第13話 冒険者の手伝い

「――んぅ......眩しい」


 日の光と共に目を覚ます。


「......はぁ」


 昨日は散々な目に遭った。そうなる原因を引き起こしたのは他でもない自分自身なのだが。

 一斉に質問攻めをくらいそうになったが、ガネットやカイレン、エイミィたちが気を利かせて共に質問に答えてくれたため、最悪の状況には至らなかった。


 ――僕は『見願』の願力特性をもつ特殊な存在ということになった。


 願力特性の中でも二百年に一度ほどの周期にしか現れないような非常に稀有な能力らしいが、最後に『見願』が確認されてからおよそ百年ほど経過したらしいので、過度に怪しまれずに済んだ。


 ベッドから起き上がろうと毛布をあげようとする。


「......ん?」


 しかし、何かに引っかかって動かなかった。


「――すぅ――すぅ――」


「ん......またこいつ」


 今日も今日とて、カイレンはいつの間にか僕のベッドで寝ていた。

 部屋の中を見渡すとすでに起きていて身支度を整えていたエイミィと目が合う。


「おはよう、エディ」


「おはよう。僕もそろそろ支度をしなくちゃだな」


 今日は昨日会ったセノールという魔願術師協会の職員から規則事項や任務の大まかな流れを聞きに行く予定があった。

 今日のところはカイレンの悪行に目をつむっといてやろう。正直、冬の寒い今はカイレンの体温で温められた毛布が心地よかった。


「......エイミィ、その、同室で見苦しいものを見せてしまってすまない」


 何となくだが、これから先カイレンにベタベタされているのをエイミィに見せ続けるのも悪いような気がしてきた。


「見苦しいだなんて、そんなことないよ。私は逆にカイレンがエディみたいな人を見つけられてよかったって思ってるよ。これは紛れもない本心」


「そっか」


「うん。それに私はエディならきっとカイレンのことを大切にしてくれると信じているから」


「はは......」


 僕は『可変制服』に着替える。

 昨日の騒動もあって、帰り際にガネットから声をかけられた。

 最初は何か言われるのではないかと内心びくびくしていたが、意外にも早い段階で僕に可変制服を渡してくれることとなった。


 実は既に現物は昨日の時点で用意されていたらしく、後日渡す予定だったものをそのまま受け取った。

 ズボンや上着など、可変制服の原型はいくつかのパーツに別れていた。

 最初は大きめのサイズだった原型も、着こんだ後にカイレンに願力を流してもらうと僕の体形にフィットするように形状が変化した。未だこの制服に他の衣類のバリエーションはないが、それでも蓄願素材を練りこんだ特別仕様の可変制服は世界で僕だけの特注品だ。

 今後実際に僕がこの制服を着て活動し、その際に性能を記録し改良を重ねていくそうだ。


「さて、僕は本部に行ってくるよ」


「わかった、いってらっしゃい」


「いってきます」


 エイミィに見送られながら僕は宿を出た。




――――――




 協会本部にある一室、僕はセノールの講義を受けていた。


「――つまり、エディゼート君はこの合同任務で俺が戦闘員として十分な実力があると判断できれば、協会の公認魔願術師となれる。というわけで、頑張ってくれ!」


「わかりました」


 カイレンからの推薦ということで魔願術師協会に所属した僕だが、正式に任務を与えられるためには研修で実力を認定される必要があるらしい。

 どうやら研修の際は、セノールのような職員がその審査のために同行するらしい。


「それと、無事この協会の魔願術師になれた時は是非十二魔願帝の資格審査もやってみてくれ!昨日のアベリンとベリンデの同時攻撃を防ぐほどの願力の強さに、『見願』の能力があればなれる可能性は十分にあるはずだ」


「え、僕がですか?」


 そもそも願魔導師である僕が魔願帝になっていいのだろうか。


「うん!十二魔願帝は世界各国のトップ魔願術師から選出され、さらにそこから順位付けされる。カイレン様はこの魔法都市『ディザトリー』代表。エイミィ様は『トーステル王国』代表。ところで、エディゼート君はどこの国の出身なのかな?」


 僕の出生に関する話がセノールから持ちあがる。


 さて、さっそくカイレン達と決めた話に沿って会話を進めていくか。


「僕は......実は、物心ついたころの記憶しかないのです」


「えっ、そうなの?家族や友人はいないのか?」


 今度こそ怪しまれないように慎重に答えなくては。そうは言っても、設定自体が十分に怪しい内容なのだが。


「はい。グラシア北部の森林地帯で魔法の記憶を頼りに一人で生活をしていました。カイレンとはそこで出会って、この魔願術師協会にスカウトされました」


「そっか......」


 怪しまれただろうか、でも今はこう言う他選択肢はなかった。


「エディゼート君」


「......はい」


 僕は固唾を飲む。


「今まで大変だったねっ!」


「――はい?」 


 セノールはそう言うと僕のがたをグッと掴んで揺すった。

 いや、セノールに涙ぐまれても困るのだが。


「俺は孤児院出身でね。エディゼート君のことを聞いたら何故だか勝手に涙が。うぅっ」


「あはは、そんな涙ぐむような話をしましたっけ?」


 まぁ、とりあえず変に怪しまれずに済んでよかった。


「えーと、どこまで話したっけ?ああ、そうだ。エディゼート君、君は俺が今まで見てきた魔願術師の中でも異質な存在だ。実際に見たことはないが、百年ほど前にいた『見願』の魔願術師は、その巧みな願力操作によって誰も見たことのない魔法を発明して使っていたそうだ」


 そうなると、もしかしたら魔法の見た目が少し異なっていても言い訳ができるのではないのだろうか。


「だから俺は任務で君の魔法が見れることを楽しみにしているよ!説明会は以上、では解散!」


「えっ、もう終わりなのですか?まだ他にも......」


「ほら、後ろで君のことを待っている人がいるよ」


「えっ、ってカイレンたちか」


 後ろを振り返ると、扉のガラス越しにカイレンとエイミィ、それにアベリンが跳ねながら頭を覗かせていた。見えないが、多分ベリンデも扉越しにいるのだろう。


「実は規則のほとんどは戦闘員の行動規範、主に言動で注意すべき点とかで構成されていてね。エディゼート君は言動から注意すべき点が見つからなかったから、俺から君に教えることはほとんどない。ということで、いってらっしゃい!」


 セノールはそう言うと笑顔で手を振った。

 まぁ、他に聞きたいことがあればカイレン達に聞けばいいことだ。

 僕は早速部屋を出た。


「やぁ、みんなしてどうしたんだ?」


「エディの様子を見に行こうとエイミィと一緒に本部に来ようとしたら入口で二人に出会ってね」


「それで二人も一緒にいるんだね」


 するとアベリンは腰に取り付けられたポーチから丸まった紙を取り出した。


「ねぇ!あたしたちと一緒に飛龍を倒しに行こうよ!ちょっと遠いけど」


 アベリンは取り出した紙を広げると僕たちに見せた。

 紙には飛龍の絵と成功報奨百二十万ネールと書かれていた。場所はディザトリーから少し離れた西部の街道沿いの崖。それに加え注釈として、「赤褐色の隻眼」「仲間を呼ぶ可能性あり」と書かれていた。


