第141話 第4階層、恐怖のエンペラーゴースト


 *12


 さてさて、残り2階層ですね。お次はどんな理不尽が──っん!? 前に進めないぞ!


 それより見た目は、大ボスの部屋以外は、どこのダンジョンも同じ作りなんだな。


 っと、足を誰かに掴まれているような──うわっ! ハンドゴーストだ!


 このモンスターは地面の下から、相手の足を掴んでくる、地味に嫌な敵なのだ。でも、ハンドゴーストが出るってことは、ここは──ゴーストの階層か!


 このメンバーじゃダメだ!

 ゴースト系は光と炎に弱い。だが誰も光の能力も炎の能力も──炎? な〜んだビビがいるじゃん! ここはビビ無双だな。


 「おーいビビ! お前の炎の力で敵を倒してくれ!」


 「──嫌だビビ」


 「え? なんで?」


 「疲れたビビ! クッキー寄こせビビ!」


 「後でたくさん買ってやるから!」


 「今じゃないとダメだビビ! クッキーが無いなら助けるのも無いビビ!」


 そして、ビビは僕のコートのポケットの中で音信不通となった。


 おい、これどうするんだよ!


 ゴースト系なんて攻撃はすり抜けるし、ガイコツ系は殴ってもすぐ元に戻るし、グール系なんて粉々にしないと、手足だけでも動くからな……。


 僕があれこれ考えてると、出てきましたよ、グールの大群が。


 「おい鏡佑! コイツらもバリガチ打撃でいいのか?」


 「いやここの階層はゴースト系のダンジョンだから、打撃系は殆ど無効だ!」


 「おいクソ兄貴! じゃあ俺は休んでるぜ。何たって打撃専門だからな」


 「いや待って! グールだったら、粉々になるまで殴り続ければ、いいだけだから。他のゴーストは意味ないけど……だからグールの時だけ力を貸してくれ!」


 「やれやれ、全く方が凝るモンスターだぜ」


 まあ大群と言っても20匹弱、だけどゴースト系は何故かすぐに仲間を呼ぶ習性があるから、下手にダメージを与えるよりかは、一発で決めたいところだ。


 ん? この甲冑の足音は──うわああ! グールに続いて骸骨騎士まで出やがった!


 てかさっきから、手足がピリピリするんだけど──あっ! ゴースト系モンスターお得意の、『痺れる息』まで吐いてやがる。


 ゲーム内だと、動きが鈍麻になって、真っ直ぐ歩けなくなったりするが、どうやら、現実世界の力でダンジョン内に入っているから、『痺れる息』は少し手足がピリピリする程度に収まっているようだ。


 「鏡侍郎! 頼む! コイツらは粉々にすれば倒せるから!」


 「チッ! 仕方ねーな! 来い! 【グランド・バーサーカー】! 『サウザンド・インパクト』! ウッぜえええええええ!!」


 鏡侍郎の超絶殴打ラッシュを食らい、どんどん敵さんが、黒い霧になって消えていくぞ。


 運が良ければこれで大ボスの部屋に──どひゃあああ! ついに出たよ本命のゴーストが。しかもいきなり、大ボスクラスのエンペラーゴーストかよ!


 コイツは聖魔法か、炎魔法か、回復魔法か、アイテムの聖水ぶっかけりゃ即死とまではいかないが、かなりダメージが入るのに。


 参ったぞ、何もない──せめてビビの炎が、炎?


 そういえば、昔──と言っても数日前だが、灰玄がパープルを火葬するのに、炎の呪詛思念を使っていたな。もしかして、僕にもできるかもしれない。


 イメージだ、イメージするんだ。


 あの時は数10メートルの炎の壁だった。確か名前は、じゅえんへき、とか言ってたな。


 きっと炎の壁と書いて呪炎壁なのだと思うが、灰玄がいないから、本当にイメージだけだ。

 あ、もしかしてリコなら。


 「なあリコ! お前、炎の呪詛思念は──」


 「だから俺は木の流派なんだよ! 水と風だ! 火の呪詛思念なんて使えねーよ!」


 言ってる間に、エンペラーゴーストからの洗礼が来た。


 コイツは強力な呪い攻撃に魔法攻撃が得意なんだよな。


 魔法攻撃は何とか回避できるが、この呪い攻撃が厄介なんだよ。


 一度でも呪われると──というか、打撃攻撃で直接触れると呪われるんだが、五感が一時的に機能しなくなる。


 僕が初めて呪われた時に、ゲームモニターが真っ暗になり、音も消えて、いきなり死んでいたからバグかと思ったら仕様らしい。


 とにかく、ゲームモニターがいきなり真っ暗になるのは、ビビったな。


 つまりコイツも、触れれば呪われる。一応教えといてやろう。


 「鏡侍郎! リコ! あの魔法使いの帽子を被った、骸骨姿のゴーストは、触れるなよ。もし触れたら目の前が真っ暗になって何も見えなくなるぞ! 音も聞こえなくなるぞ!」


 「じゃあ俺は戦わねえ! クソ兄貴に任せた」


 「俺も呪詛思念は得意じゃねーし、バリガチ打撃専門だから、鏡佑に任せた」


 おい、キミたち。そりゃないんじゃないか?


 ここまで皆で一緒に頑張ってきたじゃないか。てか本当にどうするんだよ。僕に任されてもさあ……本当はビビが頑張ってくれれば、こんな階層楽勝なのに、クッキー持ってくれば良かった。


 と、また魔法攻撃だ!


 お次は天から降り注ぐ、魔法ビームですか。


 まあ避けられるレベルだけど近づけない。近づいても、攻撃して触れれば呪われる。


 だあ! もうイメージしようにも、魔法攻撃が邪魔でイメージに集中できない。


 クッ! なんか今までと違って楽勝かと思ったのに、今までで、一番地味に強敵な階層だぞ!

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