第124話 全てを割る卑劣者、グルタニー


 *2


 先に述べると、ガルズでの戦火でピース能力者が絶頂を迎えていた時期は、当の昔に過ぎている。


 それは、ピース能力者の強大さを全ての他国が、身に染みて味わっているからだ。


 ならば現在のピース能力者はお払い箱なのか?

 そうではない。現にピース能力者は各国の首脳の護衛や警護、長引く戦火を終わらす切り札として使われている。


 つまり、現在のピース能力者は昔に比べて、様々な能力者に出会うきっかけが少ない。世界中で開発されている、アンチピース・マテリアルというピース能力を無効化する兵器が開発され、ピース能力者は実戦の機会が大幅に減少してしまった。


 そんな中で、ピース能力者集団の第六師団は稀有な存在だと言えよう。


 もし、ピース能力者集団ばかりの世界で戦ってきたのなら、バスでの異変もローザは対して驚愕しなかった。だが、実際は驚愕の念を隠しきれずにいたのだ。


 ではガルズでは今、どんな戦争をしているのか?

 それは、アンチピース・マテリアル搭載のバーラーと呼ばれる、巨大人型人造機械。通称・巨大ロボットである。


 そして、白兵戦を演じるのは、アンチピース・マテリアルを搭載し、ウェポンスーツを纏った強化兵士たちなのだ。


 原爆とまでは言わないが、ミサイルなどの大型爆撃武器や、空中を自由に飛び回る空中爆撃機があるでは無いかという声も聞こえてくるが、殊更バーラーの底知れない力が他を圧倒しているのが現状なのだ。


 現在各国では、全環境対応バーラーを開発することに躍起になっている。


 なので、ローザ4人組が、眼前の自分のことを見つけてくれと言わんばかりの、全身漆黒の防寒着の男のピース能力に対して、この見通しの悪い吹雪と同等に、相手の能力が判らない状況で苛立ちを覚えていた。


 せめて、何か、ヒントでもあれば。


 しかし、敵である以上、ここちらに危害を加えてくるのは確かだ。ならばまずは『クリア・ボックス』で自分を含む4人の身を防ぎ相手の出方を待つのが上策。ローザはそう考えた。


 「【クリムゾン・ジェイラー】! 『クリア・ボックス』!」


 しかし、そのボックスは無惨に打ち砕かれる結末を迎えることとなる。



 「そげな攻撃、おらには通用せん! 『ポケット・フラッシュ』!」


 閃光の中で大きくバリンと、何かが割れる音がした。


 それは、今現在、ローザが繰り出した『クリア・ボックス』だったのだ。その『クリア・ボックス』が、跡形もなく消滅している。


 「無駄無駄。そげな時間稼ぎの技なんて見え見えだ。オラの名はグルタニー。何でも割る能力がある『条件型』の【ポケット・ディバイド】っちゅう能力名のピース能力だべ!」


 (こいつ。訊いてもいないのに、自分の能力をベラベラと喋るとこを見ると、頭の方まで割れてるみたいだな。まあいい、どんな能力かも解ったことだし、どうやって突破するかだ)


 「言い忘れ取ったが、オラの攻撃は、物理だけやのうて精神にも干渉するだよ! 『フレンドリー・ファイア』!」


 グルタニーが発するや否や、クスターナが隠し持っていたナイフで、ルクリルを攻撃しようとしていた。


 「ルクリル……アンタ、いつも、アタシの悪口を影でコソコソ言ってるんだろ? アタシのこと鬱病だと思ってんだろ? アタシの文句を言う奴は死ねやあああ!!」


 「うわあああ!! ちくせう! どうしたんだクスターナ! お前の悪口なんて一度も言ってねーよ!!」



 バスの中で見た景色と全く同じである。

 やめさせないと──だがどうやって? 声をかけてみるか? だがこの技は精神汚染技。声をかけたところで、正気に戻るわけでもない。


 ならば! と、ローザは急場凌ぎではあるが、ルクリルに提案を出す。


 「おいルクリル! クスターナにありったけの、オメーのシャウトをお見舞いしろ!」


 「そんなことしたクスターナが!」


 「クスターナだったら、後でアタイが『ヒール・ボックス』で回復させてやるからやれ!」


 「ちくせう! もうどうなっても知らねーぞ! 【バース・ボイス】! 『ザ・シャウト』! イーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!」


 「無駄無駄! 『抽象型』の音も割れるんさ! 『ポケット・フラッシュ』!」


 すると、ルクリルご自慢の『抽象型』の爆音が消滅し、代わりに辺りは深々と降る雪の防音の中で、4人はただ佇むしかなかった。


 (チキショー! 頼みの綱だったルクリルの『抽象型』まで割って消滅できるのかよ! 攻撃全てを割るってことは、防御しても破られる、攻撃しても届かずに割られる。まさに八方塞がりじゃねーか!)


 ローザの焦りが深まる中、降り積もる雪も深まる。


 (一体全体、こんな野郎相手にどうやって戦えってんだ?)


 ローザの胸中は今、アネゴと慕うシェルルの能力である、【ライトニング・ライン】があれば、一発で倒せると言う気持ちで一杯だった。

 その技は、数秒間だが、脳内の電気信号を止めて、時間が止まった感覚に陥る技である。


 いかに、能力を割ることができても、割る前に、脳内の電気信号を止められれば、一瞬で勝てる相手だ。しかし、その技は現在ジェイトの手の中にある。


 そうこう考えてる内に、一番最悪な事態が起こった。


 「まだまだ次がある。バスの中で見た光景を覚えてるだろ? お前らにはこれから、4人で同士討ちしてもらう! 『フレンドリー・ファイア』!」


 それは、ローザが一番恐れていた事態だ。


 ローザの思考は混乱の只中にある。一体どうするのか、まとまりがつかない。


 そんなローザを嘲笑うように、グルタニーの性格を具現化したような、自分の力では攻撃せず、相手に自爆させる惨憺で卑劣な攻撃がローザたち4人を襲う。

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