「報酬が百二十万ネールって、結構な金額なんだな」


「だって飛龍退治ってすっごく大変なんだよ?空を飛んでるし、強いから」


「それにこの街道は一部の商人が利用している迂回ルートでもあるため、報酬が上乗せされているのですよ」


「なるほどね」


 アベリンとベリンデの補足から、飛龍による被害は人的なものだけでなく、交易などの面においても被害が出ることがわかった。


「えーと、今はまだ昼前だな。それで、カイレンとエイミィはどうなんだ?」


「私たちはエディさえよければ行こうかなって思ってるよ。任務の前に少しだけ立ち回りとかを確認したいからね」


 それなら確かにこの討伐依頼は絶好の機会となるだろう。


「わかった。それなら是非僕も行きたいな」


「やったー!それじゃあ早速準備だね!」


 アベリンは嬉しそうに小さく跳ねた。


「では先ほど空きの馬車があるのを確認したので、あたしは城門の外で待機しています」


 するとベリンデは廊下の奥へと姿を消していった。


「じゃあ私たちは必要そうなものを準備しに行こっか」


 距離的に馬車で移動することを考えると途中で野営を挟むことになるそうなので、僕たちは食料を準備することにした。 




――――――




 準備を終え、城門を出るとベリンデが馬車に乗って待機していた。馬車は屋根がついていない比較的簡素な作りの荷台が取り付けられ、いくつか大きめの木箱が乗せられていた。


「先ほどクエストボードを確認したところ、あたしたちが目的地に行くまでの道中で盗賊被害が続出しているそうです。盗賊と遭遇する可能性も考えて、それらの討伐依頼も受注してきました」


 なんと効率的な考え方なのだろうか。報酬を考えると、是非とも盗賊側からこちらに会いに来てもらいたいものだ。

 するとベリンデは少し色あせた外套のようなものを荷台から取り出し、身に着けた。


「盗賊たちは冒険者が多数同乗しているような馬車を襲いません。ですので、皆様には少し大変かもしれませんが、盗賊の被害が多い区間では木箱の中で待機しててもらいます」


 なるほど、さすが冒険者だ。盗賊側から来てもらえれば、こちら側からわざわざ出向く必要がなくなる。


「へぇ、冒険者らしい作戦だね。私だったらこんなこと考え着きもしなかったよ」


「カイレン様やエイミィ様、それにあたしたちは顔が知られすぎているためこうでもしないと襲われることがないと思います。本当は、夜になって野営をしているところを襲ってもらえる方が楽なのですけど、あくまで今回の目的は飛龍討伐ですのでこのプランでいきたいと思います。では行きましょう」


 ベリンデの言葉に従い、僕たちは荷車に乗り込んだ。


「出発します。――『操獣カーダトラナ』」


 ベリンデが短く詠唱すると、馬車が動き出した。


「今ベリンデが使った魔法はどんな魔法なんだ?」


「これは獣人が得意とする魔法の一つで、自身より願力抵抗が弱い人以外の生物の意識を占領できる魔法です。死後であれば、魔物の死骸を利用することも可能です」


「へぇ、便利な魔法があるんだな」


 そう言えば、送戦儀式のとき牙獣を操っていたのはベリンデだった。あれはこの魔法を使って牙獣の死骸を動かしていたのだな。

 しばらく僕らは馬車に揺られながら街道を進んでいった。



――――――



「――そろそろ盗賊が現れるポイントに近づいてきました。皆さん、準備をしておいてください」


 ベリンデはそう言うと、外套のフードを深くかぶった。

 僕らは木箱の中へと身を隠す。木箱が丁度人数分あったことをカイレンは悔やんでいた。




 ――身を隠してからしばらく経っただろうか。一向に盗賊が現れる気配がなかった。


「盗賊来ないね」


 隣の木箱からカイレンの声がした。


「えー、あたし戦いたかったのに残念」


「こらこら二人とも、静かにしてないとバレちゃうかもよ。――ん?」


 エイミィが口を開いたその瞬間、馬車の速度が徐々に遅くなっていった。


「――えー、皆さん。前方に不自然に倒れこんだ傷だらけの男性がいます。おそらく盗賊の仲間でしょう。戦闘の準備をしておいてください」


 どうやら盗賊が現れたらしい。

 木箱の隙間から周囲を見渡すが、人影は見られなかった。おそらく、周囲に生えている木々の裏で待機しているのだろう。

 馬車は倒れこんでいる人のそばまで移動した。


「――そ、そこの人、大丈夫ですか?」


 ベリンデはまるで盗賊を誘い込むようにか細くたどたどしい言葉遣いでそう言うと、馬車を降り立った。


「あぁ、助かった。森をさ迷っていたら魔獣に襲われて動けなくなっていたんだ」


「そ、そうですか。あの、よかったら馬車に乗ります?」


 すると男は何かの合図のように二度大きな咳払いをした。


「そうしたいところだが、悪いな嬢ちゃん。この荷馬車ごともらっていくぜ!――『顕願ヴァラディア』」


「ひいぃーっ!」


 すると男は魔法で短剣を取り出すとベリンデに向けて突き出し、ベリンデはそれに怯えるように悲鳴を上げた。それと同時に、周囲の木々から盗賊の仲間らしき人物たちが大勢姿を現した。木箱の隙間から見えるだけでざっと十五人ほどの大人数だ。全員『顕願ヴァラディア』によって武器を生成し、武装していた。


