第133話 大ボス、ゴブリン・ロード撃破、そして第2階層へ


 *4


 「リコ! そいつの攻撃は早いぞ!」


 「そんなの見りゃバリガチ解るだろ! でもなあこっちの方が早いっての『波動脚煌はどうきゃっこう!』」


 いくらゴブリン・ロードの攻撃が早くても、ゲーム内での話だ。


 リコの『波動脚煌』は神速に達する。


 嗚呼、この攻撃を回避するために入手した、レア・アイテム『神速しんそく羽靴はねぐつ』を手に入れるのに、どれだけ時間がかかったことか。しかもこのアイテム、店屋や鍛冶屋で手に入らないから、ドロップ率5%の敵をひたすら狩り続けて、手にいれるしかない。


 2時間ぐらいかかったかな……ああ、片方しか落とさないから両足で4時間か。


 長かったな。


 しかし、リコは今、そのレア・アイテムの速さどころではない、避ける避ける避ける。清々しいまでに避ける!


 「バリガチ食らいな! 『波動連撃はどうれんげき』!」


 おお! 結構ダメージ入るな──っと、こっちにも攻撃するよな。


 だったら僕も『波動脚光』からの『波動穿孔』だ。


 よしよし、いい感じにダメージが入ってる。そろそろ手が半分になる。こいつは首を守る手が半分以下になると、首を守る手を補充するから──今だ!


 「鏡侍郎! いつものラッシュ頼む!」


 「応! 来い! 【グランド・バーサーカー】! 吹っ飛びな! 『サウサンド・インパクト』!」


 おっよろめいた! これを何度か続けると倒せるんだが、解りやすいことに、最後は全方位の魔法ビームをを出してくるんだよな。


 リコは大丈夫として、鏡侍郎はどうするかだ。


 「鏡侍郎! こいつは、このまま攻撃を繰り返すと、全方位のビーム飛ばしてくるけど、何か対策はあるか?」


 「あ? 俺は攻撃一辺倒だぞ! 防御技なんてあるか!」


 だよな、さて困りました。ここまでは順調だったがどうするか?


 ゲームだと、一度だけ蘇生できるアイテムがあるから、そのアイテムで蘇生して最後に首を狙った攻撃で一発だが、これはデスゲーム。


 つまり一度でも死ぬと生きからない。ノーコン縛りそのものだ。


 その時、僕でも思いつかない答えを出す奴がいた。


 リコである。


 「だったらよお。最後の全方位のビーム出させる前に、特大の一撃を食らわせれば、終わるんじゃないか? よくわからんが」


 おお! それ行けるかもな!


 「リコ! サンキュー! その提案行けるかも!」


 そのまま、僕たち3人は同じ攻撃を続け3度目のよろめきがあった。


 全方位魔法は5度目のよろめきだ。

 まだ手は残っているが、リコの提案に賭けるしかない。


 よし僕とリコの攻撃は順調に敵の首の手を減らしている!

 これはゲームじゃない法則性がないならオーバーキルで僕らの勝ちだ!


 「このまま行けるか? リコ!」


 「当たり前だろ! 『波動重撃はどうじゅうげき』!」


 リコの放った攻撃はまさしく一撃必殺の大技だった。


 練り上げた右手の拳骨に思念気が凝縮させ、圧倒的なまでの火力の一撃!


 その攻撃を食らったゴブリン・ロードは顔面が弾け飛び、緑色の飛沫を飛ばしながら──倒れない!


 それどころか、顔が、首が、再生しやがった!

 マジかよ! ちゃんと5回攻撃しないと死なないのか?


 まさかここにきて、そんな法則性があるなんて。


 「嗚呼、なんて愚かな罪人たちよ」


 来た! 全方位魔法ビームの前の台詞だ。


 「鏡侍郎早く──」

 「【ボルケーノ・クイーン】! 『ヘル・スワロー』!」


 僕が言うよりも先に行動に出た奴が、1匹。

 ビビだった。すっかりビビの存在を忘れていたが、こいつも立派な超戦力の1匹なんだよな。


 僕のコートのポケットから出たと思ったら、巨大な燃え盛る大虎になり、その流動するマグマの体の一部が巨大な牙を剥き出しにした大口になり、鏡侍郎目掛けて飛んでくる魔法ビームを飲み込んだ。


 間一髪だった。


 「それじゃあビビは、戻るビビ」


 そう言ってビビはまた、ポケットサイズのネコになると、僕のコートのポケットに戻った。


 あいつ、もしかして──いや、絶対、うん。ビビだけでゴブリン・ロード倒せたんじゃね?


 ま、まあいいや。とりあえず助かったのだ。


 僕が鏡侍郎を見ると、何やら独りごちていた。


 「ビビに借りができちまったな……今度甘い菓子でも買ってやるか」


 なんだか和やかな──うわっ! ゴブリン・ロードはまだ倒してないんだった!


 和やかムードは、このダンジョンを出てからだ。


 「鏡侍郎! これで最後だ! 僕とリコで──」


 「その必要はないぜ! 一度試したかった技があるんだ……! 跡形も無く吹っ飛びな! 『テンサウザンド・インパクト』! ウッぜえええええええええええ!!」


 幾千万の超絶殴打ラッシュ。

 ありとあらゆる場所に数秒間に叩き込まれる、殴打は敵が逃れることを許さない。


 僕とリコが首を守る手を半分破壊する前に、決着がついた。

 再生したばかりの、まだ攻撃していない無数の手で守られた首など、防御の内に入らないほどの誰にも止められない──ラッシュ! ラッシュ! ラッシュ!

 まさに跡形も無く全てが吹っ飛んだ。顔が! 首が! 胴体が! やりすぎだ……。


 緑色の血飛沫が飛び散り、断末魔の叫びを上げる露の間さえ与えない攻撃だった。


 しかし、一応だが、緑色の血飛沫が黒い霧となり消えていった。


 そして、次なる階層。つまり第2階層の階段だ。


 ふぅ。第1階層でこのレベル、次はどんなヤバい敵が出るんだろうか?


 だが、あの鏡侍郎の技があれば、なんだか楽勝のように思えてきたぞ。


 ふと鏡侍郎を見遣ると、「やれやれ、全く肩が凝る野郎だったぜ」と、独りごちていた。

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