6 差し込んだ光 下
全く想定していなかった人物の登場に驚くレインとは対照的に、アヤは普段の太陽の様な明るさを潜めさせて、静かで冷静な表情と声音で言う。
「レインさん……その感じだと、あんまり良い方向に事は進んでなさそうっすね」
「その言い草だと……知ってるのか、何が有ったか」
「色々有ったんで大体は。だからこそ、個人的に言わないといけない事も色々とあるっすよ。あるっすけど……」
だけど今はそんな事より、とアヤは真剣な表情をレインに向けて言う。
「単刀直入に聞きます。何か私に手伝える事ってあるっすか?」
「え……」
「見たところ結構切羽詰まってる感じじゃないっすか。きっと全く余裕がない。だったら部外者との会話はマジで無駄な時間っす。だから……何も無かったら今日の所はこのまま引き下がるっすから。邪魔はしたくねーっす」
「……」
一体どういう経緯でアヤが此処に居るのか。
どういう理由でそんな事を言ってくれているのかは分からない。
その辺りの事は今の所まるで分からない。
アヤの言う通り、申し訳ないがその辺りの事は『そんな事より』の一言で片付けなければならない状況だ。
だけど分かる事があるとすれば……彼女が手伝える事は確かにあるという事実位。
頼りたい事があるという事実位。
それでも軽い気持ちで頼んではいけないという事実位。
……それでも、結局言葉を吐き出した。
「ある」
「あるっすか!?」
「ああ。薬の調合に必要な素材が手に入らなくてな。だから今すぐ現地調達しに行きてえ」
「それに着いて来て欲しいって事っすね」
「でも他の誰かを仲間に引き入れる時間が無いから俺とお前、薬剤師と弓使いっていう後衛と後衛で前衛のいないアンバランスな状態で今すぐにって形になる。場所はAランク以上のパーティで赴くようなところ。そこにそんな状態で二人。だから駄目なら断ってくれ。命の保証は正直できねえからよ」
もうパーティを追放されて仲間では無くなった上に碌な報酬を渡す事もできない自分が、明らかに危険な戦いに着いて来てくれと頼むのは端的に考えて明らかに良くない。
それでも……少なくともこちら側からは信頼を向けている相手が、頼ってくれと言ってくれているのだ。
それに頷かず一人で戦いに臨める程、自分は冒険者としての実力も人間性も優れてはいない。
「それでも良かったら……頼む、アヤ。俺を助けてくれ」
だから頭を下げながら溢れ出てきた。
詰み一歩手前まで追い込まれた自分からどうしようもなく出てきた、縋る様な言葉だった。
それに対しアヤは言葉を紡いだ。
「了解っす。私の方はいつでも良いんで準備できたら言ってください。諸々の事情は移動中に話す事にするっすよ」
小さく笑みを浮かべてそう言ってくれる。
「良いのか? 言っとくけど大した報酬だって出す事は……」
「仲間がそんな顔をして頼んできた事を断る訳にはいかないっすよ。報酬とかそんな事も考えなくていいんで。あ、でも落ち着いたらご飯連れてってくださいっす」
「そんな事で……ていうか仲間って……俺は……」
「言いたい事は分かるっすけど、その話はまた後で。時間無いんすよね」
「……ありがとう」
言いながら、レインは彼女に対してかなり失礼な事を考えていたと自分を恥じた。
パーティからのクビを宣告されたあの場にアヤが居たら、彼女からも拒絶されるのではないかと思い、自分は逃げるようにあの場から立ち去ったのだ。
そして実際の所彼女は、此処に至る経緯こそは分からないが自分を拒絶せずに仲間として受け入れてくれている。
そんな彼女に一体何を怯えていたのだろうか。
その感情を向けるのは、今もこれまでも受け入れてくれていた彼女に対する失礼以外の何物でもない。
「どういたしましてっすよ」
そしてそう言って笑ってくれるアヤを見て改めて決意する。
確かに危険だと分かっている場所に着いて来て貰う選択をした。
口にした通り、命の保証はない。
だけどそれでも、彼女の命が失われる事がないように。
やれる事を全部やる。
思いつく限り……全部。
そしてそんなやり取りをしていると、リカがバタバタと小走りでこちらにやってきてアヤに言う。
「あの! 兄さんの事よろしくお願いします! こんな事一人でやろうとしてた無鉄砲な人なんで」
結局バレている。
流石に聞こえていた。
「うん、知ってる。任せるっすよ妹ちゃん」
そう言ってグーサインを向けるアヤ。
そして一拍の間を空けて、リカはレインに言う。
「兄さんも、絶対に無理しないでね。こっちはこっちでやれる事全部やるから!」
「ああ。改めてだけど頼んだ、リカ!」
「うん!」
こうして冒険者パーティをクビになったその日の内に、そのメンバーの一人と共に戦いに臨む。
目的は必要となる医薬品の調合の為に必要な素材の入手。
タイムリミットは……患者の命が尽きた時だ。
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