ex 賢者と薬剤師 上

(……まったく、昨日は酷い目会いました)


 とある一級賢者リライタルは、冒険者ギルドを後にしながら不機嫌さを顕にしながら内心でそう吐き捨てる。


 彼が今日冒険者ギルドへやってきたのは、元仲間達に伝言を残すためだ。


 昨日の一回限りで冒険者をやるのは止める事にした。

 このまま続けていてはあのレイン・クロウリーという憎たらしい薬剤師に対する劣等感がより一層積もってしまうと思ったからだ。


 自分の方が……一級賢者の方が薬剤師よりも優れている筈なのに。


 だからその唯一の汚点から背を向けた。

 否、見るべき方へと向き直した。


 今回冒険者家業にまで手を伸ばしはしたが、賢者は本来医療従事者である。

 そして薬剤師も冒険者を行うのは本来の業務からかけ離れているといえる。


 そう、自分が負けたのは本来のフィールドの外側。いわば場外乱闘で負けたに等しいのだ。


 だからこそ本来の領域へと戻ってきた。

 その為にあの二人にパーティを抜ける旨の伝言を残してきたのだ。


 もっとも自分がこれからも冒険者としてやっていこうと思っていたとしても、薬剤師に下駄を履かせてもらっていただけの無能な上に、自分を経歴詐称と罵った連中と組む気は更々無いわけだが。


 ……無能と言えば。


(そういえば今頃彼はどうしているだろうか?)


 確かに冒険者としては有能だったかもしれないが、医療従事者としては無能でしかない薬剤師の顔を脳裏に浮かべる。


 彼はあのどうやっても手の施しようのない少女を彼は救うつもりだった。

 やれるはずの無い事をやると啖呵を切ったのだ。

 一級賢者である自分が無能であるという誹謗中傷を添えて。


 思い返すだけで馬鹿馬鹿しく、愚かしく、そして腹立たしい。


 ……そんな彼は今頃絶望しているだろうか。


 していれば良いなと思う。


 当然助けられる命が絡んでいればそんな不謹慎な事は考えないようにするだろうが、どうであれ助けられなかった命だ。

 どうせ死ぬ命に関わっているなら、気にする事もない。


 どうしようもない程の曇り顔を浮かべていれば良いなと強く……強く渇望する。


 そしてそんな風に求めていただろうか。

 レイン・クロウリーとばったり鉢合わせた。


「……ッ!?」


 あまり明るい表情ではないがそれでも自分が想定していた表情とは違うものを浮かべている彼と。

 そして自分が加入し脱退したパーティに所属していた馬鹿みたいな喋り方をするアヤという女と。

 そして……そして。


 本来であればもう死んでいなければおかしい筈の少女と。

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