第128話 ミステリーダンジョン第2階層、嘘つき警備員は誰だ


 *3


 「おいリコ。ここのミステリーダンジョンは、全部鏡侍郎に任せた方がいいんじゃないか?」


 「ああ、俺もバリガチそう思ってたとこだぜ」


 僕とリコが小声で話していると、鏡侍郎が話しに割って入ってきた。


 「おい。何ヒソヒソ話してるんだ?」


 「いや、お前ミステリー小説とか好きだろ? だからこのダンジョンは全部お前に任せようかと──」


 鏡侍郎は頷くこともせず、怒りもせず、淡々と言った。


 「ああ。別に構わねーぜ」


 やっぱり、少し楽しいと思ってるんだろうな。


 僕たちが階段を昇りきると、また例のアナウンスが突然鳴り響いた。


 『第2階層でのミステリーは、万引きの犯人を捕まえたが、嘘をついてる警備員がいます。その嘘を付いている警備員を当ててください』


 「おい、もうルールは解ってんだ! さっさとショーを見せな。俺が全部正解してやる」


 『おや。随分と自信たっぷりですね。ではでは開幕』


 アナウンスの声と同時に、僕ら3人は大型スーパーの中にいた。ここが今回の劇の場面か。



 ────────




 ここの大型スーパーでは、警備員が万引き犯人を捕まえると、報奨金が貰えるシステムになっている。


 オーナーが警備員がサボらない為の配慮であろう。


 そして今日、1人の子供がセーターを盗んだ。


 警備主任がそのセーターを万引きした少年を、店長の前に差し出すと、万引きした子供は顔を真っ赤にして泣き出してしまった。


 「違う! 違うんだよ。確かにセーターを盗んだように見えるかもしれないけど、盗もうとして盗んだんじゃない!」


 万引き犯人の決まり文句。


 店長はそれぐらいにしかとらえかった。


 「ただ、僕は試着しただけなんだ、でも間違えて裏側に試着して、サイズも一回り小さくて、脱ごうとしたら脱げなかったんだ。それで、万引きしたかもしれないけど、僕だって、必死に脱ごうとしたん! おまけに後ろ前に着ちゃって、名札が隠れたんだ。だからその、このまま外に出て帰ろうと──」


 「だったら他の店員を呼べばいいだけだろ! 犯人の常套句だな。ちなみにそのセーターを見せなさい──赤い長袖にVネック、ウール100%か。確かに体にくっつきやすい素材だな。だからと言って万引きして良いことにはならないんだぞ! 坊や!」


 子供は泣きながら顔をクシャクシャにして謝っている。


 「あのお店長」


 「なんだね? 警備主任」


 「それがですね、自分が万引き犯人を捕まえたと言っている警備員が2人いまして、2人とも報奨金をくれとゴネているんです」


 店長は深く溜息をつくと、その警備員2人を連れてこいと警備主任に言った。


 「はい何でしょう? 私が店内担当の警備員をしているものですが」


 「うむ、では単刀直入に訊くが、なぜ、少年がセータを盗んだと気がついたのかな?」


 「それは、セーターが前後ろの逆さになっていて、少年の胸に裏にしないと見れないセーターのラベルが見えたからです」


 「そうか。解った。ではもう1人の警備員を!」


 「私は、外の出入りと通りを確かめる担当の警備員です。その時に、胸のラベルが見えて、すぐに捕まえました」


 警備主任が付け加えた。


 「2人とも、持ち場は出口のすぐそばです。ですから2人とも言い分は確かだと思いますが……」



 ────────



 急に目の前が暗くなった。

 どうやら劇は終了のようだな。


 しかしわからない。嘘をついてる警備員なんていないと思うが、数秒の差で報告が遅れたとか、それぐらいしか思いつかないない。


 僕は鏡侍郎を見ると、また少し微笑している。


 記念だ記念だ、録画しておこう。


 『ではでは、謎を解いてもらいます。しかし今回から、ヒントはありません。ヒントがあったのは第1階層だけです。これからどんどん上にいくにつれ、問題も難しくなりますが、毎回ヒントを出していては、ミステリーの醍醐味が薄れてしまいますからねえ』


 「そうだな。俺もそう思うぜ。それにこんなチープなミステリーにヒントなんて必要ねえ」


 鏡侍郎のことだ、大言壮語ではないことは確かだと思うが、本当に解ってるのかな?


 1回でも間違えれば、僕ら3人とビビ1匹は南極送りだぞ!


 頼む鏡侍郎! お前だけが頼りなんだ。


 「正解は出口で止まって、外を確かめていた警備員だ。そもそもセーターを裏にして、前と後ろ逆に着るなんてのは、警備員の視覚を誤魔化すトリックだ。店内の出口付近にいた警備員は出口から中を見ていた。だから、胸のラベルに気が付くことができる。だが外を確かめていた警備員はセーターを逆向きに着ていて、その少年の後ろ姿しか見ていないから、胸のラベルなんて見れるわけねーんだよ。だから嘘をついてるのは、外を確かめていた警備員だ」


 『正解です。ヒントもないのに、よく気が付かれましたね。ではでは、まだミステリーは続きますよ〜』


 そう言うとアナウンスが消えて、また上の階に昇る階段が現れた。


 しかし、鏡侍郎がここまでミステリーに詳しい、というか得意だなんて。


 お兄ちゃんは知らなかったよ。


 まあ鏡侍郎もリコもゲームには詳しくないが、ただミステリーの謎解きをするだけのダンジョンなら鏡侍郎無双だな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る