第17話 異常事態
僕らが食堂に着くと、すでに何名かのメイドが昼食の準備をしていた。
「あら、カイレン様たちではありませか。ちょうど今からお呼びに行こうと思っていたところだったのです」
僕らの存在に気づいたリーシュはそう言うと、部屋の扉の方に行き、
「旦那様をお呼びしてきますね」
と言って部屋を出ていった。
縦に長い机の上にはすでにパンと野菜の煮込み料理が置かれていた。
「――やったぁ。今日の料理は私の大好物だ」
カイレンは料理を見るやすぐに席へと着いたので、僕らもそれに従うように席に座った。
「木の実入りのパンと、根菜と山豚のトマト煮込み。私も久しぶりに食べるなぁ」
カイレンと昔からの仲だったエイミィも、懐かしむようにそう言った。
湯気が立つ深皿からはとてもいい匂いがしていたが、今の僕は地脈異常の任務のことで頭がいっぱいで落ち着かない気分だった。
「――おお、皆揃っていたか」
部屋の扉の奥の方、リーシュに呼ばれたジルコが顔を覗かせた。
「先程魔願術師協会の職員から話を聞いた。――どうやら状況が変わったそうだな」
職員というのはおそらくセノールのことだろう。
騎士団が地脈異常の任務に関与することは聞いていなかったため、ジルコにそのことを伝えるということは、よほどの規模の被害が予測されているからなのだろう。
「そうなんだよ。本当は、もっとここでゆっくりしたかったけどね」
カイレンは心底残念そうにそう言った。
「しかし、騎士団にも街の警備要請をするほどの規模だとは。皆、くれぐれも気を付けてくれ」
「はい」
僕らはジルコの言葉に頷く。
ジルコは話をを終えるとすぐに席に着いた。
「さて。任務も大事だが、その前に腹ごしらえも大事だ。――それでは皆、いただこうか」
ジルコの言葉に従い、僕たちは一斉に食事をとり始めた。
木の実の香ばしさと弾力のある食感のパンは、酸味の効いたスープと非常に相性が良く、食べている時だけは緊張が少しほぐれたような気がした。
――――――
昼食をとり終えた僕たちはジルコに別れを言うと、荷物を取りに一度宿に寄った。
食事中、ジルコたちがこの世界の事情を知らない僕のために、いくつか地脈異常についての情報を教えてくれた。
まず、魔願樹から放出されている願力には、地脈異常によって汚染された魔力の影響を受けた魔獣の精神状態を浄化する作用があるとのことだ。
そのため、各国の主要都市付近では甚大な被害が出ることはまずないらしい。だが、地脈異常の根源である願魔獣は例外であり、行動に規則性がないため、発見次第早急に討伐する必要があるとのことだ。
ありとあらゆる段取りを無視してここまできた僕にとって、今回の任務は不安要素しかなかった。
願魔獣、カイレンたちが願力による魔法に対して願力を纏って威力を軽減させようとするように、もし仮に僕の魔法が願魔獣に対して威力を発揮しないようなことが起きると非常に厄介だ。
一応このことを皆に伝えてみたが、そもそもこの世界で僕のような魔法を使える人はいないため、やってみるまでわからないという返答しか得られなかった。
そんな不安を募らせて、宿に戻った僕は可変制服に袖を通した。
「そうだ、レイゼはこれからどうするの?」
エイミィはレイゼが僕たちとは別行動することを思い出したのか、レイゼに質問を投げかけた。
「そうだね......私は私で行動しようとかな。魔願樹のことで少し気になっていることがあるし」
「気になること?」
「うん。昔を思い出してね」
レイゼ自身、千年以上生きてきたと言っていたが、実際のところは赤龍だった時間の方が長く、また思考力もそれ相応のものとなっているらしい。そのことから、今の発言はレイゼがまだ人の姿だったころの記憶であることがうかがえる。
「まぁ、どのみちレイゼとは私たちの願力特性のせいで同行できないからそうしてくれると助かるよ」
カイレンの言う通り、レイゼは『破願』に抵抗する術を持ち合わせていなかったため、共に行動することはできなかった。
「そうだね。戦場のど真ん中で素っ裸になんてなりたくないし。――でも、その問題もじきに解決できるようにするさ」
レイゼは意味深長なセリフを残すと、一人部屋の扉の方へと向かった。
