第5章 モーガンのミステリーダンジョン

第126話 今度のダンジョンは、ミステリーダンジョン


 *1


 「なあリコ。やっぱり空路の方が良くないか? 19時間でアルゼンチンだぞ?」


 「あのなあ。空路よりも時間はかかるが、航路の方がバリガチ安全なんだよ。お前も知ってるだろ」


 僕とリコは先ほどから、空から行くか、海から行くかで揉めている。

 だって海からだと6日から7日はかかるのだ。


 鏡侍郎は、呑気にガムを噛みながら、リクライニングチェアで寝そべってるし。


 「あれは偶々だろ?」


 「相手は何人も刺客を送ってきてるやつだぞ! 海の方がバリガチ良い!」


 うーむ、このままでは埒があかないぞ。


 「おい鏡侍郎。お前はどっち──」


 こ、この野郎。呑気に寝て嫌がる!


 なんか腹が立ってきた。


 「どうすんだ? お前だけバリガチ泳いで行くか?」


 「うるせー!」



 僕とリコの遣り取りを聞いて睥睨してくる、髭面の汚い物乞いのオッサンがいた。


 「おいこらオッサン! なにバリガチ睨んでんだ? ああ!? 金ならやらねーぞ! 物乞いが! 臭えからあっち行きな! シッ! シッ!」


 リコが手で羽虫を追い払うジェスチャーをしている。


 「お、おいやめろ! こんな港で騒ぎを起こすな!」


 すると今度は満面の笑みに変わった。

 しかし、失礼だけど、笑うと余計気持ち悪いな、このオッサン。


 「もしかして、アンタらはキョースケにキョーシローにリコか?」


 「はあ!? だったらバリガチなんだってんだ?」


 「俺はジェイトの刺客だ。おっと待ってくれ! 刺客って言われても単に金で雇われただけで、アンタらが強かったら、金だけ貰ってトンズラよ」


 こいつ、自分から刺客って言ってきやがった。何か意図があるのか?

 僕とリコが怪訝な目付きでオッサンを見てると、オッサンは続けた。


 「俺は『条件型』のピース能力者で、誰かの能力を借りることができる。借りたのはさっきのダンジョンを作る能力だ」


 「お前さっきからバリガチ何言ってんだ?」


 「話は最後まで聞けって。俺の名前はモーガン、能力名は【ボロウ・エスケープ】。お前らさっき、フィアーとか言うやつにダンジョンに入れられたろ? あいつの能力名も教えてやる【マッド・スカルプチャー】だ。どんなダンジョンでも作れる能力らしい。よし、これで条件クリアだな。じゃあ精々頑張るこった。俺のダンジョンはミステリーダンジョン。敵は出ないが謎解きに失敗したら南極行きだ。じゃあな。ちなみに俺のダンジョンは5階層まで、地下じゃなく上がっていくんだ。お前らのクルーザーは今、面白いことになってんぜ」


 言うなりモーガンは黒い霧状になり消えてしまった。


 「おいこら! バリガチ待ちやがれ! 何がダンジョンだ──って何いいい!! クルーザーが円錐の形をしたダンジョンに変化していやがる! このダンジョンをクリアしないと、クルーザーが元の形に戻らねーのかよ!」


 リコの声に鏡侍郎が目を覚ました。


 「おい。さっきから何喚いてんだ? ろくに寝れ──何いいいい!」


 まあ、そういう反応するよな。さっきまでクルーザーだったのに、いきなり円錐の形をしたダンジョンになってたら。


 「おい。また妙なダンジョンとやらでひと暴れするのか?」


 「いや、今度のダンジョンはミステリーダンジョンだって。ミステリーに答えて5階層までいかないとクリーザーが元に戻らない。しかも、クリアできなかったら、僕たち南極行きらしいんだ」


 「な、南極だと! クソ兄貴……テメー! らしいじゃねえんだよ! なんでそいつと話している時にぶん殴らなかった!」


 あっ! その手があったな。リコとの会話というか口喧嘩に夢中になって忘れていた。


 「チッ。仕方ねえ。全く肩が凝るダンジョンだがクリアしてやる」


 ん? なんだか鏡侍郎の奴、ミステリーって言ったらウキウキになってるぞ。と言うか、そんなことよりも早くダンジョンの中に入ってクリアしないと。


 そして僕たちは、円錐形のクルーザーほどの大きさのダンジョンに入って行った。


 今回も黒い霧状の入り口だ。


 まあ、他の人には、普通のクルーザーにしか見えていないんだろうけど、能力者には、はっきりと円錐形のダンジョンが見える。


 だが、よりにもよってミステリーかよ。僕は探偵系のミステリーが苦手なんだよな。


 映画で推理系の映画を見ても10分したら寝てるし──でも行くしかないか。



 ────────


 中に入ると、そこはダンジョンというよりも、単なる部屋の中だった。


 決まっているが、オブジェクトを破壊することはできない。


 僕が思案してると、けたたましい音ではないが、それなりに大きなボリュームの音声が流れた。


 『第1階層のミステリーが始まりました。第1階層のミステリはー、早朝殺人ミステリーです。それではお楽しみください』


 その合図とともに、1人の刑事と1人の夫人こと老婆が現れた。


 早速ミステリーの始まりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る