18 暴露
一瞬で場を支配した空気だけで理解ができる。
これはよくないと。
なんとかしないと駄目な奴だと理解ができる。
そうした空気をアヤの父親らしい男からは感じ取れた。
なまじ自分の娘に対して真っ当な感情を向ける親と先程まで言葉を交わしていたが故に余計にだ。
(……ど、どうする?)
アヤの父親がアヤに向ける視線は、親子喧嘩の最中なんて生優しいものではなく……まるで家族ではない敵を見るような目。
……既に縁を切った相手を見るような、そんな視線だった。
そしてアヤの様子もおかしかった。
「……ッ」
父親と鉢合わせたこの地獄の様な空気の中で、一瞬こちらに視線を向けた。
だけどそれはこちらに助けを求めるようなものではなく……向けられたのは何かを危惧するような、そんな視線。
父親では無く、レインに対して怯えているような、そんな視線。
その理由が分からないまま。
レインも、アスカもリカも何もできないまま、アヤの父親は口を開く。
「医者の娘の癖に治癒魔術なんて覚えた裏切り者が……どの面下げて帰ってきた……ッ」
「……ッ!」
アヤが声にならない声を上げ……そして。
(アヤが……治癒魔術?)
レインも全く想定外の情報に思わず困惑して固まった。
(いや、ちょっと待て…………は?)
その情報に対して何か特別な感情を抱けるだけの理解は、脳の処理が遅延するように働かなくなってすぐには出来なかった。
それだけ衝撃的な事ではあったから。
そしてそれだけ衝撃的だったからこそ……おそらくきっとリカやアスカも同じだけの衝撃を感じていたからこそ、全員すぐに言葉が出てこなかった。
ただ困惑し、理解が追い付かないという事実を表情に浮かべるだけ。
その顔を、アヤに向ける事だけ。
……向けてしまった事だけ。
そしてその無言の硬直という結果がお世辞にも良い反応だったと言えない事は。
それどころか最悪な反応だったと理解が及んだのは──。
「え……あ、いや……これ……ちがくて……」
……アヤがしどろもどろに言葉を紡いだ瞬間だった。
そしてそんなタイミングになってようやく、そんな程度の事に理解が及んでいる段階だったのだから。
「……ッ」
アヤが父親から……そして自分達から逃げるように走り出した時に、すぐに足は動いてくれなくて。
「アヤ!」
ただ名前を呼ぶだけに留まり……どうしようもなく大きく距離を離されてしまう。
……アヤとレインでは身体能力にそれなりの開きがある。加えて土地勘も無ければもう追い付けない。
……追いつけるとすれば。
「悪いアスカ! アヤを追ってくれ!」
「え、あ、はい! 分かりました!」
そう返事をしてくれたアスカが一足遅れて爆速でアヤの後を追う。
……一旦は任せるしかない。
任せてひとまずうまくやって貰うしかない。
そのうまくが何なのかも、明確なイメージがすぐに浮かんでこない訳だが。
(情けねえ……何やってんだ俺……ッ!)
今だに状況を殆ど呑み込めていないが、本当に情けなくて仕方が無い。
そしてそんな中でなんとか情報を整理しようとしている中で、アヤの父親が言った。
「さっきのアヤの反応……もしかしてお前ら医療従事者か? ……いや、医療従事者は違うか」
アヤの父親は一拍空けてから言う。
「旧医療従事者か」
どこか自虐的な意思を纏った声音で。
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