「レイゼ、もう行くのか?」
「うん。私は行ってくるよ。――くれぐれも、皆死なないように。私の居場所がなくなると大変だからね。それじゃあ」
レイゼはその言葉だけを残して、足早に部屋を出ていった。
「まったく、可愛げのないこと言っちゃって」
「レイゼらしいと言えばレイゼらしいけどね」
カイレンとエイミィは既に荷物の準備ができたのか、鞄を背負ってレイゼが出ていった扉を眺めていた。
「エディ、準備はできた?」
「ああ。いつでも行ける」
準備といっても可変制服を着ただけだった。カイレン曰く、食料などの物資類は協会職員が拠点まで運搬してくれるそうだ。
「それじゃあ二人とも、本部に向かおう」
「ああ」
「うん」
軍服に身を包んだ僕らは本部に向けて部屋を後にした。
――――――
外に出ると、普段の曇り空よりも少しだけ何かが違うように感じた。昼頃であるのに、まるで明け方前のように空気が冷えていた。
「やっぱり、どこも慌ただしいね」
「カイレンの言う通り、みんないつになく外に出ているね」
街はカイレンやエイミィが言ったように協会職員や冒険者、騎士団の一員らしき人々が忙しなく行き来していた。
僕らが目指す魔願術師協会本部の建物、その最上階の尖塔には、黄色に発光した明かりのようなものが見えた。
「灯台の明かりが黄色くなっている。このディザトリーでも警戒レベルが中程度だとはね」
「私、初めて見たよ。今まで十年は尖塔に警告灯が灯されたことなんてなかったもの」
よほど珍しい事態なのか、カイレンたちは物珍しそうに尖塔を見上げながらそう言った。
「この角を曲がれば本部が......って、うわぁ!人がたくさん」
細い路地を抜けてやっとのことで本部が見えたと思った矢先、建物を取り囲むように建てられた柵の入り口付近に大勢の人々が溢れかえっていた。
「皆、掲示板を見ているのかな?」
エイミィは小さく跳ねながら門の入り口を覗くようにそう言った。
「多分ね。とにかく、急ごう」
僕らは駆け足で魔願術師協会本部へと向かっていった。
建物の二階へと上がり、魔願術師協会の職務室へと向うと、例外なく職員や戦闘員らしき人々が慌ただしく廊下を行き来していた。
「ここに来たはいいけど、何をすればいいのやら......あっ!あの後ろ姿は」
「――おや、君たちか。来てくれたのだね、丁度いい」
廊下の奥、カイレンの声に気づいたのか、ガネットは後ろをくるりと振り向いた。
「セノールから報告は聞いたか?」
「はい。地脈異常の進度が変わったことは聞きました」
「ふむ、そうか。現状、私たちも各地方の協会と連絡を取り合っている最中で現在の詳細な情報はわかっていない。ただ、地脈異常の被害はグラシア南東に位置する『ミリカナ帝国』に向かって進行しているとのことだ」
聞いたことのない国の名前が出てきた。
確か、エイミィの故郷トーステル王国はディザトリーからかなり南に離れた場所にあると言っていた気がした。よかった、エイミィの故郷に被害が及ぶことはなさそうだ。
「あの国の魔願樹とグラシアまでの距離はだいぶ離れていますので、放っておくと北部の都市や村などに被害が出かねないですね」
「そうだ。だからエイミィが言ったように、ミリカナ帝国への被害を最小限にするためにも、最高戦力である君たちには願魔獣の討伐を任せたい。いいな?」
「――はい。わかりました」
僕らはガネットの言葉に頷く。
カイレンと初めて会った日の夜中に、地脈異常によって暴走したとみられる魔物と戦闘をした。このことから、やはり願魔獣を討伐しても、暴走した魔物は正気に戻ることはないことがわかる。
「そうだ、エディゼート。その可変制服に不調はでなかったか?」
「不調は、今のところ特にないです」
「そうか。任務中は、できる限りカイレンたちがエディゼートの制服に願力を注ぐようにしてくれ。そうそう切れることはないが、心掛けておくように」
「わかりました」
そういえば、この制服のおかげで僕はある程度までだったら魔力から直接魔法を発動することができるのだった。
ガネットからの忠告で、大規模な魔力の消費を誤魔化すことはできないことは知っている。このことを忘れないように心がけねば。
