19 親不孝 上
「レイン・クロウリー……薬剤師だ」
「そうか……やはり旧医療従事者だったか」
そんな事をどこか同情するような声音で言ったアヤの父親は、こちらに冷めた視線を向けて言う。
「だったら悪い事は言わない。ウチの碌でも無いバカ娘とはもう関わるな……アレは駄目だ」
「バカ娘……おいちょっと待てふざけんなよアンタ」
時間が経過する程に徐々に徐々に、流石にようやく理解が追い付いてきた。
それでもアヤが治癒魔術云々という、理解した上で激しく困惑している事はあるが……それでも大体の事は分かってきた。
アヤの父親は。
目の前の男は。
「アヤが碌でも無いだと? 何言ってんだよアンタは」
自分の娘をろくでなし呼ばわりしたのだ。
しかもあのアヤをだ。
「碌でも無いだろう……医者の娘が賢者を志すのは」
「……」
困惑しているとはいえある程度理解は追いついているから。
追いつけているつもりではいるから。
「碌でも無くねえ。関係ないだろ。どんなものであれ人を助ける力を身に付ける事に貴賤はねえ。立派な事だろ」
アヤが本当に賢者だと仮定して、そんな言葉が湧き上がってきた。
仮定……否、仮定では無く事実そうなのだろう。
あまりにも突拍子が無くてやはり困惑が解ける事は無いが、そうでなければこの場で見せたアヤの焦りに説明が付かない。
それからラグナとの会話の中で察した、かつては弓使いの冒険者以外の別の何かになろうとしていたという事実。
……そして、先月のレイン自身が体感した違和感。
強化薬の過剰摂取による副作用が明らかに軽かった事。
やはりどう考えてもおかしかったあの時の現象は、仮にアヤが治癒魔術を扱えれば腑に落ちるのだ。
ただあの場にいたのがアヤとマチスだけで、賢者が介入する可能性が無かったから除外していただけで……アヤがやってくれたというなら腑に落ちるのだ。
とにかく、そんな風に。
アヤが実際に治癒魔術を扱える賢者である可能性を高める要素はいくつか見つかる。
だけどレインからすれば、だからどうしたという話で。
元々真っ当な賢者に対する敵愾心を持っていないレインにとっては、賢者だからどうしたという話で
「アンタ、娘の足引っ張ったな」
今はアヤの父親への怒りが、強い熱を持っていた。
この男はやってはならない事をやったと。
「立派な事をやろうとしている娘の足引っ張ったな!」
そう思ったから。
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