「おいお前ら!馬車だけでなく獣人のガキまで来るとは運がいいぞ!とっとと奪いだせ!」


 ベリンデを拘束している盗賊が声を上げると、木々に潜伏していた盗賊たちが下品に笑い出した。


「――はぁ、本当に馬鹿だね」


「あぁん?なんだガキ。今から殺されてぇのかぁ?」


「もうういいでしょう。――皆さん、お待たせしました!思いっきり半殺しにしてあげましょう。さあ!」


 ベリンデの合図で僕たちは木箱から勢いよく飛び出す。


「なっ?!木箱に隠れていただと?!ぐぁあーっ!」


 ベリンデは自身を拘束していた盗賊の腹部を強打すると、盗賊はうめき声を発してその場に倒れこんだ。

 予想外の出来事に、盗賊たちはざわめきだす。


「――いいや、慌てるな!数なら俺らの方が上だ......って、おい待て!カイレン?!それだけじゃねえ!エイミィに白牙のアベリンまで!」


 盗賊たちはカイレン達の姿を見ると青ざめたような表情をした。

 すると喧騒の中、木箱の上に立つカイレンとエイミィから、願力のほのかに赤い光が見えた。


「はいはーい!盗賊の皆さん。今からちょーっとだけ無力化させていただきますよ。いくよ?エイミィ。せーのっ!」


「「――『調界イノヴニス』!」」


 翼のはえたエイミィとカイレンは同時に「破願」の効果が付与された願力領域を広範囲に展開させる。

 すると、盗賊たちから『顕願ヴァラディア』によって形成された武器が次々と消滅した。

 突然の出来事に、盗賊たちはいよいよ目に見えて統率が崩れ始めた。


「クソッ、願力が乱れて使えねぇ!おい野郎どもっ、撤退する――ぐああぁっ!」


 願力領域の中、逃げ惑う盗賊たちを素早く殴打で気絶させていく二つの影があった。


「くっ、来るな!やめっ――!」


「あっははー!弱い弱い!おりゃっ!」


「お姉ちゃん、殺さない程度にちゃんと手加減してよね」


 アベリンとベリンデは撤退しようとする盗賊たちを、魔法を用いずその身体能力のみで蹂躙していく。

 戦闘開始の合図がされてまだ三十秒ほどだが、周囲にいた盗賊はほとんど無力化できた。




「――さて、残るは君だけだ。もし、アジトの場所を言ってくれるのなら優しく気絶させてあげるよ」


 カイレンはアベリンに拘束された最後の盗賊にじりじりと近づきながらそう言った。


「だ、誰が言うかそんなもの!」


「そっか、残念。それじゃあエディ、締めをよろしくっ」


「はいよ。ちょーっと痛いかもしれませんよー」


 僕は指先を盗賊の鼻先に近づけると、バチバチと雷撃を発生させてみせた。


「や、やめてくれ!頼む!それだけは!――ギャアァッー!」


 毎度恒例、カイレンへの電撃お仕置き。それのスペシャルバージョン。

 電撃を与えると盗賊は白い泡を吹いて倒れこんだ。


「ふぅ、依頼達成かな?」


「はい。皆さん、お疲れさまでした。拘束具を持ってきましたので、逃げられないようにしましょう」


「「はーい」」




――――――




 盗賊たちの拘束が終わると、ベリンデは街道を物凄い速度で駆け抜けていった。

 どうやら盗賊の後処理は騎士団に任せるとのことで、連絡を取りに行ったそうだ。街道沿いにいくつか小さな石塔が建っていて、その中には近隣の騎士団へと連絡が取れる魔道具があるらしい。


「さて、そろそろ暗くなってきたから、ここら辺で野営の準備でもしましょうか」


 エイミィはそう言うと野営ができそうな場所を探すために空に向かって飛び立った。


「なぁ、カイレン。エイミィって戦闘中だといつもあの翼と尻尾がはえた姿になるのか?」


「そうだね。あの姿になると願力の変換効率がよくなるらしいけど、中途半端に吸血族の血が残っているせいで、長時間あのままでいると吸血衝動が襲ってきて気分がムズムズしちゃうんだって」


「いろいろと大変な体質なんだな......」


するとエイミィは徐々に高度を下げ、ゆっくりと着地した。


「ここからもう少し進んだ先に開けた場所があったから、そこで野営をしよう」


 そう言うとエイミィは翼と尻尾を消した。


「わかった。あとはベリンデが......お、丁度いいタイミングで来たね」


「只今戻りました」


「それじゃあお腹も空いてきたし、早く野営の準備をしよう!」


 カイレンの言葉に従い、僕たちは馬車に再び乗り込んだ。





――――――





 完全に日が暮れ、辺りはすっかり暗くなった。

 野営の拠点となる場所は少し岩がちな地形で、周囲に生えている木々が少ないため、周囲の警戒がしやすくなっていた。

 僕らは着くと、すぐさま火を起こし夕食の準備に取り掛かった。

 今晩のメニューは、塩と香辛料で味付けされた乾燥野菜と干し肉を厚めの固いパン生地で包んで焼いた、『冒険者めし』だ。街ではこれが焼くだけの状態で売られていた。


「見た目はただのパンだけど、味はどうなんだろう。まぁ、食べてみるか。どれどれ......うん、なるほど。うん......うん」


 良くもなく、悪くもない、不思議な味と食感。保存が効く食べ物と考えれば、悪くないのかもしれないが、僕は思わず微妙な表情をした。

 一方でアベリンやベリンデ、それにカイレンやエイミィは美味しそうに頬張っていた。


「ん、エディ。これが美味しいと感じないようじゃ、冒険者はやっていけないよ?冒険者はこの『冒険者めし』がうまい!って感じられるようになってようやくスタート地点に立てるんだからね!」


「......アベリン、僕は冒険者を目指しているわけじゃないよ?」


「あれ?そうだっけ」


 アベリンの中で、いつの間にか僕は冒険者を目指している人扱いになっているのは何故だろうか。


「でも、エディさんが望むならいつでも「白牙」に来てもらってもいいですよ。昨日、あたしたちの攻撃を同時に受け止められた時点で、入団要件とクエストの同行要件は十分すぎるくらいに満たされています」


「そうだったのか?」


「はい」


「あたし悔しかったんだよ!あたしたちの攻撃を受け止めちゃうんだから」


 冒険者は冒険者でギルド加入に必要な入団試験があったりするのか。どうやら僕は「白牙」の入団要件をいつの間にか満たしていたらしい。


「ちょっと、二人とも。エディは私のものなんだから絶対に渡したりしないからね!」


「はは、そうですよね。エディさんはカイレン様の婚約者ですものね」


「......えっ?」


 最初聞き間違いかと思ったが、確かにベリンデは僕のことを婚約者と言った。


「ジルコ騎士団長に勝てるほどの実力を持っていれば、あたしたちの攻撃を防げたのも納得です」


 あぁ、なるほど。このブレスレットを見てベリンデはそう言ったのだな。というか、これを身に着けているだけでそう解釈されてしまうのだろうか。


 ――まぁ、どうでもいっか


「うーん、近くに水が飲める場所はないかなー?」


 するとアベリンは困った様子でポーチから取り出した水筒を逆さにして振っていた。


「お姉ちゃん、もしかして水を入れ忘れたの?あたしのあげるから、ほら。飲みすぎないでね」


「へへ、ありがと。んー!やっぱり冷えた水が世界で一番おいしい!」


 アベリンはベリンデから投げ渡された水筒を受け取ると、美味しそうに水を飲んだ。


「二人とも、水がなくなったら僕がいくらでも創り出せるから声をかけてくれ。ほら、空になった水筒を貸して」


「えっ?あ、はいどうぞ」


 僕はアベリンから手渡された水筒を受け取り、中に魔法でつくった水を注ぎ込む。


「えーっ、すごい!あたし魔法で水をつくれる人、初めて見た!」


「本当だ!エディさん、あなたはこの魔法だけでいろんな冒険者パーティーから引っ張りだこの存在になりますよ!すごいです、本当にすごいです!」


 アベリンもベリンデも、この魔法に興味津々のようだった。

 そうか。この世界の魔法は、主に対となる現象の具合を操作して発現させる仕組みであるため、何かを作り出すことは難しい魔法に分類されるのか。


「あはは、こんなにも驚かれるとは......」


「やっぱり、歴代の『見願』と同じでエディさんはあたしたちが知らない魔法を使うことができるのですね!他にはどんな魔法があるのですか?」


「エディ!あたしにももっと教えて!」


「え、ええと......」


 カイレンたちに目で助けを求めるが、微笑ましそうにこっちを見ているだけだった。


「エディったら、まるで二人のお兄ちゃんみたい」


「ふふっ、ほんとだ」


「二人とも......」


 アベリンとベリンデからの質問攻めを回避するためにどうしようかと考える。


「うーん、逆にこんな魔法があったらいいなぁ、って思う魔法は何かないのか?」


 するとアベリンとベリンデは互いに顔を合わせて、「うーん」と唸った。


「食べ物!あたしいつでも食べ物が作り出せる魔法があったらいいな!ねぇ、エディ。そういう魔法ないの?」


「食べ物か......。それはちょっと無理かな」


「そっか......」


 アベリンは残念そうに耳を垂らした。

 水などの属性に関するものであれば作り出すことが可能なのだが、逆に言うと僕の魔法は属性に縛られているため、新しく魔法を作り出すことは非常に困難だ。ただ、結界魔法の『絶界』のように複合属性の魔法も存在するため、一概にそうだとは断言できない。


