5 差し込んだ光 上
考えられる限り最悪な形で事が進んでいる。
「どうだった兄さん!」
「駄目だ……もう半年近く仕入れてねえらしい」
外出先から戻ってすぐに食い気味に投げかけられた言葉に、レインは息を切らしながらそう答える。
「……ッ」
大急ぎで普段懇意にしている薬品の原料を取り扱う業者に駆け込んだものの、今回必要となる『とあるキノコ』が最後に在庫としてストックされていたのが三か月前の話。
そしてその最後のストックも保管期限切れにより破棄せざるを得なくなったが故に無くなったらしく、何も得られなかったレインに与えられたのは別業者も半年前の同タイミングで仕入れを止めているという最悪な情報のみ。
つまり保管期限三か月のその素材は、卸業者どころか同業の医療従事者もほぼ確実に持っていないという事になる。
つまり医療従事者としての正攻法なやり方で、今必要な素材を時間内に手に入れる事はほぼ不可能という事だ。
「そんな……だったらどうやって……」
「……詰み一歩手前だ、クソ!」
そう吐き捨てながらも業者を責める事はできない。
今や医療関係はどうしようもない程の斜陽産業なのだから。需要が無く破棄を繰り返すような需要の無いものからコストカットしていかなければ商売が成り立たない。
だから責めるべきなのは……これから行う予定の事を必ず完遂できると胸を張って言えない自分だ。
だけどまだ、そういう形で自分を責めるだけの余地はある。
「え……一歩、手前?」
そう、詰み一歩手前。
まだ詰んではいない。
「ああ……このまま詰ませてたまるか。足掻けるだけ足掻くぞ俺は」
まだ最後の手段が残っている。
「卸してくれる業者に頼れねえなら、自力で採取してくる。勿論最速最短でだ」
幸いな事に採取できる場所は知っている。
強力な魔物が生息している事から通常Aランク以上の冒険者パーティに護衛を頼んで赴くスポットではあるが……あまり前に出ない後方支援担当とはいえ一応元Sランクのパーティに所属していたのだ。
一人でもうまくやればなんとか、辛うじて……どうにかなるかもしれない。
ああそうだ、一人だ。
今現在俺はどこのパーティにも所属していないし、していたところで全く金にならない危険なだけの戦いには基本手は貸してくれないだろう。
そしてAランク以上の冒険者を雇う事は金銭的に厳しい物が有る上に、マッチングや諸々の手続きに掛かる時間を考えると、今のタイムリミット的に逼迫した状況では除外せざるを得ない選択肢だ。
故に消去法で自分一人。
……少しどころかかなり自信は無いが、やるしかない。
「そんな訳だから……絶対助けるからな」
「……」
最早まともに意思疎通すら取れない程に衰弱している少女に視線を落としてそう呟いてから踵を返す。
幸いなことに今日は本来であればジーン達と仕事をする予定だった為、冒険者としての薬剤師の役割を担う為の準備はできている。
「一分一秒でも早く帰って来る。だからリカはこの子の看病と……いよいよとなった時の延命処置を頼む。大変な事押し付けてる感じになるけど、もう少しだけ頼むよ」
「兄さん!」
リカはどこか不安そうに言う。
「えっと、勿論誰かと一緒に行くんだよね!? 一人で行ったりしないよね!?」
「当たり前だろ。後方支援担当の薬剤師が一人でってのはかなり無茶だからな。それは流石にできねえ」
言いながら、こんな状況だというのに少し安堵する。
帰ってきてずっと、この件と関係の無い話は一切できていない訳だから、当然リカはレインの置かれている立場を把握していない。
だからこそ、余計な心配を掛けずに済む。
……だから、そういう事にしておいた方が良いだろう。
そう考えたところで、耳に第三者の声が届いた。
「あ、あの! すみません!」
その声はどこか聞き慣れた声だった。
だけどイメージする相手は、今現在此処にいない筈の人間。
だからその誰かを自然と脳裏から掻き消しつつ、急いで対応に向かった。
申し訳ないが一分一秒でも早い処置が必要な何かを抱えた患者さんでなかった場合、少し時間を……もしくは日時をずらして貰わなければならない。
リカにあの少女を任せている以上、そうせざるを得ない。
そう考えながら受付カウンターの方へと移動すると……そこに居たのはやはり聞き慣れた声の持ち主だった。
此処にはいない筈の女の子。
「アヤ!? 何で此処に!?」
綺麗な金髪を纏めたポニーテールが特徴な、元パーティメンバーの一人がそこに居た。
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