22 価値ある人間

「……そうか」


「今のレインさんの話を踏まえて考えると……うまく行ってなかったんですかね」


「……分からない」


 否、分かる。

 きっとうまく行っていなかったのだ。

 何も……自分に価値が見出だせなくなる程に。


 ……アスカの話だとシエスタがパーティに入って来たのはつい最近という事になる。

 そしてそれより前から冒険者をやっていた筈のシエスタが新たに加入するという事は……以前所属していたパーティを抜けたからという事になるだろう。


 それが円満な移籍だったのならば、自分は分かった気でいるだけで見当違いな事を考えている事になる。

 見当違いであってくれる。


 だけど今日自分の身に起きた事を考えると、どうしたってそうではない可能性にバイアスが掛かる訳で。


『やあやあ元気でやってるかい、レイン君。私? 私はアレだよ。元気元気の超元気だよ!』


 顔を合わせるとそんな明るさを見せていた彼女が、裏では自分と同じかそれ以上の目に……下手したら何度も合っていたのだろうと考えてしまう。


 ……アスカの口振りを見るに、その答えを彼女は持っていなさそうだけど。


(……此処までだな。これ以上は駄目だ)


 だとすればこの方向性での話をこれ以上広げる訳には行かない。

 それはきっと彼女の名誉を余計に傷付ける事に繋がると思ったから。

 自分達の知らない事を。

 有る事無い事を憶測で話し続けるような事をし続ける訳にはいかない。


 自分達の患者の前でするのは、きっと前向きな話だけでいい。

 ……そう、前向きな話だ。


 ……籠る感情はとても前向きな物とは言えないかもしれないけど、それでも彼女の為にこれだけは言っておかなければならない。


「シエスタさんのこれまでの事は分からねえよ……だけどアスカが此処にいるのは大前提としてシエスタさんのおかげなんだ」


 だから。


「だから頼む……お前はあの人の事を、価値の無い人間だなんて思わないでやってくれ。あの人を……肯定してやってくれよ」


「……当たり前じゃ無いですか。言われるまでも無いです」


 アスカは小さく息を吐いてから、静かに……それでも強い意思の籠った声音で言う。

 言ってくれる。


「ボクは大きな価値のある人達に、助けて貰ったんです」


 分かっていた。

 アスカがシエスタの事を悪く思っていない事位。

 だけどそれでも言葉で聞きたかったのだ。

 聞いたところでそれをシエスタに直接届けてやる事は出来ないのは分かっていても、それでも。


(……しかし人達、か)


 自惚れでなければ、きっとその言葉には自分も含めてくれているのだろう。

 だけど果たして自分にはシエスタ程の価値が有るのだろうか。


 価値ある人間になれるだろうか。

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