「あたしは......魔法じゃないですけど、魔力から直接魔法を発動できたらいいなぁ、って思います」


「えっ......そっか」


 一瞬、肝がヒヤッとしたような感覚が襲ってきた。

 まだ僕は周囲の魔力を直接消費して魔法を発動していない。おそらく、僕が願魔導師だとはバレていないと思うが。


「どうして、ベリンデはそう思うんだ?」


「願魔獣のように、魔力から直接魔法を発動することができれば魔法が使いたい放題じゃないですか。それに年をとっても魔法の力が弱まることもない」


 なるほど、実にもっともな考えだ。


「それと誰でも空を自由に飛べる魔法があればいいなとも思います。有翼種以外の獣人は、その手の魔法が苦手なので」


 夜空を見上げながら、ベリンデは儚げにそう言った。


「そっか......じゃあ今から一緒に飛んでみるか?アベリンも一緒に」


「あたしもいいの?!」


「えっ......いいのですか?」


 四つのつぶらな瞳が僕に向けられた。


「ああ。飛んでみたいんだろ?」


「うん!ねぇ、それじゃあ早くいこうよ!」


 ベリンデに勢いよく腕をつままれる。


「まぁまぁ、落ち着けって。――それじゃあカイレン、せっかくの機会だ。願力を可変制服に注いでくれないか?」


 僕はカイレンに向けてそう言う。


「おぉ、確かにそうだね。わかった」


「頼んだ。......ん?どうした、カイレン。え?なっ!?」


 カイレンは手をかざすわけではなく、僕を正面から抱きしめた。


「......なんで抱き着いてんだよ」


「だってこの方が効率よく願力を溜められるんだもん」


「そうなのか?」


 確かに、全身が蓄願素材でできているならそうなるのか。


「ううん、わからない」


「いや、わからないんかいっ」


 ――あぁ、なんだか皆の前でカイレンに抱きしめられている姿を見られるのがとても恥ずかしい


「ひゅー!エディとカイレンあつあつだねぇ!」


 早速アベリンから冷やかしの言葉が飛んでくる。


「はぁ。アベリン、あまりそういうことをカイレンの前で言わないでくれ。こいつが調子に乗るから」


「調子になんて乗らないよ。ほら、これだけ注げば十分かな」


 カイレンはそう言うと腕を離した。

 すると制服からカイレンの願力の淡い光が少しずつ滲みだしているのが見えた。


「おぉ、すごいな」


 腕を少し動かすと残像のようにカイレンの純白の願力が滲んで見えた。


「願力を制服に溜めるというのは一体どういうことですか?」


 ベリンデは不思議そうに首をかしげながらそう言った。


「この可変制服は特別仕様でね。願力を溜めることができて、さらに溜めた願力を放出する素材でできているんだ」


「なるほど。でもそれではカイレン様の『破願』の効果で魔法が使えなくなるのではないのですか?」


「......えーと、僕はエイミィと同じで願力の特性をいじっているから大丈夫なんだよね、はは」


 ――その場しのぎで言ってしまったが、大丈夫だろうか。


「なるほど、さすがエディさんです。変質の上位魔法『転変カイゼミィ』も使えるのですね」


「あ、ああ。そうだね」


 なんとか誤魔化すことができた、のだろう。


「二人ともいいなぁ。ねえエディ、今度私とエイミィも連れてってよ」


「えっ、私も?!私は高いところが......」


「いいじゃん!きっと楽しいよ」


「そうかなぁ......」


 どうやらエイミィは高い場所が苦手らしい。


「今度な。それじゃあ行ってきます。――『飛翔イアルヴ』」


 魔力を吸収して偽りの詠唱をする。

 僕が唱えるのと同時、そばに立っていたアベリンとベリンデ、そして僕の体が徐々に高度を上げていった。


「うわっ!?体が勝手に!」


「......これが、空を飛ぶ感覚なの?!」


「二人とも、歯を食いしばって気を確かにな。――いくぞっ!」


 驚いた様子を見せる二人をよそに、僕は周囲の魔力を大量に消費して一気に速度を上げる。

 少し寒いくらいの冷たい風が、全身にのしかかった。


「すごーいっ!」


「ひゃーっ!」


 二人の声と風を切る音と共に直上へ。

 一瞬にしてカイレン達が見えなくなほどの高さまで僕たちは上昇した。


「すごい、雲と同じ高さだ!」


 雲に届きそうなほどの高さで、一度滞空する。


「――どうだい?二人とも、空からの眺めは」


 僕らの眼前にはどこまでも広がる雄大な山々の景色、そしてほのかに青白い月光が雲間から覗いていた。


「きれい、すごくきれいだよ!」


「......」


 アベリンは絶景を前に興奮していたが、ベリンデは対照的にその景色を無言でしみじみと眺めていた。


「あたし、エディみたいに速くて高くまで飛べる人初めて見た!もしかしてカイレンに願力を注いでもらったのってこのためなの?」


「えーと、ああ。そうだね」


 そうか、そのような視点もあるのか。この服はいわば魔法を発動するために必要な願力を貯蔵するタンクのような役割も果たせるという解釈は、なかなかにいい。


「......」


 何となくベリンデの方を向いてみると、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。


「......ありがとうございます、エディさん。この景色、一生の思い出にします」


「そう言ってもらえてよかった。目に焼き付くまで、ずっと眺めていよう」


「はいっ......!」


 僕らはしばらくの間、絶景を前に何も言わずに宙を舞っていた。






――――――






「――それじゃあもう一度作戦を確認するね。私とエイミィの願力領域の有効範囲内まで目的の飛龍をおびき寄せたら、領域を発動させて飛べなくさせる。そしたら領域を解いて後はみんなで一斉攻撃。わかった?」


