13 当たり前だった筈の光景
あの後、平気な顔をして診療所まで戻ったレインだったが、流石に無理をしている事を誤魔化す事は出来なかった。
流石血の繋がった兄妹なだけあるのだろう。
恐らく逆の立場になっても、そういった無理は気付ける筈だ。
だがそれで騒ぎ立てるような事はない。
そんな場合ではないから。
「リカ、あの子の容態は?」
「色々と延命処置は試したよ。それでも多分ギリギリ。意識もずっと戻って来てない」
「それでも此処まで繋いでくれたなら十分だ。ありがとうリカ」
言いながらベッドに横たわる少女を一瞥して、それから早速準備に取り掛かる。
ベニセイリュウタケさえ手に入れれば、後は備蓄している素材で事足りる。
……事足りるのだ。
「……随分と回り道になったな」
本来であれば此処までの回り道をする必要は無かった。
それだけ治療のプロセスを把握していれば難しくない症例なのだ。
それ故に。
「リカ、これを」
調合を終え注射器をリカに手渡すまでの所要時間はものの五分だ。
本来ならばこの五分が、当たり前の光景の筈だったのだ。
「お疲れ兄さん」
「もう出来たんすか!?」
「兄さんだからね……とにかく後は任せて兄さんは休んで」
「お、おう……」
正直最後まで立ち合いたかったが、やはり想定よりもマシなだけで体調はすこぶる悪い。
目が覚めたら全部うまく行っている事を祈りつつ、眠るのがきっとベストな選択だ。
それに……此処まで持たせてくれたように、リカは優秀なのだから。
必要な物を揃えた今、これ以上心配する事は無い。
「でももし何かあったら叩き起こしてくれ」
「大丈夫。何も無いようにするから。ほんとゆっくり休んでてお願いだから」
「……ああ」
本当に心強い。
「あの、私に何か手伝える事ってあるっすか!?」
「えっと、無いとは思いますけど患者さんが来たら受付だけお願いします」
遠回しに座って休んでいてくれとリカは言う。
「了解っす。どんと来いっすよ」
「……じゃあ二人共、後は頼んだ」
それだけ言い残し、診療所から繋がる居住スペースの自室へと向かい……そのままベットに倒れ込んだ。
……やれる事を全部やって、そして結果としてもうまく行きそうな気配を感じられている事から、緊張の糸は完全に切れている。
最悪な体調も相まって、眠りに落ちるまでは一瞬。
ベッドに倒れ込んでからものの十数秒で、レインは再び眠りに付いた。
まだ全部が終わった訳ではないがそれでも、確かな達成感に満たされながら。
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