23 存在の肯定

 ……どうであれ、尚更折れる訳にはいかなくなった。

 現状の自分がどうであれ、価値ある人間だと自他共に認識できるように精進していかなければならない。


 そうする事が結果的に自分だけではなく薬剤師の……旧医療従事者の。

 シエスタの価値を証明する事にも繋がるだろうから。


 ……その為にも行動を起こさなくてはならいだろう。

 自分を今の道に導いた先輩が九割九部亡くなった今、すぐに大きな動きを見せるような事は流石に勘弁してくれとは思うけれど。

 それでも今の状態でもやれる事ならやっておいた方が良い。

 寧ろこれに関しては未だ。


「……なあ、アスカ」


「なんですか?」


「一つ提案というか、相談したい事があるんだ」


「ボクに……ですか?」


 その言葉に頷いてからアスカに言う。


「今回みたいな事があって、まだ冒険者を続けるつもりがあるんだったら……俺とパーティを組まないか?」


 やるべき事……最終的な目標に至る為に必須な行動。


「ボクと……ですか? いや、ちょっと待ってください。今ってパーティを組んでいないんですか?」


「今日、俺達と一悶着有った賢者と入れ替わる形で追放された」


「……ッ!?」


「だから俺は今フリーなんだ。だけど最終的な目標を考えると、このままじゃいけない」


「レインさんの目標……いや、でもボクにはそこまで対した実力は……」


「……何よりもまず偏見の有無だ」


「……」


「シエスタさんの事、そして今日俺の身に起きた事を考えると、普通にパーティを組んで上を目指しても、上に行けば上に行く程切り捨てられやすくなる。だから……大前提として旧医療従事者に偏見を持っていない奴と組まなきゃ駄目なんだ」


 だとすればアスカは理想の人材だ。


「……お前ならきっと大丈夫かなって。そう思ったんだ」


 現状、大丈夫だと思って勧誘できるのはアヤ以外だとアスカだけだ。

 具体的な実力は分からないが、こちらにとって何よりも重要視したい要素を持っている、この先出会えるか分からない程の希少な人材なのだ。


 だから……そのお願い。


 当然、望みは薄いとは思う。


 パーティが全滅した。

 自分も死にかけた。

 その経緯でその仕事に復職しようと思えるかどうかを考えれば、頷いてくれる可能性がどれだけ薄いものなのかは明白だ。


 正直酷な事を言っているかもしれない。

 ……だから、本当に無理なお願い。


「……どうかな?」


 その問いに、少し間を空けてからアスカは答える。


「……手伝わせてください。ボクにはレインさん達や……シエスタさんに。返さなきゃいけない恩が山程ありますから」


「……助けてもらったからって理由で無理はしていないか? ちゃんと本心でやっても良いって思えてるか?」


 一応の確認に、アスカは少しだけ表情を曇らせて言う。


「……まあ少しは怖いですよ」


 それでも、とアスカは言ってくれる。


「……ボクがレインさんやシエスタさんがやろうと思った事に協力したいと思った。それだけは事実なんです」


「……そっか」


 どこか安堵するようにレインは息を吐く。

 これでどれだけ目標に近づけたのかは分からないが、それでも。

 それでもこの提案を呑んでくれた事実が、自分達の存在を肯定する事に繋がるから。


「これからよろしく」


「はい、レインさん」


 救われたような気分になったって、おかしな事は無い筈だ。

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