 朝になった今、僕たちは飛龍の出現場所まで馬車で移動していた。


「わかった!」


 アベリンが元気よく返事をする。


「作戦にしては、少し行動内容に具体性がなくないか?どんな魔法を使うとかさ」


「いいのいいの。だって今の私たちの戦力は小国一つの軍隊であれば壊滅できるほどのものだよ?行き当たりばったりでなんとかなるって」


「そういう油断が命を危険にさらすことになるのになぁ」


 実際そうだ。いくら飛龍の魔法による攻撃がすべて無効化できたところで、爪や尻尾などの体を使った攻撃は防ぐことができない。


「それ以前に、私はエディが他にどんな魔法が使えるのかがわからないのだけどなぁ」


「うぅっ、わかった。覚えてる限りであれば話すよ」


「まぁまぁ、それは今じゃなくてもいいよ。それよりエイミィ気合十分だね」


 エイミィは既に翼と尻尾をはやした状態で待機していた。


「だって相手は飛龍だもの。体を少しでも慣らしておかないとだからね」


 エイミィはそう言うと翼をぱたぱたと動かした。


「――皆さん、そろそろ飛龍の出現場所に近づいてきました。戦闘の準備をしておいてください。あたしたちの戦力なら問題はないと思いますが、くれぐれも油断しないよう気を付けてください」


「エディ、わかった?」


「ああ」


 アベリンに念押しされる。

 馬車は崖近くの山道を走っていた。周囲は見晴らしがよく、あまり高い気も生えていなかった。


「......ん?あれって」


 遠くの山の際でいくつか黒い影が飛行しているのが見えた。


「あー、いたね。飛龍の群れだ。それにしても、ここまで来ることがあるんだ」


「もしかしてグラシアの地脈異常の影響かな?」


 カイレンとエイミィは馬車の荷台から少し体を乗り出しながらそう言った。


「今回討伐するのは飛龍の中でも赤龍と言われる、火を噴いてくる種類です。服を燃やされないように注意しましょう。――おや?早速何匹かこちらに向かってきましたね」


 するとベリンデは馬車を止めた。崖際の街道の幅は十分であったが、何かの拍子に吹っ飛ばされたりでもしたら下まで落ちてしまいそうなほどだった。

 数匹の飛龍は僕らの上空を円を描くように旋回し始めた。


「おそらくやつらの狙いはこの馬たちだね。アベリンとベリンデ!馬たちがやられないように気を付けて!」


「わかった!」


「わかりました!」


 カイレンの忠告通り、飛龍たちの目線は馬へと向けれらていた。


「――くるよっ!」


 すると上空で旋回していた飛龍たちは、一斉に馬目がけて一直線に飛び込んできた。


「いくよお姉ちゃん!せーのっ!――『顕願ヴァラディア』!」


「――『瞬動デューザ』!」


 アベリンとベリンデは互いに魔法を掛け合うと、目にも止まらぬ速さで飛び込んできた飛龍たちを薙ぎ払う。


「――キイイイィィィッ!」


 飛龍の細い体はアベリンたちの一撃により、真っ二つに切り裂かれた。

 仲間が目の前で切り裂かれるのを見て、上空にいる飛龍たちが一斉に叫びだす。


「アベリン!ベリンデ!今二人に身体強化の魔法をかける。(――『昇能』)これで戦いやすくなるはずだ!」


 無詠唱で身体強化魔法をアベリンとベリンデに付与する。


「おお?!なんだこれ!すっごい力がみなぎるぞ!グラァアーッ!」


「すごい!体が軽い!よーしっ!」


 身体強化の魔法によって身体能力が飛躍的に向上した二人は、飛行している飛龍をなぎ倒しながら足場にして空中戦を展開していた。


「――本命の飛龍が来るまで、こいつらを狩り続けるよ!」


 カイレンの言葉と同時、先ほどまで数えるほどしかいなかった飛龍がいつの間にか上空に数えきれないほど集まっていた。


「多数相手なら私たちの出番だね!――「顕願ヴァラディア」!」


 カイレンが唱えると、周囲にいくつもの短剣状の像が出現し、上空にいる飛龍に向かって一斉に射出された。弾幕のように射出された願力の像は、上空にいた飛龍たちに避ける隙を与えなかった。

 血しぶきと共に飛龍たちの叫びが周囲に響き渡る。


「エイミィ!これだけ血があれば十分かな?」


「問題ないよ!――『操血トノーカ』!」


 エイミィが手を空に向けてかざし短く詠唱すると、飛龍から飛散した血しぶきが一点に集結してエイミィの翼へと吸収された。

 するとエイミィの翼と尻尾からにじみ出る願力の光が増し、赤い瞳からは日が昇っていても明るく見えるほど願力によって光を帯びていた。


「みんなっ、地上に降りてきて!」


「「了解!」」


 カイレンの掛け声に応じるように空中にいたアベリンとベリンデが地上へと急降下していく。


「ねぇエディ、ちょっといい?」


「えっ?なんだいきなり......」


 僕はカイレンに手で目隠しをされた。


「みんな絶対に目を開けないで!それじゃあいくよ!――『壊心ギューディ』!」


 エイミィの言葉に従い目を閉じる。すると瞼越しからでも明るさを感じるほどの光が甲高い音と共に周囲に展開された。






「――もう目を開けても大丈夫だよ」


 カイレンの手が離れ、エイミィの声に従うように目を開けた。


「......なんだこれ?」


 上空では、混乱した飛龍たちがけたたましく声をあげながら同士討ちを始めていた。

 まるでそれがかつての仲間だと忘れた様子で。


「今飛龍たちに精神異常を引き起こす光を発生させる魔法を当てたんだ」


「こうしていれば群れの異常を感じ取った本命の飛龍がきてくれるはずだからね。それまで私たちはいったん気を落ち着かせよう」


 エイミィとカイレンはそう言って上空を見上げた。


 ――なるほど、そんな魔法もあるのか。


 だが最初から発動できないあたり、必要な願力量が膨大なのだろう。

 飛龍たちが同士討ちをしている中、僕たちは引き続き周囲の警戒を始める。

 しばらく辺りを見渡しているとアベリンが、


「――あっ、見て見て!あそこに片目がないおっきな赤龍がいるよ!きっとあいつだよ!ほら!」


と、大声で僕らの気を引いた。


「どこだ......って、あいつだけ大きすぎないか?!」


 アベリンが指をさす方向、そこには他の飛龍よりも一回り大きな個体がいた。僕らが寝泊まりしている四階建ての宿ほどの大きさだろうか、明らかに強さも速さも通常個体と比べて優っているように感じるほどの威圧感があった。



