

 どうやら僕だけが願魔獣との戦闘経験がないらしい。


 経験知的に言えば、僕は一番の下っ端となるのか。設定上僕はカイレンと共に地脈異常を何度か鎮圧していることになっているため、あまり願魔獣のことについて聞いてしまうと不審がられてしまうだろうな。


「里の人たちと遠出をした際にたまたま未発見の地脈異常に遭遇しましてね。魔願術師の到着を待つより自分たちで鎮圧した方が早そうということで倒してしまいました」


「そうなんだ......」


 アベリンやベリンデたちを育てた獣人のことだ、戦闘力に関して地脈異常の鎮圧には申し分ないのだろう。


「でも願魔獣って結構強かったよね。見たことない魔法を使うんだもん。突然光った槍みたいなものを飛ばしてきたり、とっても固い盾みたいなもので身を守っていたり」


「今思うとエディさんの使う魔法と少し似ていましたね」


「......」


 一瞬自分のことについて勘ぐられたような気がして内臓がヒヤッとしたような感覚に襲われる。


 アベリンが言った魔法の特徴。おそらく光った槍とは『聖槍』で、固い盾は僕がよく使う『聖盾』で間違いないだろう。


 この世界の人にとって『顕願ヴァラディア』による具現化した願力がどのように見えているかはわからないが、光を纏っている時点で聖属性の魔法の特徴と一致する。


「でも、不思議だよねー。魔力から直接魔法を使えるなんて。羨ましいよ」


 今はそのことについてばれてはいないが、いつかひょんなことから僕が魔力から直接魔法を発現できることが知られてしまいそうだ。アベリンもベリンデも、子供のような見た目とは裏腹にそういったことに対する勘が鋭そうに感じた。


「願魔獣を無力化することができれば研究できるかもしれないけど......」


「でもカイレンとかエイミィでもそれは無理なんでしょー?」


「うん。まぁ、できたとしてもほったらかしにするのはよくないからね」


 二人の会話から願魔獣に関して何か僕の知らないことが隠されていたような気がした。


 今まで特にあれこれを深く考えずに過ごしてきたせいで、こういったときに必要な情報がないのが僕のよくないところだ。

 まぁ、こんなことを思ったばかりなのだが、そこまで心配しすぎることはないか。


「あっ、そうだ!レイゼはどこにいるの?」


 アベリンは思い出したかのように僕に尋ねた。


「レイゼは別行動だけど、地脈異常が起きている場所には向かっているはずだよ。何か個人的に調べたいことがあるって言ってた」


「そうなんだ。会えるといいな......」


 そういえばレイゼは無事たどり着けたのだろうか。僕らは魔道具があったおかげで雪の中を難なく進むことができたが、果たしてレイゼは。


 でも、赤龍として千年生きてきたんだ。心配しすぎることはないだろう。


「――みんな、お待たせ」


 声のする方に目を向けると、話を終えたカイレンたちが天幕から出てきた。


「それで、僕たちはこれからどうすればいいんだ?」


「さっき対策本部と話をした感じだと、地脈異常の規模はここ数百年で過去最悪。願魔獣の討伐よりも先に暴走した魔獣の討伐を優先にしてほしいって指示があったよ。願魔獣の討伐は明日の夜決行するかもだって」


「なるほど。願魔獣の討伐は後回しなんだな」


「魔獣の方が移動速度が速いのと、先にそっちの片づけをした方が後々楽だからね」


 地脈異常の根源の鎮圧よりも先に暴走した魔獣の対処。規模が大きいとそれだけ異常量の魔力に当てられて暴走する魔物の数が多いのか。


「出発は?」


「これからすぐ。だからみんな私たちについてきて。戦場まで行こう」


「わかった」


 駆けだすカイレンとエイミィの後に次いで僕らも移動する。


 二人は十二魔願帝だけあって、やはり先程から周囲の人たちがやたらとこちらを見てくる。だが、それは決して悪いようなものではなかった。世界最高峰の戦力の到着によって、人々は少しだけ頼もしそうな表情をしていた。


 そういえばこの前、アベリンやベリンデも含めて僕たちの戦力は小国の軍隊であれば退けられるほどのものと言っていたような。


 ――そんなことを考えながら、僕らはカイレンの後に次いで宙を駆けていった。




――――――




 戦場は思いのほか近く、十分程度飛行した場所にあった。

 だが、逆に考えるとそれほど近くまで地脈異常の影響が出ているということになる。


 上空から地上を見渡すと、魔法によるものか木々の隙間から点滅するように光が漏れていた。


「ここからは既に戦闘をしている部隊と合流して戦おう。それじゃあいくよ!」


「了解!」


 僕らは一斉に急降下を始める。


 目を向けると、僕らと同じ制服に身を包んだ魔願術師協会の戦闘員は、僕が目覚めた日に会敵した狼のような魔獣と戦闘を繰り広げていた。


 皆、飛行魔法で距離をとりつつ、『顕願ヴァラディア』で作り出した槍状の願力を射出して戦闘をしている。だが、魔獣たちは木々の隙間を素早く動き回っていたため、倒すのが非常に難しそうな様子だ。


