第138話 まだ大ボスじゃないのに、アークデーモンですか


 *9


 マジかよ。第3階層はやけに敵の数が少ないと思ったら、まさかアークデモンのお出ましかとは。


 僕の予想では、第5階層ぐらいが怪しいと思っていたが、もうお出ましですか。


 「おいクソ兄貴! このモンスターも物理でいいのか?」


 「いやまあ確かにそうだが、デバフ状態の時は余り効かないんだ!」


 「でば……何だそりゃ?」


 「つまり、えっと、いつもよりも一瞬だけ、パワーアップすること! そのパワーアップの時間が切れたら、一気に殴る!」


 「何だよバリガチ単純じゃん!」


 2人ともアークデーモンのデバフの鬼畜さが解ってないから言える発言だ。コイツのデバフは普通のデバフよりも高位のデバフだから、本当にデバフ状態だと厄介な相手何だよなぁ。


 嗚呼、早速デバフしてきたよ。


 まずはスピードを上げて、魔法詠唱のスピードアップか。

 お次はパワーにスピードのデバフ。完璧だな。この状態でソロプレイの時に挑んで何回死んだことか。


 しかも、このデバフ、結構長いんだよ!


 デバフの効果が切れるのを待っている間も、攻撃してくる、魔法技に打撃技とやりたい放題だからね。


 もうやってらんねーって、何回コントローラーを投げたことか。


 しかし、ちゃんと作戦があるのだよ。


 まずは、2人がデコイになって、その後、デバフの効果が切れたら最大火力を撃ち込む。


 この時に、3人の中で一番の最大火力があるのは果たして──やっぱり鏡侍郎の『テンサウザンド・インパクト』か。


 「鏡侍郎! あの例の大技のテンサウンドってやつは、あと何回ぐらい撃てる?」


 「あれはかなり『ゲイン』を持っていかれるからな、少しインターバルが必要だ。コイツには使えねえ。ボスに残しとく!」


 うわー、いきなり僕の計画が破綻しました。


 じゃあリコの『波動重撃』に頼るしかないな。


 「リコ! 僕と鏡侍郎が囮になるから、合図を送ったら、すぐに『波動重撃』を出してくれ!」


 「はあ!? あれは思念気がバリガチ減るんだよ! ボスまで取っておく! こんな雑魚敵には使わねえ!」


 雑魚敵ねえ……雑魚じゃないんだけどな。


 となると、僕がありったけの、見よう見まねの『波動重撃』をして、その後は、とにかく今まで覚えた『波動思念』で攻撃しまくるしかない。


 つーか、2人とも体力の消耗が以外と大きかったのか。でも何で僕はピンピンしてるんだ?


 『波動壮丈』だって、まだ3割ぐらいだぞ。


 まあ深く考えても仕方ないか、ここまで来たら、2人にデコイになってもらって、僕が渾身の一撃を叩き込むしかない。


 一撃で倒せればいいが、何だか知らないが、この死にゲーのダーク・ダンジョンに出て来そうなモンスターたちは、HPが半分になると、大暴れしてきたり、変身したりと、まあ理不尽この上ない。



 おまけに最初から強いから、近づきたくても近づけない。それなのに、また近づけない状況を作ったら面倒なのだ。


 つまり一発で倒さなくてはいけない。


 さあさあ、デコイ祭りで逃げ回ってくれよ。そいつのデバフ状態のスピードは伊達じゃない……ぞ?


 あれ? コウモリの羽なんて生えてたっけ?


 いや、確かに登場時は無かった。じゃあ何かデバフ以外の呪文でコウモリの羽で空も飛べるようになったってことか?


 コイツ、アップデートして来やがった!


 「おいリコ! コイツ思ったよりも早いぜ! 吹っ飛びな! 『サウザンド・インパクト』!」


 だが、鏡侍郎の超絶殴打のラッシュを避けるアークデモンであった。


 マジかよ。スピードとパワーがご自慢の鏡侍郎の技が当たらないなんて!


 「だったら! こっちもバリガチ行くぜ! 逃げてるだけじゃ癪だからな『波動脚光』」! そんで『波動連撃』!」


 だが、リコの神速の技も避けるアークデーモン。


 いやこれさ、デバフとはいえ相手は鏡侍郎にリコだぜ? なんか調整入ってない?


 単なるデバフだぞ! ラスボスじゃないんだぞ!


 これ絶対バグだよね?デバフじゃなくてデバグだよ!!


 そんなことを考えてるうちに、アークデーモンの動きが少し遅くなってきた。

 おっ、やっとか、やっと半分──ってえええ!! またデバフを自分にかけやがった! 永久機関じゃんもう!


 だあ! もうこうなったら『波動壮丈』の5割だ!


 僕の思念気の瑠璃色が輝き逆巻く激烈の暴風に、鏡侍郎もリコも唖然としていた。


 「もう面倒くさい! これでお終いだ! 『波動重撃』!!」


 それは神速を超える神速。そして自分でもわからないが、ただ、今までの力をもう少し解放して、放った渾身の一撃に、アークデーモンはあえなく力尽きた。


 「ギギャアアアア!!」


 断末魔の叫びをあげ、黒い霧になるアークデーモン。


 よし倒した、でも何だろう? 力を解放すればするほど、自分の中で凶暴性が増している気がする。


 そう、だから僕はいつも力を押さえているのだ。もしかして、凶暴性に飲まれて暴走して仲間まで攻撃してしまうのではないかという、懸念があるから。


 しかし、2人はそんな僕の心配なんてお構いなしに、あれだけ強い技が出せるなら、もっと先に出せと怒っている。


 そして、目の前に、大きな黒い霧の扉が出現した。


 嫌だなあ、アークデーモンよりも強いデーモンって言ったら……いや今はやめとこう。


 とにかく全身あるのみだ。そして僕らは吸い込まれるようにして、目の前の黒い霧の大きな扉の中に入った。

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