「――キイイイィィィ」



 ――耳を劈くような咆哮が響き渡る。


「っ!?なんだ?」


 あまりの音圧に、思わず耳を塞いだ。


 すると先ほどまで混乱状態で同士討ちをしていた飛龍たちが正気に戻り、僕らの頭上を等間隔に旋回し始めた。


「さすが龍の咆哮。エイミィがかけた精神異常をこうも容易く打ち消すだなんて」


「やっぱりか。はぁ、いつかあの咆哮の仕組みを解き明かす研究をしたいなぁ」


 カイレンとエイミィは上空にいる赤龍たちに怯んだ様子もなく、小言を言っていた。


「皆さん!おそらく飛龍たちのブレスがきます!防御態勢を」


 ベリンデの忠告により僕らは再び戦闘態勢に入る。


「エディ!あいつが地上付近に来るまで願力領域は見せられないから、防御よろしく!」


「わかった!――「顕願ヴァラディア」!」


 僕は飛龍たちに警戒されないように自身の願力を魔力に変換して、広範囲に及ぶ聖盾を何層にも上空に向けて展開した。


「キィイイィッー!」


 隻眼の赤龍が甲高い声をあげる。

 すると周囲にいた飛龍たちは規則的に旋回し、その円弧の中心に向けて願力を一点に集中させた。

 凝縮された願力は、赤黒い光を放ちながら徐々にその大きさを増していく。


「ねぇ、エイミィ。あの群れのボスって下等だけど古龍種だったりしないよね?」


「カイレン、今私も同じことを考えていたかも......」


 何かを察したかのように二人は呟いた。


「あぁまずいエディ!そいつのブレスはっ――!」


「えっ?っ――!?」


 カイレンの言葉に振り向こうとした瞬間、全身を貫くような衝撃波が突き抜けると、頭上一面が隻眼の赤龍が放射したと思われるブレスで埋め尽くされた。

 中央が光線のように凝縮されたブレスは聖盾に到達すると、凄まじい光を放ちながら聖盾を破壊していく。


「ひゃあっ!?エディ、大丈夫!?」


「大丈夫だカイレン!想定の範囲内だ!」


 皆が心配そうに見守る中、僕はブレスの中心に向けて再度聖盾を展開する。

 聖盾によって四散したブレスは、その威力を変えぬまま周囲の地形を容易く破壊していった。


「――すごい、赤龍のブレスをはじくだなんて......」


「はは、これじゃああたしたちでも割れないわけだ」


 ベリンデとアベリンは小声で呟く。


「さて、我慢比べといこうか!」


 僕は聖盾をブレスを防ぎながら隻眼の赤龍に向けて徐々に押し出す。

 すると隻眼の赤龍は聖盾を破壊しようと、広範囲に放出していたブレスを一点へと集中させた。

 だが、僕の願力の相当を変換して凝縮させた聖盾は、崩れるそぶりを見せずに隻眼の赤龍のそばまで近づく。


「――そろそろいいころだろう!みんな、僕の後ろに!そして耳を塞いで!」


 僕の掛け声に応じて、カイレン達は僕の背後へと移動した。


「これでもくらって――『膨空ぶっとべ』!」


 ――肺を圧迫する程の爆発音と亀裂音が全身を突き抜けた。


「ッギイィイイィッー?!」


 赤龍たちのそばまで移動させた聖盾は、風魔法によって四散した。

 ブレスを耐え続け高熱を帯びた聖盾は、ガラスが割れたような音とともに破片となって周囲に凄まじい速さで拡散していく。


「――『絶界ヴァラディア』!」


 自身の願力を変換させた魔力を消費して周囲を半円状に囲うように結界を発動させる。

 すると飛散してきた聖盾の一部が結界に凄まじい速度で衝突し砕け散った。

 土煙と飛散した破片によって、一時的に視界不良となる。


「なになに?!何が起きてるの?」


「お姉ちゃん、落ち着いて。大丈夫、飛龍たちが落ちている音がする」


 僕には雑音で聞こえなかったが、どうやらベリンデには飛龍が僕の魔法により致命傷を負って落ちていく音が聞こえるらしい。





「――さて、そろそろいいころか」


 聖盾と絶界を解除する。

 周囲が少しだけ見渡せるようになると、辺りには見るも無残に体のいたるところを貫かれた飛龍の死骸が散乱していた。


 ――さて、隻眼の赤龍は......


「はは、なんて硬さなんだ。......やっぱり、この程度じゃくたばってくれないか」


「......」


 隻眼の赤龍は翼の皮膜に穴が開き、体表のいたるところから出血をしていたが依然として宙を舞いながら僕たちを見下ろしていた。いや、僕だけを見つめているという表現の方が正しいか。


「やっぱりこいつ、下等だけど古龍種だね。他の赤龍と姿は似ているけど、普通の飛龍だったらあんな威力の攻撃を食らって死なないはずがないもの」


「でも、不思議ね。賢いはずの古龍が、なんで群れに壊滅的な被害を受けたのにも関わらず逃げたりしないのだろう?」


 カイレンとエイミィはそう言うと、二人して僕の方をじーっと見てきた。


「えっ、どうした二人とも?」


「いや、少し状況が変だなって」


「どういうことだ?もしかして僕が原因?」


 僕は上空にいる赤龍に注意を払いつつカイレンたちの話に耳を傾ける。

 するとエイミィは、


「多分だけど、龍は強い種族になるほど賢く好奇心旺盛になるから、あの赤龍はエディの特殊な魔法に興味津々なんだと思うんだ。ほら、ずっとエディのことを見ているでしょ?」


と、言った。

 確かに、先ほどからずっと赤龍に睨まれ続けていた。


「ちょっと待て、どういうことだ?」


「えーと、エイミィの言葉を要約すると、エディはあの赤龍に気に入られました!」


「......はぁ?」


 ――僕が、赤龍に、気に入られる?


 全くをもって理解不能だった。


「エディすごい!古龍に気に入られるだなんてすごいことだよ!」


「待て待て、なんで僕が気に入られているんだ?僕らはあいつに襲われて、僕はあいつに攻撃したんだぞ?」


「さっきエイミィが言った通りだよ!きっとこの赤龍は自分の命よりも好奇心の方が勝っちゃったんだろうね」


 アベリンは興奮しながらそう言った。


「自分の命よりもって......生き物としておかしくないか?」


「まぁまぁ、何はともあれ面白い状況になったからいいじゃん」


 カイレンはすっかりこの状況を楽しんでいるのか、呑気な様子だった。


「カイレン......一応言っとくが、あいつは討伐対象なんだぞ?倒さないと報酬がもらえないし、ここを通る人にも危険が及ぶかもしれない」


「うーん、でも私は正直こいつと戦いたくないなぁ。古龍種自体が貴重だし。それに見た感じ馬車を襲ってきたのは通常個体だけだったから。ほら、もう私たちで全滅させたでしょ?」


 言われるまま周囲を見渡す。

 この地域の赤龍は全て狩りつくしてしまったのではないかと思ってしまうほど、見るも無残な光景が広がっていた。


「うーん、そうだけども......」


「あの、エディさん、一つ提案なのですが」


 するとベリンデが前に出てきて赤龍を指さした。


「――あの赤龍を手懐けてみませんか?」


 曇りない眼で、ベリンデは語り掛けてきた。


「......え?あの赤龍を?」


「はい」


「僕が?」


「はい」


 思わずアベリンに二度聞き返す。


「おそらくあの赤龍たちがこの街道で馬車を襲っていたのは、グラシアの地脈異常から逃れる道中で馬車を襲うことを覚えてしまったからでしょう。本来であればそんなことしなくても餌となる動物や魔物はたくさんいます」


