21命の選択 下

「……あの日、ボク達のパーティは特別難しくもない仕事をしに行ったんです。大した事のない討伐依頼。準備だって万全でした」


 だけど、とアスカは言う。


「そこに生息してるなんて報告が無かったヘルデットスネークが現れたんです」


 ……報告が無かった。それは即ち見つかっていなかったというだけなのだろう。

 現状それを調べる事を生業としている者でも生態系の全てを把握している訳では無いし、仮に把握していてもそれが常に最新の情報とは限らない。

 昨日自分達が遭遇した相手がそうだったように、何かがきっかけで変わる事も充分あり得る話だ。


 でも、だとすれば。


「……よくシエスタさんは抗毒血清なんて持ってたな」


「あの人は本当に準備が良いというか……不測の事態に備えて最低限以上の物を一杯持ってましたから。荷物、重そうでしたよ」


 そう言って少し笑みを浮かべるアスカだが、その表情はすぐに沈む。


「だから大丈夫だった筈なんですよね」


「……」


「あの時、あの場には偶然別の依頼でやってきていた別のパーティが居たんです」


「……その人達も咬まれたのか」


 ……大体、話が読めてきた。


「ええ。正確には咬まれた直後のその人達を私達が見付けたんです。その人達に、シエスタさんは抗毒血清って奴を使って……そしたら最終的に残ったのは予備の一つだけ。だから撤退するって話になったんですよ」


 ……だけど。


「いる筈のないなにかがいるという事はもう何が出てきてもおかしくない状況という事で……色々出たんですよ、場違いな奴が」


「……」


「他のパーティの人達諸共、私達のパーティも半壊しました。残ったのは……私とシエスタさんだけです。そんな時でした……私達が咬まれたのは」


「それで……譲ったんだ、シエスタさんは」


 元々、同行していた薬剤師が自分よりも他人を優先したんだろうなとは考えていた。

 立派な事をしたんだと、そう思っていた。

 考えてはいたが……それが知人という事になれば受け止めがたい。

 おそらく自分でも同じことをするとしても……それでも。


 そしてアスカは言う。


「はい……価値のない自分よりも、なんて事を言って」


「……ッ」


 より頭を抱えたくなるような、そんな言葉を。

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