 ――すると、魔獣は僕らを認識したのか、こちらに向けて鎌状の斬撃を器用に木々の隙間を射通しながら弾幕のように飛ばしてくる。


「エディ、お願い!」


「ああ!――『嵐刃きりさけ』!」


 魔獣が飛ばした斬撃の射線上、それを破壊し術者を射止めんとするほどの威力の風の刃を射出する。

 目にも止まらぬ速度で放たれた風の斬撃は、魔獣に直撃するとその風圧を一気に開放するように炸裂し、魔獣は原型をとどめぬまま四散していった。


「――皆おまたせ!カイレン一行、只今加勢するよ!」


 カイレンは他の戦闘員が魔獣と戦闘していないタイミングを見計らって、大きな声で叫んだ。


「――おおっ!やったぞ!」


「皆!カイレン様並びにエイミィ様が到着したぞ!」


 戦闘員はカイレン達の到着に歓喜したのか、険しかった表情が一気に明るくなった。


 先着していた戦闘員は長いこと戦闘を続けていたのか、制服は撥ねた泥で汚れ、中には切り裂かれた制服から血と肌が見えている者までいた。


「私たちはこれから北に向かって魔獣の殲滅を始めます。皆さんは私たちが仕留め損ねた魔獣の対処をお願いします!」


 エイミィはこの場にいる戦闘員全員に聞こえるように大きな声でそう言った。


「わかりました。そうだ、クレウルム様一行は我々のいる位置より東側で魔獣の対処をしていますが......」


 戦闘員の一人がカイレンたちに向けてそう言い放った。


「わかった。でも、あいつらだったら何とかなると思うから、とりあえず村を守ることを最優先でいくね!」


 クレウルム。カイレンと同じ帝級魔願術師であることは知っているが、どのような人なのだろう。気になって仕方がない。


「すごい......カイレンってこんなにてきぱき仕事ができるんだ」


 普段のカイレンとのギャップからか、アベリンは茫然とカイレンたちが指示をするさまを見ていた。


「アベリン、こう見えても私はお姉さんなんだから当然よ」


 振り返りながら得意げそうな顔でカイレンはアベリンに言った。


 それが理由になっているかはさておき、普段はどれほどリラックスした状態でいるのやら。まるで別人みたいだ。


「さて、ここからは北を目指していくよ。作戦とかは特にないけどいいよね?」


「うん!」


「問題ありません」


 アベリンとベリンデは頷いて了承する。


 個々の十分な実力がなせる作戦。各々、魔法を展開させ準備は万端だ。カイレンは背後に槍状の願力を無数に展開し、エイミィは魔物の死骸から吸収した鮮血を纏い、アベリンは願力の双剣を、ベリンデは願力の大剣を装備した。


「それじゃあ――殲滅開始!」


 ――カイレンの一言が合図となり、僕らは一斉に北に向かって駆けだした。


 駆けだした僕らは、並みの戦闘員では互いを援護しあうことなど到底考えていないような距離まで離れて戦闘を始める。


「前方黒狼十一体!いくよ、お姉ちゃん!」


「うん!」


 中央にいる僕の右手側、少し遠くからベリンデ達の声が聞こえる。

 すると間もなくして轟音と共にアベリンの豪快な叫び声と魔獣の悲鳴にもとれる声が重なって耳に響いた。

 木々の隙間から見えたのは、魔獣の血を浴びてなお止まることを知らない様子のアベリン達だった。

 その双剣は易々と魔獣の四肢を切り裂き、大剣は無慈悲なまでに魔獣の体を両断する。


「あそこ!襲われている戦闘員がいるからエディは援護してあげて!」


「了解!」


 森の奥へと目を凝らす。

 前方には無数に願力による光が点滅して見えることから、戦闘は森の深くまで続いていることが伺える。


――数がだいぶ多いか?


 戦闘員の多さもさることながら、その倍以上の魔獣がとても知能と言えるものを持ち合わせていないような様子で攻撃をしていた。

 再度風の刃を右手に構え、狙いを定める。


「――くそっ!重なって見えねぇ!」


 常に動きながら戦闘を繰り広げる魔獣に対して、的確に木々と戦闘員を避けて魔法を放つには少し無理があるように見えた。

 既にカイレン達は飛翔魔法で木々の上に飛翔魔法で離脱しており、今は僕一人だけとなっていた。


――あそこ......まずいっ!