「あ、そうだ。ガネット会長、アベリン達は一緒に来れるのですか?」
そういえば、今回の任務は冒険者協会と合同で行う、言わば冒険者協会にとっての研修のような任務であった。
普段の地脈異常よりも大規模なものが発生している今は、果たして同行ができるのだろうか。
「そのことについてだが、先程アベリンとベリンデはカイレンたちとなら同行したいと、希望があったそうだ。私たちも、君たちの判断にゆだねようと考えているところだ」
「そうなのですね。――みんなはどうする?私は同行に賛成だよ」
「私も」
「僕もだ」
全会一致。戦力はいくらあってもいい。
先日の飛竜討伐で、アベリン達の頼もしさは身に染みてわかっていた。
「意見はまとまっているようだな。では、冒険者協会側にはそう伝えておこう。準備が整うまでは応接室で待機しておいてくれ。じきにアベリンとベリンデたちをそこに向かわせる」
ガネットはそう言うと、足早に廊下を歩いて行った。
「それじゃあここで立っているのもあれだし、部屋に行こうか」
応接室は、職務室のすぐそばにあった。
扉を開け、中へと入る。部屋の中は暖かかった。
――ふと、窓の外を見る。
「あれ、雪が降ってきたのか?」
灰色の雲を見上げるとその隙間から、ちらちらと細かな雪がゆっくりと落ちていくのが見れた。
まだ本降りではないのか、よく目を凝らしてみないとわからない程度だった。
「うわぁ、本当だ、綺麗。でも、これじゃあ馬車で移動できないね」
カイレンは景色をぼんやりと堪能するのかと思いきや、現実的なことを思い出したかのように呟いた。
「アベリン達は飛翔魔法が使えないから、エディがアベリン達の分まで魔法を発動させないといけないかもね」
「確かに、エイミィの言う通りかもしれないな。でも、この制服のおかげで魔法はいくらでも使えるから問題なさそうだ」
飛翔魔法自体、速度を著しく上げなければ、願力を魔力に変換させて複数人に発動してもそれほど大変なことではない。
攻撃の手段として用いる魔法と違い、殺傷能力を高めるための硬度が必要でないからだ。
その点結界魔法などの魔法は魔力を凝固させなくてはいけないため、非常に疲れる。とても自身の魔力で発動させようとは思えない。
「そうか、頼もしいね」
「ふふ、さすが私のエディだ。私たちだけじゃ、長時間アベリン達を運ぶのは大変だからね」
「そうなのか?カイレンは僕を魔法で運んで山を越えたじゃないか」
カイレンは地面に横たわっていた僕を魔法によって運んだと言っていたことから、他者に魔法を付与できることはわかっていた。僕の魔法と何か違うのだろうか。
「それはエディの願力抵抗がとても弱かったからだよ」
「願力抵抗?そういえばレイゼにも同じことを言われたな」
赤龍の姿だったレイゼに記憶を覗かれた際に、願力の影響に対して弱かった僕は危うく意識を持っていかれるところだった。
「この世界の魔法を使える生き物は皆無意識下で常に全身に願力が循環していてね。そのせいで魔法の効果を付与しようとしても、その人の願力によって抵抗されちゃうんだ」
「つまり、他者に魔法効果を付与することは難しいってことなのか」
「そういうこと」
こうなると、今まで身体能力を向上させる魔法のように、他者に直接効果を与える魔法があまりなかったのも頷ける。
知れば知るほど、不思議なことが増えていく。僕自身、魔法の記憶があるとはいえ、対界の知識であるためほとんど役に立つことはない。
「あ、そうだ。――回復魔法とかって、ないのか?」
ここにきて、重大な問題が浮かび上がった。
――回復魔法。それは戦闘時に負った傷を治療するために必要不可欠な魔法だ。この世界に来て、まだ負傷する程の戦闘を行っていなかったせいもあるか、まだ一度もそれらしき魔法を見ていなかった。
他者に直接干渉するような魔法が効きずらいとなると、そこら辺の処置はどのようにするのだろう。
「......回復魔法?」
「もしかして......ないのか?」
カイレンとエイミィは僕の言葉に見当がつかなかったのか、互いに顔を見合わせた。
「えーと、エディが言う回復魔法っていうのは、どういう魔法なの?」
