19 命の選択 上

 支離滅裂だと称した行動原理の説明を終えたところで、アスカは優し気な笑みを浮かべて言う。


「もっと胸を張って言って良い事だとボクは思いますよ。ちゃんと話を聞いたら、凄く立派な事をやってるんだって思えましたから」


「……そうか」


 そう言ってくれると話した甲斐が有ったと思う。

 話して良かったと思う。

 ……そもそも大前提として人に認めて貰えるような事を生業としてきていないから、そんな言葉一つで気力が湧いて来る。


 とはいえ。


「凄いですよ、レインさんは」


「ありがと。でも実を言うとな、俺がやっている事って言うのは別の奴の二番煎じというか、影響されてというか……道を示してくれた奴が他に居るんだよな」


「そうなんですか?」


 少し驚いたように言うアスカの返答に頷く。


「ああ。同じ道を歩んでいる先輩が居るんだ」


 一年と少し前、薬剤師の勉強会で知り合った先輩がいる。


『どうだい少年。キミも前向きな気持ちで冒険者をやってみないかい?』


『少年って俺もう17ですよ。あと近々誕生日ですし』


『17歳は少年じゃないかい? あとハッピーバースデー』


『いやどっちかというと青年じゃないですかね』


『ほな少年とちゃうかぁ……ハッピーバースデー青年』


『あと誕生日迎えてないのにハッピーバーデーもおかしくないです?』


『ほなバースデーとも違うかぁ』


 三つ上の女性のその人はその時点で既に冒険者をやっていて、そしてそこに旧医療従事者として大きな目標を持って活動していた。


 今のレインと同じ事を……もしかしたらその時点で他の誰もやろうとしていなかった事を、その先輩はやろうとしていた。

 ……そんな尊敬できる薬剤師だ。


「名前をシエスタ・キリロフっていう。称賛の声が送られるんだったら、まずはその人にだな」


 そんな名前を、どこか誇らしく言うと……アスカは目を見開いた。

 ……まるでその人を知っているように。


 それを見て血の気が引いたのは、言うまでもない。

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