第142話 エンペラーゴーストを、焼き尽くせ


 *13


 実はソロプレイをしている時に、エンペラーゴーストはそこまで理不尽さを感じなかった。


 鬼畜死にゲーの『ダーク・ダンジョン』では、なぜかゴースト系の敵はさほど強く設定されていなかったからだ。


 とは言っても、鬼畜なことには変わりないが。


 対策さえ出来ていれば勝てる。それがゲームだ。

 その対策を超えて、こちらが対策してきたら、相手もまた対策してのイタチごっこになるのが理不尽ゲーなのである。


 その点で言うならば、攻撃範囲の広い魔法攻撃を躱しつつ、近づいて、打撃技ではなく魔法攻撃をお見舞いすれば、簡単に勝てる。これが勝利の方程式。


 その方程式がわかっているのに、このもどかしさ。


 何なんだよ、この脳筋パーティーは! しかも、頼みのビビは助けてくれないし。


 ビビのマグマ技なら、一瞬でこのゴースト系ダンジョンなんて終わりなのに。


 とにかくだ。イメージしろ! イメージしろ!


 炎の壁が天高く聳えるイメージだ!


 ドワ! また魔法攻撃だ! 鏡侍郎ではないが、はっきり言ってかなりウザい!


 ここは鏡侍郎とリコに、またデコイになってもらわないと。


 「鏡侍郎! リコ! コイツを倒す方法が解ったから、コイツの魔法攻撃を僕に当たらないように、2人はコイツの注意を僕じゃなくて、2人に集中するようにしてくれ! 僕は僕で少し集中する時間が必要なんだ! 頼む!」


 2人とも。しょうがないな、と言わんばりの顔で手伝ってくれた。


 いやいや、その前に僕だって頑張ってるんだから、僕に全部丸投げする、コイツらがいけないのだ。


 よしよしいいぞ。デコイ作戦は上手く行ってる。


 ヘイトが完全に鏡侍郎とリコに向いているからだ。


 これならイメージに時間を割くことができる。

 炎の壁をイメージするのだ。


 僕が実際に見た灰玄の炎は巨大な火柱だった。それを再現しなくては。


 両方の掌に思念気を集中し、炎をイメージ──お、なんか少し炎が出た。


 でもだめだ。これじゃあエンペラーゴーストを倒す炎にはならない。


 もっとだ、もっとイメージするのだ。


 まずは思念気を体中に溜め込んで、その思念気が燃えるイメージ。


 次に、溜め込んだ思念気を両方の掌に一点集中。


 さらに、高く聳える炎の壁を強くイメージだ!


 「おい鏡佑! バリガチまだなのかよ!」


 「すまん! もう少し待ってくれ!」


 リコのやつ、急に話かけるなよ! イメージしてた集中の糸が切れかけたぞ!


 あっ! なんか勘違いしてた。『呪氷道じゅひょうどう』みたく滝のような炎の方が強いじゃん。しかもすぐに会得できたし。


 まああれは、暑いのが嫌で、涼しいイメージをするのが得意だったのもあるが、とにかく今は『呪炎壁じゅえんへき』と『呪氷道』の連携技だ。


 と言うか、ゴースト系ん敵に冷気系の攻撃をすると、回復されちゃうけど。


 よし! イメージは固まった。 あとは実践あるのみだ!


 コイツも付け焼き刃の土壇場の実戦中に繰り出す技だが、これしかない!


 「2人とも、準備ができた、離れてくれ!」


 「「あいよ!」」


 まずは深呼吸だ。そして逆に向かって流れる滝のような炎を連想する! 強くだ!!


 そしてエンペラーゴーストの懐に入り『呪炎壁』をお見舞いしてやるだけ!


 いくぞ!


 「『波動脚煌はどうきゃっこう』からの──ッ!」


 僕は神速の速さで、エンペラーゴーストの懐に潜ることに成功した。そして、お次は、付け焼き刃だが、頼むぞマジで。これが成功しなかったら、マジでビビに土下座してでも、頼まないと。


 猫に土下座なんて考えたくもない!! 心の前にプライドが折れてしまう!


 だからこの攻撃に全てを賭ける!


 「食らえ! 『呪炎壁』!!」


 巨大な滝が逆行するように、火柱が勢いよく熾火の如く燃え上がる。


 ビビの焦熱ほどではないが、これはこれで、かなりのダメージだろ。初めてにしては上出来だ! 自分で自分を褒めてやりたい。


 あとは、どれだけの効果があるかだ。火柱はまだエンペラーゴーストを包み込んで、中の様子が見えない。


 と、そこへリコが慌てて話しかけてきた。


 「おい! バリガチお前どうなってんだよ! 水の流派の呪詛思念は使うわ、火の流派の呪詛思念も使うわ! お前何なんだ!?」


 「知らないよ! でもイメージしたら出来たんだ! とにかくこのダンジョンから出たら、詳しく話すから、今は目の前の敵に集中だ!」


 リコは頷き理解してくれたようだ。


 そして、だんだん火柱の勢いが弱くなる。


 断末魔の叫びがなかったが、そのまま丸焦げに──なってなかった。


 しかし、ダメージはかなり入っている。


 「こ、この私に、何をしたああ!!」


 うお! HPが半分になると繰り出してくる、全方位魔法ビームと天から降り注ぐ魔法ビームだ!


 つまりアイツに付け焼き刃の『呪炎壁』が効いたんだ!


 ならば、もう一回だけ叩き込めば勝てる──けどその前にこの魔法攻撃を避けなければ!


 幸い──なのか知らないが、鏡侍郎もリコも上手く避けている。


 僕も『波動脚煌』で神速の状態になっているから、避けるのは簡単だ。あとはまたエンペラーゴーストの懐に入り込んで──


 「トドメだ! 『呪炎壁』!」


 高らかに火柱が聳え立ち、エンペラーゴーストを炎が包み込む!


 「お、おのれ……! おのれえええ!! グアアアア!!」


 エンペラーゴーストは断末魔の叫びを上げると、黒い霧となり消えた。


 そして毎度の如く、僕たちの目の前に、大きな黒い霧の扉が現れた。


 さてと、今度はどんな理不尽ボスが待っていることやら。

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