「どういうって、例えば剣のようなもので切り裂かれた傷を元通りに治したり、千切れた腕をくっつけたりできる程度の魔法だ。要するに、当てた箇所を無傷な状態に戻す魔法のことだ」
一応僕も欠損した部位が残っていれば元通りくっつけられる程度の回復魔法は使うことができる。体にいくつか無理やり魔法でくっつけたような傷跡があったことから、おそらく何度か使用したことはあるのだろう。
「うーん。もしかしたら、エディの言う回復魔法っていうのは、私たちでいうところの自己再生に近いことなのかな?」
「自己再生?エイミィ、どういうことなんだ?」
再生となると、イメージ的には僕の回復魔法よりも上位の治癒力を持っていそうな気がするが、一体どのようなものなのだろうか。
「魔法を使える人がまず初めに習得できると言われているのが、自己再生。つまりはエディの言う回復魔法のようなことだよ」
「えっ......?」
一番最初に習得できることが回復魔法と同程度のこととは、どういうことなのだろうか。
もし仮にそうだとしたら、この世界の人類は相当強固な生き物になる。
回復魔法自体、高度な魔力操作が必要になるだけでなく、必要な魔力量も桁違いに多い。あくまで僕のもといた対界でのことなのだが。
「そんな高度なことを最初に習得するのか?」
「高度......?エディにとってはそうなのかもしれないけど、私たちからすれば、擦り傷程度だったら小さな子供でも治せるよ」
「そんなまさか......」
どうやら、この世界の常識は違ったらしい。
「でもそっちの魔法って、発現させるのには少し難しくないか?魔法のイメージや詠唱があったりとか......」
「あぁ、勘違いしているね、エディ」
「ん?どういうことなんだ、カイレン?」
勘違いとは、一体どんなことを指すのだろうか。
「自己再生自体、魔法でもなんでもないよ。私が寒い場所でも薄着でいられるのと一緒。全部願力の操作だけでできることなんだ」
「......え?」
「ふふっ、エディったら。そんな顔しないでよ」
――願力の操作だけでできることだと?
ああ、これはあれだ。僕の知っている願力と、この世界の願力は似て異なるといういつものパターンだ。
きっと、今の僕は面白い顔をしているのだろうな。こんな訳の分からないことを言われて、何気ない顔でいられるわけがない。
「私たちが魔法と言っているのは、本来自分だけが対象の、願力操作によって得られる効果を体外に放出する行為を指しているんだ」
「えっ、そうだったのか?」
「うん」
ここにきて、また僕の中の魔法の概念とこの世界の魔法の概念に齟齬が生じた。
やっぱり、この世界の魔法は僕のそれとは根本から違うということが証明された、そんなような気分だ。
僕からしてみれば、願力は魔力を操作するための念のような、空気のような実体のつかめないもの。いくら理が違うとはいえ、微かに通ずるところがあるせいで、余計に理解しずらい気がした。
「やっぱり、エディの中の願力と私たちの中の願力では性質が全く違うみたいだね」
「いや、でもこの前レイゼから願力を吸い取られた時があったから、性質が違うということはないと思う。ただ、概念が違うことは確かだ」
僕はレイゼに願力操作をしやすいようにしてもらったおかげで、願力の体内操作のイメージができるようになった。これだけでも、この世界の魔法について少し理解が進んだように感じたが、まだまだ知らないことだらけだ。
「うーん、難しいね」
カイレンは困ったようにそう呟いた。
「まぁ、エディの質問に答えるならば、私たちはある程度の傷だったら願力の操作だけで治せる、ってことになるかな」
エイミィは会話を締めくくるようにそう言った。
「まぁ、どうして願力だけで治せるんだ?って聞きだしたらきりがなさそうだから、この話題はここで終わりにするか」
「私も、あまり難しい話をすると眠くなっちゃうからねぇ」
意外ではないが、カイレンはこう言った会話はあまり得意ではないようだ。そう思うと、いつもは記憶のない僕のために頑張って教えてくれていたのだな。
会話にひと段落が付き、再び窓の外を眺める。
先程まではあまり振っていなかった雪も、今では離れた場所からでも降雪が確認できるほどには振り出していた。
