ex 賢者と薬剤師 中

(馬鹿な……一体私は何を見ていると言うのだ)


 まるで亡霊でも見ている気分だった。

 だけどこちらに気付いて不快感と警戒心を向けてくる少女は決してそんなオカルト染みたものではなく……明らかに血が通って生きている。


「誰かと思えばアンタか。奇遇だな、こんなところで」


 レイン・クロウリーもこちらに気付いたらしく、一瞬驚いたような表情を浮かべた以外は固い表情のままそう声を掛けてきた。


 そして進行方向もあってかこちらに近寄りながら彼は言う。


「尽くしたぞ、最善を」


「貴様……ッ」


 ……色々と、この短期間で溜まっていたのだと思う。

 その言葉を聞いた瞬間糸が切れるように、気がつけば言葉ではなく手が伸びていた。

 掴みかかろうとしたのだ。レイン・クロウリーに。


 その後どうするかなどの計画性が有ったわけではなく、ただ衝動的に。

 だが次の瞬間、視界がぐるりと回転したかと思えば背中に強い衝撃が伝わる。


「今この人に何しようとしたんですか!」


 その声が耳に届いてようやく、一瞬で自分達の間に割って入った少女に背負投げを食らわされたのだと気付いた。


「お、お見事っす……」


 どこか唖然とするようにそう言うアヤや自分を置き去りにするように、強い怒りを少女からぶつけられる。


「あなたはあんな事だけじゃなくて、人に暴力まで振るうんですか!」


「……ッ」


「ふざけるのもいい加減に……ッ!」


「アスカ、ストップ」


 アスカと呼ばれた少女の肩に手を置いて止めたのはレインだった。


「悪い、アヤ。コイツと話があるから、アスカを連れて先に行っててくれないか」


「え、いや、それは良いんすけど……」


「ちょ、レインさん! この人また何かしてくるかもしれませんよ! 大丈夫ですか!?」


「その時は自分でなんとかする。守ってくれたのはありがたいけど、今のアスカじゃ過剰防衛っつーか、次があったらやり過ぎそうでさ」


 それに、とレインは言う。


「アスカはもうコイツの顔を見たくねえだろ」


「それはレインさんも同じじゃ……」


「言ったろ。俺はコイツに話があるんだ……そんなわけでアヤ、頼むわ」


「りょ、了解っす。ほら、行くっすよアスカちゃん」


「は、はい……」


 アスカと呼ばれた少女は最後にこちらを一睨みした後、アヤに連れられて冒険者ギルドの中に入っていく。


 そしてこの場にはこちらに視線を向けながらも去っていく通行人。何人かの野次馬。

 そして。


「まあそんなに時間は取らせねえよ。ただいくつかお前に言いてえ事があるだけだからさ」


 自分とレイン・クロウリー。


 賢者と薬剤師が残った。

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