20 命の選択 中
元々、ここから先の話をする為の助走としてこれまでの話をしていた筈だった。
ややというかかなり脱線気味になってはいたが、そうした意図が確かにあったのだ。
にも関わらず、かえって踏み込み辛くなった。
聞いておきたかった事の半分程度が自分の知っている情報だと、そう思えたから。
そして知らない情報が、自分の知りたくない情報に思えたから。
そう思っていても、尚更此処から先の話を聞かない訳にもいかなくなって、レインはアスカに問いかける。
「……知っているのか、シエスタさんを」
そんな分かりきった問いを。
そしてアスカも気まずそうに、その問いに答える。
「……つい最近、ボク達のパーティに入ってくれた薬剤師さんの名前がシエスタさんでした。同姓同名の人じゃ無ければ……多分、ボクはそのシエスタさんを知っています」
「……そうか」
一気に場の空気が通夜のように凍る。
凍るがそれでも、なんとか言葉を紡いだ。
「……シエスタさんの事で、少し聞きたい事がある。聞いていいか?」
「……どうぞ」
「多分だけどシエスタさんは、ヘルデッドスネークに咬まれたアスカに抗毒血清を打ち込んだ筈だ。そうだろ?」
「……はい」
「その結果アスカは生き永らえたけど、運悪く抗毒血清が致命的に体質に合わなかったが故に最終的にあの賢者に頼る事になった。だけど……それは普通ならおかしいんだ」
「おかしい?」
「ああ」
レインは力なく頷く。
「抗毒血清は摂取した後、医師や薬剤師による一定期間の経過観察が必要なんだ。もしかしたらアナフィラキシーショックを起こすかもしれない。そしてヘルデッドスネークの抗毒血清の場合は今回がまさにそうだったように少し時間を空けてから心身に異常をきたす事もある。そうなった時に対処する為に、一定期間患者の元を離れてはいけない」
「……」
「まともな医療従事者なら……シエスタさんが関わっているなら、アスカが一人であんな事になっているなんて事自体が有り得ないんだ」
だからこそ、半ば答えが分かっている疑問が湧いてくるのだ。
「アスカ達に……シエスタさんに、何があった?」
良くない答えだということが分かりきっている疑問が。
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