「あぁ、これは少し厄介なことになりそうだね。視界が悪くて場所がわからなくなりそうだ」
カイレンは窓の外を見てため息を吐いた。
任務さえなければ綺麗だと言えたはずだろうに。
さすがに周囲の魔力をすべて使うことができたとしても、広範囲の雪雲をどかせるほどの規模の風魔法は使えないな。せいぜい直上の雲だけを晴らす程度だ。
「アベリン達は......お、噂をすれば」
カイレンが口を開いた瞬間、部屋の扉が叩かれた。
「失礼します」
「入るよー!」
扉が開くと、相変わらず冬だというのに軽装のアベリンとベリンデが姿を現した。
その後ろの方を見ると、セノールが立っているのが見えた。
「皆さんお揃いっすね」
セノールは何やら地図のようなものを抱えていた。
「さぁさぁ、アベリンちゃんとベリンデちゃん。どうぞここに座ってね」
「はーい!」
アベリン達はセノールに促され、僕らと相対するように席に着いた。
「コホン。えー、では今から最終確認をしたいと思うっす」
そう言うと、セノールは地図を机に広げた。
この世界の全体が描かれた地図。以前見た時と比べて見覚えのある国名がいくつか増えていた。
「まず、今回発生している地脈異常の発生源は、グラシア南東ミリカナ帝国国境付近。大体ここら辺っす」
セノールはそう言うと、該当部分に指を指した。
発生源とされている場所はミリカナ帝国の国境とかなり隣接していた。
「そして、その規模から推測するに、願魔獣の発生数はおよそ10体。現在帝級魔願術師のクレウルム様一行によって、弱小個体3体が既に討伐されたらしいっすが、未だ戦力不足の状態が続いているらしいっす」
帝級魔願術師。カイレンやエイミィのような十二魔願帝のことなのだろう。一体どのような人なのだろうか。
それに加え願魔獣にも、個体差があるということがセノールの話からわかった。
「それと、移動手段についてなんすが......」
セノールはそう言いながら窓の方を見た。
「セノールさん。それに関しては僕がアベリン達の分まで飛翔魔法を発動させます」
「えっ、エディゼート君。そんなことをして疲れたりしないのか?」
セノールは心配するようにそう言ってきた。
「大丈夫だよ!エディはすごいんだ。この前私たち二人と一緒に空を飛んでもへっちゃらだったんだ!」
「ほう......」
セノールはアベリンの言葉を聞いて興味津々な様子で僕を見た。
「あはは......。ま、まぁ僕は全然問題ありませんよ」
「そうなんだ......。やっぱり、エディゼート君ってすごいんだね!」
きらきらとした眼差しを向けられると、どう反応すればいいかわからなくなりそうだ。
「さて、拠点についてなんすけど、拠点はミリカナ帝国国境付近の『ニグルス村』という場所っす。それで皆さんにはこれを......」
そう言うと、セノールは腰に巻き付けていたポーチのようなものから、円盤状の小型の何かを取り出した。
セノールから渡されたものは、方位磁針のようなものだった。
「セノールさん、これは普通の方位磁針よりも針が多くないですか?」
ベリンデがセノールにそう尋ねる。
「これは青い針が常に拠点に設置された魔道具の方を向く一種の便利道具みたいなものなんだ」
「なるほど。こんな便利なものがあるのですね」
ベリンデは興味深そうに頷いた。
「とりあえず最初は拠点の方に向かってほしいっす。そこで指示が出されると思うので」
セノールの説明を聞いて、いよいよ任務が始まるのだなという気持ちが強まってきた。
地脈異常の対処自体、アベリン達は初めてなのだろうか。そうであろうとそうでなかろうと、僕が足を引っ張るようなことがないように頑張らなくては。
「確認事項はこれで以上になるっす。俺は後で拠点に向かうので、皆さんのご健闘を祈るっす!」
「「はい!」」
「それでは、解散!」
期待と不安を抱えながら、この世界に来て初めての任務が、今この瞬間始まった。
――そんな僕の心を反映するように、雪は次第に強さを増していった。
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