「ん、今地脈異常から逃れると言ったか?」


「はい。ある程度知能を持ち合わせる魔物はあの異様な願力に触れると暴走状態になってしまうことがわかるらしいです」


「そうなのか」


 確かに、これほどまでに強い魔物が暴走されては人間側も困る。


「従えていた赤龍たちがいなくなった今、あの隻眼の赤龍は失うものがなくなった自由で、無気力な状態になっていると思います。それこそ自身の命がどうでもよくなるくらい」


「そんな投げやりな精神でいいのかよ......」


「古龍の生態は不思議だらけなんで。あたしも、里長みたいに念話が使えればこの赤龍と話がしてみたいです」


 赤龍の方に目を向ける。依然としてこちらを見つめたままで、攻撃をしてくる素振りが一切見えない。

 仲間をすべて失ったら怒り狂って襲ってくるのが普通ではないのだろうか。


「それで、僕はどうやってこいつを手懐ければいいんだ?」


「そうですね、本来であればこちらに敵意がないことを餌を用意して示すところから始めるのですが、今は餌となるものがないのでエディさん、一人で赤龍のもとまで行ってみてください」


「えっ、一人であいつにか......」


「エディさんならきっと大丈夫です!」


 あくまで赤龍の興味は僕に向けられたものだからだろうか。


「エディ、危なくなったら私たちのところに来て」


 散々僕のことを心配していたカイレンも、今では乗り気になっていた。


「はぁ。わかったよ、カイレン。それじゃあ行ってくるよ。もし何かあったときは骨だけでも拾ってくれ。――『飛翔イアルヴ』」


 縁起もないことを言い放って、自身の願力を変換した魔力で飛翔魔法を発現させて赤龍に向けてゆっくりと近づき始めた。


「......」


 赤龍の目の前まで近づく。

 赤龍は鳴くこともなく、ただ僕をじっと見つめていた。

 地上からはあまりわからなかったが、鱗は鋭く光沢を帯びていた。そして何より、大きい。願力によって飛んでいるのだろうか、体表にはうっすらと願力が膜のように張られていた。


「えーと、喋ったところでお前はわからないよな......」


「......」


 赤龍からの反応ななかった。当然のことなのだが。

 そういえば、もし仮にこいつを手懐けたとして、どこにこいつを待機させればいいのだろうか。さすがに街中は無理だ。どのような事態になるかが予測できない。


「お前は、どうしたいんだ......ん?」


「......グルルル」


 赤龍は喉を鳴らすと、頭の僕に近づけた。


「おっと、なんだなんだ?」


 思わず僕は後ろに移動するが、赤龍は何度も僕に頭を近づけてきた。


「もしかして、僕に触れてほしいのか?」


「......」


 赤龍から返事はなかったが、何となくそのような気がした。

 僕は赤龍の頭に手をかざす。




「――『何者』 」




 ――僕の脳内に送られた言葉は単純なものだった。


「......お前、こうすれば話せるのか?!」


「――『何者』」


 再度赤龍から言葉が送られてくる。声に出しているわけではないが、何を伝えたいのかがわかる不思議な感覚。

 だが僕は赤龍に意思を伝える方法がわからないままでいた。


「さて......どうお前に伝えるか」


 意思の力である願力を僕の手を通して赤龍に流してみようとするが、僕の中で願力は頭の中だけで滞留しているイメージしかないため、うまく流すことができない。


「手が駄目なら......直接頭だ」


 僕は自身の額を赤龍に当て、願力を頭から流すようにイメージをする。

 すると先ほどとは違って、赤龍の意思が願力によって鮮明にわかるようになった。


「――『人間よ。お前は、一体何者なのだ?』」


 聞こえた。確かに赤龍の「声」が聞こえた。それもくたびれたような少女の声だった。

 だが僕は未だに言葉を伝える方法がわからずにいた。


「――『ふむ、願力もまともに扱えないのか。ならば勝手に見させてもらうぞ』」


 すると僕の意識はまるで何かに吸い込まれたような感覚に陥った。

 ――眩暈がする、だがなぜか心地いい。徐々に視界が暗くなって瞼が落ちかけ......。


「――『おっと、危ない。危うく、精神を崩壊させるところだった。お前、あれほど強力で不可思議な魔法を操るというのに、どうしてそれほどまで魔法抵抗が弱いのだ?』」


 意識が戻る。だがまだ頭が冴えないため、赤龍が何を言っているのかがわからなかった。


「――『そんなこと言われたって、わからねぇよ』」


「――『おや、ようやく話せるようになったか』」


 ――えっ?今僕は赤龍と話すことができたのか?


「――『僕の声、もしかしてお前、聞こえるのか?』」


「――『ああ。私がお前の意識に潜り込んで、願力操作の感覚を植え付けたからな。記憶を覗くついでに』」


「――『......えっ?』」


 不穏なことを、赤龍は念じた。


「――『ちょっと待て、願力操作とかも気になるが、今僕の記憶を覗いたと言ったか?』」


「――『あぁ、覗いたとも。覗いて一層、私はお前に興味を持った!エディゼート』」


 ――まじかよ。赤龍に僕の正体がバレるってどういうことだよ?


「――『しかし見願といい、お前といい、不思議な魔法を使える者はこうして記憶を覗くことができて実に面白い!』」


「――『覗くって、見願が相手じゃないと記憶が覗けないのか?』」


「――『ああ、そうだ。何故だかは私にもわからん。だが、私が出会ってきた中でもエディゼート、お前の存在はあまりにも異質すぎる。一体どういうことなのだ......』」


「――『どういうことと言われても......』」


「――『ふむ、お前に聞きたいことが山ほどある。だがこのままでは少し話がしずらい。――仕方がない。お前の姿を真似るとしよう。さて、成功するだろうか......』」


「――『待て、僕の姿を真似るって......』」


「『――『完転カイゼル』』」


 赤龍がそう唱えると同時、まばゆい光が僕の視界を奪った。


「――っ!?」


 思わず目を腕で覆う。


「なんだ――?」


 訳も分からないまま、光に目をくらます。

 すると次第にに光は弱まっていった。


「一体なにがって、あれ?」


 僕は赤龍に目を向けようとする。

 しかし、先程までいたはずの赤龍の姿が確認できなかった。


「どこに......」


「――私はここだ、エディゼート」


「......え?」



 僕の眼前、そこにいたのは、――『僕』だった。



 声も、形も、何もかも違うことのない。

 思えば当然だ、赤龍は『僕』になると言ったのだから。

 赤龍が化けた『僕』は、自身の手を見つめてため息を吐いた。


「はぁ、やっぱり魔力から直接魔法は使えないか。まぁいい。だが人間に、しかも男の姿になるのは初めてだ......」


「......」


「だが困ったなぁ。この体は非常に魔願変換効率が悪い。どうりで願力の扱いが下手くそだったのか」


 何も言えず立ち尽くす僕をよそに、『僕』になった赤龍はぺらぺらと独り言を呟いていた。


「......さて、そろそろ下にいる奴らをどうにかしないと私は殺されかねないな。エディゼート、あいつらをどうにかしてくれないか?ほら、下にいるやつだよ」


「下にって......あぁ、そういうことか」


 僕は『僕』が指を指す方向に顔を向けた。


「はぁ。赤龍、こうなったのはお前のせいだろうが」


 ――僕の直下、今まさに魔法を『僕』に向けて放とうとしているカイレンたちがいた。

 相当殺意が高いのだろうか、カイレンの願力の色が赤を通り越して黒が滲んでいた。


「――エディから離れろ!」


 カイレンが険しい表情で啖呵を切る。


「なるほど、あいつが『破願』か。――わかった、今手を放す。だから『破願』の女、その物騒な魔法を私に向けないでくれ。今の私はお前たちに危害を加えられるほどの余裕はない」


