14 安堵

 目を覚ましてゆっくりと体を起こすと、まずはそれなりの倦怠感と軽い頭痛がレインを出迎えた。


「だっりぃ……」


 最悪な目覚めだ。

 とはいえ眠る前と比較すれば随分と楽にはなっている。


「もう二度とあんな事しねえ……マジで百害あって一利程度しかねえぞ」


 もっともその一利が事の解決に繋がっているのだから、百害なんて安い物なのかもしれないが。


 そんな事を考えながら置時計に視線を向ける。


「かなり寝てたな……」


 時刻は午前7時。


 事が起きた時間が朝早かった事や全ての事をとにかく迅速に行った事もあり、相当色々あった気はするものの日が沈みだす前には自分の仕事を終えていて、そこから今に至っている。


 十二時間以上の大爆睡だ。


「……あれからどうなった?」


 自分の想定ではうまく行く流れには乗っていたし、この時間まで起こされる事無く眠り続けていたという事は悪い方向に事は進んでいないのだろう。

 そう思いたいが……これから動くにせよもう一度眠るにせよ、確認できるならしておきたい。


 そのつもりでベッドから降りたところで、ゆっくりと部屋の扉が開いた。

 そしておそるおそるといった様子で、少しだけ顔を出す長い赤髪の少女がそこに居た。


 ……昨日の患者がそこに居た。


「も、もう大丈夫なのか!?」


「えっと、お、お兄さんの方は!?」


「いや俺の事どうでも良いから。そっちは? 何か調子悪い所とかねえか?」


「いや、あの、ボクは大丈夫ですけどお兄さんは……」


「そっか……大丈夫か……」


 それを聞いて深く安堵する。

 想定通りは想定通りなのだが、意識が無かった状態からこうして元気に受け答えができるようになっているところを見ると、命を救えたことに現実味が帯びてくる。


「いやぁ良かった……本当に良かったよ」


「あの、それで結局お兄さんの方は……」


「俺? 見ての通り大丈夫だよ。ピンピンしてる」


「……顔色悪いですけど。見ての通り最悪ですけど」


「元からこんなもんだよ」


「……えっと、鏡見ました?」


「ん? どれどれ…………滅茶苦茶悪いな。これはよくねえ」


 どうやら誤魔化すのも限界のようだ。

 できれば患者から心配されるような事は避けたかった訳だけど、思ったより1,5倍位顔色が悪かった。

 流石にこれを元気ですと言い張るのは無理すぎる。

 ……とはいえ、回復には向かっている訳で。


「まあ白状すると実際良くは無いけど、だいぶ楽にはなったしちゃんと生きてる。だから……お前が気にする事じゃねえよ」


 心配そうで……そして申し訳なさそうな表情を浮かべる少女にそう告げる。

 きっとリカかアヤから事の経緯を聞いたのだろう。

 この部屋を覗いていた理由もきっとそれだ。


 そしてこの子がおそらく二人から色々と話を聞いているように、こちらもいくつか聞かなければならない話がある。


「それより……いくつか聞いておきたい事があるんだけどいいか?」


「え、あ、はい! なんでも言ってください!」


 だったらなんでも聞かせて貰おう。


 聞きたい事は三つだ。


 まずシンプルに名前などの、こちらに話しても問題が無い個人情報については聞きたいし、それから彼女がいつ目を覚ましたのかは分からないが、それでも知っている範囲で自分が眠っている間に起きた事について。


 そして……何よりも今回の件の経緯についてだ。


 中でも特に……彼女に抗毒血清を打った『あの場にいなかった誰か』について。

 きっと彼女と行動していたであろう、薬剤師について。


 知って何かが変わる訳ではないだろうが、それでも知っておきたいと。

 同業者として、そう思ったのだ。

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