 視界の左方に映る戦闘員、それに背後からとびかかろうとする二つの影。当人はそれに気づく余裕もない素振りで眼前の魔獣だけを見ていた。


 すぐさま周囲の魔力を吸収して、推進力へと変換させる。

 体が地面と水平になるほどの速度で一直線。戦闘員の背後から忍び寄る魔獣の首目がけて風の刃を差し込み、


「――『膨空ぶっとべ』!」


風の刃は魔獣の首もろとも強烈な破裂音と共に炸裂していった。

 鮮血の生臭いにおいが周囲に散漫する。


「おい、大丈夫か?!」


「あ、ああ。ありがとう!助かった」


 戦闘員は状況が理解できていない様子でたどたどしく言った。

 なるほど、状況から察するに、移動速度の速い魔獣が村近くまで進行しているのか。


 ――それよりも、今はこの戦い方でいくしかなさそうだな


 魔法による遠距離攻撃はやめだ。今は近接での攻撃が最も確実に数を減らせる。


 ――そうとなれば......


 両手に風の刃を再装填。周囲の魔力をありったけ吸収し、意識を飛行の感覚へと集中させる。


「あの......あなたたちはどこから来られた戦闘員ですか?」


「ああ、聞こえていなかったか。――僕はカイレンやエイミィと同じ、ディザトリー支部の戦闘員だ」


「ディザトリーって......あのディザトリーなのか?!」


 僕がそう言うと、戦闘員は顔を少しだけ明るくさせた。


「それで、あなたは......」


「エディゼート。それじゃあ」


 戦闘員は他にも聞きたそうな顔をしていたが、今はそれどころではない。


 会話を振り切るように、その場を勢いよく飛び出した僕は戦闘が行われている場所へと飛び込む。

 体が温まってきたのだろうか、願力の操作がいつも以上に精密且つ素早くできたため、高速で木々の隙間を飛行していった。


 前方に魔獣三体と戦闘員二名。僕が手を出すまでもない。

 すぐに狙いを変える。


 ――右には......あれは、アベリン達だな


 双剣から放たれた斬撃に加えて質量で叩き切るような豪快な一撃。まるでジルコを彷彿させるような二人の戦い方。いつの間にか僕とアベリン達は近くまで来ていた。


「あっ、エディ!」


「二人とも順調そうだね」


 魔獣の返り血を浴びて服が赤黒くなっていたが、気にしない様子で二人は魔獣を切り裂いていた。


「久しぶりに体を動かせて気分がいいです!」


 ベリンデは少し気分が高揚しているのか、いつもより声音を高くしてそう言った。


「カイレン達は先に行ってしまったから、北を目指しつつ戦闘員の援護をしよう」


「うん!」


「了解です!」


 短くコンタクトをとると、僕らは再び前方に向けて駆けだした。


 飛行状態の僕を追い抜かすように、アベリンとベリンデは尋常ではない速度で木々の隙間を駆け抜けていく。


 前方、ひと際魔法の明かりが見える。


「この羽音、甲虫型の魔物の群れです!」


 僕にはよく聞こえないが、どうやら違ったタイプの魔物がいるらしい。


 すると森を抜けるのか、木々の密度が少なくなってきたような気がした。


「水辺が近いよ!多分そこにいるんだ」


 森を完全に抜け切る。目の前には東西を一直線に流れる幅の広い川が流れていた。

 水深はとても浅く、よく見るとベリンデが言っていた魔物は水面上を旋回するように飛び回っていた。

 何とも異様な光景。羽音が相まって非常に不気味だ。


「ここが一つの防衛ラインみたいになっていますね」


 既に十数名の戦闘員が川を渡らせまいと魔獣に対して攻撃を行っていた。戦闘員の何名かは旋回する虫型の魔物の群れ目がけて魔法を撃ち込んでいるが、一切当たる様子がなく攻めあぐねていた。


「――よし。地上は二人に任せた!僕は空の魔物をやってくる」


「そうだね。あたしたちじゃ届かないから」


 アベリン達は頷くと、すぐさま二手に分かれて川岸まで駆けていった。


「――さて、皆の気が逸れているうちに一気に片づけるか......」


 誰も見ていないことを確認して、可変制服の願力の放出量では誤魔化しきれない程の魔力を全身で吸収する。


 ――深く生い茂った木々の隙間。煌々と光を放つ蒼白の炎が、ゆらゆらと怪しく周囲を照らした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る