 『僕』はそう言うと、僕の背中をトンと押した。


「ほれエディゼート、さっさと行ってこい。話はその後だ」


「あ、ああ」


 何も状況が理解できないまま僕は『僕』に促されるまま地上へと向かう。

 降り立つと同時、カイレンは僕のもとに真っ先に駆け寄ってくる。


「エディ!大丈夫?」


「大丈夫。あいつから特に悪いことはされなかったからな」


 僕の記憶を覗かれただけで充分悪いことはされたのだが、今はことを荒立てないように黙っておく。


「それならよかった。でも、あの赤龍は一体何者なの?」


「さっきあの赤龍と願力経由で話をしたけど、わからない」


「えっ、願力だけで?」


「ああ。魔法の詠唱をしていなかったからな」


「......ますます不思議ね」


 カイレンは話を終えると上空にいる『僕』を見つめる。


「ん?私に構わず話でもしてくれ。気が落ち着いたらまた話そう」


 そう言って『僕』は滞空しながらそっぽを向いた。


「一体何が目的なんだろう、あいつ」


「さぁ、話してみたけどわからなかった」


 だが間違いなくカイレンやエイミィに匹敵する、もしくはそれ以上の存在であることは確かだった。危害を加えられなかったことが本当に幸いなことだった。


「あの......」


「ん、どうした?ベリンデ」


 するとベリンデが耳を垂らして少し申し訳なさそうな様子でこちらに近づいてきた。


「エディさん。その......すみませんでした!あたしの好奇心で、危険な目に遭わせてしまって......」


 ベリンデの声は少しだけ震えていた。


「もしかして、自分のせいで僕が危ない目に遭ったと思っているのか?」


「......はい」


 とても小さな声でベリンデは頷いた。


「......そうだな、確かに僕は危険な目に遭っていたかもしれない。だけどもこうして今は無事に皆のもとにいるだろ?」


 僕はベリンデがこれ以上気を落とさないように努めて落ち着いた声で話した。


「でも......」


「それに僕を含めた全員、誰も赤龍と接触することに反対していなかっただろ?だったらカイレンも、エイミィも、アベリンも、ベリンデも、そして僕自身も、エディゼートを危険な目に遭わせてしまった責任がある。だから自分だけのせいだと思わないでくれ」


「エディさん......」


 実際そうだ。たとえ誰かに提案されたところでその行動をとるかどうかはすべて自分が決めることだ。

 もし仮に僕がベリンデの立場だったら、どんな言葉をかけられても自分を責めてしまうだろう。だから僕ができることと言えば、ベリンデだけのことを責めていないという姿勢を見せることだけだ。

 ベリンデは鼻をすすって、顔を少しだけ振るった。


「心遣い、ありがとうございます」


「いいんだ。まだ互いにわからないことだらけだから失敗することだってあるさ。だから顔を上げて」


「はい......っ!」


 するとアベリンの垂れていた耳がいつもの形に戻った。

 皆も少し緊張が解けたからだろうか、表情の険しさが薄らいでいるように見えた。


「......話は終わったようだな、エディゼート」


 声のする方へと顔を向ける。先程までの緊張感はなくなったが、依然として油断できない状況に変わりはなかった。


「ねぇ、エディになった目的は何?」


「目的?ああ、龍の姿では人間の言葉を解せないからな。私はエディゼートと話がしたい」


 『僕』はカイレンの質問に答えると、ゆっくりと地上に降り立った。


「ねぇ、ちょっといい?」


「ん、なんだ?半端者」


 ――『僕』は何故かエイミィのことを半端者と言った。


「あなたがエディになるために使った魔法、『完転カイゼル』はいくら長い時を生きた古龍でさえ使えない魔法のはずよ。それなのになぜあなたは......」


「あぁ、そういうことか。――お前たちは私のことを龍だと思っているのか」


 すると『僕』は不敵な笑みを浮かべ、エイミィのもとへと歩み寄った。


「......何をする気なの?」


「まぁそう警戒するな。決してお前に危害は加えん。ちょっと私の記憶を流すだけだ」


 そう言うと『僕』はエイミィの頭に手をかざした。


「なんだかエディが嫌がるエイミィにぺたぺた触ろうとしているみたいでやだなぁ」


「......僕も同感だ」


 僕と全く同じ姿をしているせいで僕自身までいやな気持になる。

 すると『僕』の手からエイミィの頭部にかけて願力が流入しているのが見えた。詠唱をしていないことからやはり魔法を使わず、直接願力で記憶を伝えるという離れ業をしていることがわかる。


「......っ?!これって」


 するとエイミィの表情に驚きが滲みだしてきた。


「――この姿って?まさか、あなたは......」


「ふふっ、そうだ。私の正体は――お前の始祖にあたる、『吸血族』だ!どうだ、驚いたか?」


 『僕』に化けたのは、赤龍ではなく、なんと吸血族だった。


「え、ええ。でも、吸血族はとっくの昔に......」


「ああ、私が滅ぼした」


「えっ?!」


 ――!?


 吸血族を名乗る人物が、吸血族を滅ぼしたという支離滅裂な言葉に、僕たちは無理解を押し付けられたように困惑した。


「どうして......どうしてあなたはそのようなことを?」


「まぁ、そんなこと今話してもつまらないことだ。それより......」


 『僕』はカイレンの方を向いた。


「なぁ、『破願』。エディゼートを少し借りる。私は早くこいつと二人で話がしたいからな。いいな?」


「ちょっと、そういうことは私じゃなくてエディに聞くべきでしょ」


「なに?お前はいいのか。てっきり引き留めると思ったのだが......」


「あなたみたいなやつに、私のエディがやられるわけないじゃない」


 カイレンはなぜか『僕』を挑発するようにそう言い放った。


「......はぁ、先程まであんなに焦っていたというのに」


「なぁーに?私にやられたいわけ?」


「はいはい、わかったわかった。それじゃあ少し遠くまで私を連れてけ、エディゼート」


「......えっ、僕が?」


 『僕は』さも当然のように言い放った。


「いいだろ?それとも、そこの獣人族の二人に正体がばれたいか?」


 僕は『僕』に脅される。


「あーもう!わかったよ。ほら、――『飛翔イアルヴ』」


 僕は流されるまま飛翔魔法を発動させた。


「じゃあみんな、少しあけるよ」


「わかった。でもなるべく気を付けてね。こいつ、何を企んでいるかわからないから」


「ふん、安心しろ。私がこいつを傷つけることなどありえん。ほら、行くぞ」


 『僕』に促され、僕は一気に加速してカイレンたちのもとから離れた。

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