31 冒険者としての格 上
(……マジかッ!?)
あまりこんな考え方はしたくはないが、冒険者としての格においてジーンとアヤはほぼ同格と言っても良いだろう。
だからこそ、ジーンの攻撃がそれ相応に重い事は分かっている。
レインが後衛として優秀だと思うアヤと同格の冒険者。
そして前衛だ。
例えレインの薬を飲まずとも、並みの冒険者ではその攻撃を止められない。
少なくともレインなら腕が上がらなくなるだろう。
それを……アスカは軽々と止めたのだ。
自分の事を対した事が無いと言っていたにも関わらず。
「まずレインさんの肩から手を離してください。この人は今、色々有って体調が良くないんです」
自分の事を棚に上げてそういうアスカの言葉に対し、ジーンは言われた通りにレインの肩から手を離す。
(……いや、違う!)
離されたその手は、アスカの方へと向けられていた。
拳を止められ指図された事に対する怒りをぶつけるように……血の上った表情で。
「このガキ!」
「アス──」
だがレインが視界に捉えて声を発し切る前には、既に状況は動いていた。
掴んでいた拳を振り払い、そのまま流れるようにも片方の拳も躱す。
そしてレインとの距離を離させるようにジーンの腹部に蹴りを放った。
「ガッ!?」
その一撃を受けてジーンは床を転がる。
対するアスカはレインやアヤの盾になるように二人の前で綺麗な構えを取った。
「引いてください。周りの人に迷惑ですから此処で暴れたくありません」
そう言うアスカの後ろで、驚いた様子のアヤがレインに言う。
「あの、アスカちゃんがどの程度やれるのか確認取れてなかったっすけど、これ……」
「ああ、うん…………とんでもねえ格上じゃねぇ?」
明らかに動きのキレが自分達とは……ジーンとは違う。
「人の喧嘩に首突っ込むなよクソガキが……ふざけやがって」
だけど対するジーンも軟じゃない。
「不意に喰らって驚いたが調子乗んなよ。軽いんだわてめえの蹴り」
ゆっくりと立ち上がって構えを取る。
そんなジーンに視線を向けて構えたまま、アスカがこちらに聞いて来る。
「レインさん。アヤさん。向こうからやってきた攻撃に軽く反撃する位なら、色々と大丈夫ですよね」
「そ、そうっすね……」
「やりすぎなければ……大丈夫だと思う」
「ていうかそもそも……ジーンが先に手を出したのも、周りの人が見てるっすからね」
血が上っているジーン本人が認識できているかは分からないが、今の構図は質の悪い暴れ出した男を華奢な女の子が止めようとしている図だ。
目撃者がこの喧嘩に対し普通にギャラリーになっている事に関しては、観てないで止めろよとは思うが……この見ている連中が見届け人だ。
今の蹴りを含めて放たれた暴力の正当性を証明してくれる。
……そう、心配だったのは此処から先にもう一発二発と拳が振るわれていく中での、客観的な正当性の証明。
……アスカが物理的に危ないという認識は、もう無かった。
「こんなガキに舐められてたまるか! 分からせてやる!」
「……」
そう叫んでジーンがアスカに距離を詰めて飛び掛かった次の瞬間、アスカの拳がジーンの顎に叩き付けられた……ように見えた。
そういう曖昧な表現しかできないのは、早すぎてその動きの解釈に確証が持てなかったからと言ってもいい。
空中でジーンの体が遠心力を纏って回転し……そして床に叩き付けられ転がった。
「ガ…………ぁ?」
脳が揺れた事もあり、起き上がって来る様子は無い。
(…………なんとなく、昨日の事に納得がいったな)
アスカについて一つ疑問が有った。
昨日アスカはヘルデッドスネークの毒に対処する為の抗毒血清が原因で死に至る寸前まで追い込まれていた。
……だが徐々に体調が悪化していった事を踏まえて最初は体が動いていたのだとしても、とにかくそれでも一人で帰って来れている。
果たしてそんな事は可能なのだろうか。
普通は帰還前にどこかで倒れたりするのではないだろうか。
だがアスカは無事ではないにせよ帰還を果たしている。
……その理由の一端がこれだ。
「次は本気でいきます」
人間として強いのだ。
そしてその強さがそのまま──
「……えっと、アスカ。お前の居た冒険者パーティって何ランクだったんだ?」
「Cランクです。結成してあんまり時間が経っていなかったんで…………あんな事が無ければ……あのままシエスタさん達と頑張れてたら、どこまで行けたんですかね」
──冒険者の格として表れている。
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