13 救った者と救われた者
「あなたが……ってそっちに居るのは……」
「お久しぶりっす」
そう言って頭を下げるアヤ。
「手紙でこの村出身の知人が居るから案内は大丈夫って話でしたけど、それがまさかアヤちゃんだったとは……」
驚きながらそう言ったシエスタの母親だが、すぐに何かに気付いたように言う。
「……だったら尚更、早く中に」
「すみません、助かるっすよ」
もう一度頭を下げたアヤを先にシエスタの実家に入れる。
改めて思うが……アヤの家族仲の現状はこの村の共通認識らしい。
(親子喧嘩……だとしても一体何があったらこんな事になるんだよマジで……)
本人が語ってくれるまで聞くつもりはないが、それでもあまりに気になりすぎる。
……もっともそれでも聞かないし、そして流石にこの場まで足を運べば考えるべきなのはシエスタの事だ。
それから客間に案内され、待っていた父親とも対面し、それから各々がシエスタとの関係性を簡潔に説明した。
その時、酷く気まずそうにしていたのはアスカだ。
その雰囲気の変わりようは、この村に足を踏み入れた時のアヤに負けずとも劣らない。
……当然だ。
アスカはシエスタの死に立ち会っている。
……シエスタ自身の命よりも優先されて生き残り此処に居る。
当然此処に来る前に、今日此処にどういうメンツで伺うかという話は電報で送ってあるし、それに対する返答も来ていて、その文面からは誰か個人に対する強い感情は記されていなかったが、それでも。
それでも人によっては、自分の娘が亡くなるに至った原因だと捉える人もいるかもしれない。
当然そう思う遺族を決して責められはしないし、それはアスカもよく分かっているだろうけど……それでも身構えずにいられるかどうかは話が別で、致し方ない反応だとは思う。
だけどそれでもシエスタの両親が強い感情をアスカに向けるような事は無くて。
「そっか、あなたが……」
「娘は……シエスタは立派な事をしたんだな。キミにも一目会えて良かった」
「……ボクの事、責めないんですね」
アスカの言葉にシエスタの父は言う。
「当たり前だ。人の命を救った……その選択と行動と……そして結果も。それらは否定したくはない。あの子の親としても……元医療従事者としてもね」
「あなたも医療従事者だったんですか?」
レインの問いかけにシエスタの父親は頷く。
「ああ。僕らは二人共そうだ。元々ウチは薬剤師の家系だから……シエスタはそんな僕らの家業を継いだという事になる。それを継いでくれたと言うべきか、継がせてしまったというべきかの答えは、未だに出ては居ないが……だけどそのおかげで救われた命があるなら、きっとそれは良かった事なのだろう。きっとね」
「……俺がこんな事を言える立場じゃ無いのは分かってますけど、そう思ってくれているなら嬉しいです」
「……」
「当然シエスタさんが志半ばで亡くなった事は残念で、とてもショックな事です。俺でそうなんだから、お二人は当然もっとでしょう。だけどショックな事と行動を否定する事は違いますから。俺はあの人の行動を一番肯定してほしかった人達が肯定してくれているのを見て聞いて、とても安堵しました」
シエスタの両親がアスカの姿を見てどんな反応を見せるのか。
やはりどんな反応を見せてもそれを責める事や否定する事は絶対にできない訳だが……それでも、それでもその行動と結果を否定するような事はしないでほしかったから。
あくまでシエスタ・キリロフの知人として。
進むべき道を切り開いて貰った者の感情論として、そんな事はしないでほしかったから。
その事は本当に深く安堵できた。
そしてそんなレインにシエスタの母親が言う。
「そう言ってくれて、私も安心しました。とても良かったと、そう思います」
「……」
「家族以外の誰かが、ちゃんとあの子の事についてそう考えてくれる。考えてくれる人が居るような道をあの子が歩んでくれていた。それが改めて分かりましたから」
「……」
「そんなキミだから、あの子の日記に何度も名前が上がったんだろうね」
そしてシエスタの父はどこか申し訳無さそうに言う。
「きっと人に見せるつもりなど無かったであろうそれを僕らが見てしまった事は、きっと良くない事だ。だけどそれを見てしまった以上、どうしてもキミから話を聞きたくなったんだ……一体娘が何をしようとしていたのかという事を」
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