第4章 全てを割る、【ポケット・ディバイド】

第123話 騒音四人組が行く、アメリカ横断珍道中


 *1


 九条鏡佑たちがオーストラリアに着いた頃、ちょうど別行動をしていたローザたちは、カナダのバンクーバー国際空港からバスで、アメリカ国境を目指していた。


 作戦の狙いは挟み撃ち。


 鏡佑がアルゼンチンの方から北上し、ローザたちはメキシコから南下し挟撃する構えの作戦だ。


 他のメンバはー、『ミラーリング・ゲート』の鍵を守ために、臥龍を護衛するコチョウや心絵のチーム。


 さらに、能力とパワーをジェイトに奪われ、今では一般人ほどの『ゲイン』しか持たない『Nox・Fangノックスファング』のリーダー、シェルルを護衛するために、『六怪ろっかい』のシュセロと女性戦闘員サキョーネが護衛することになった。


 斯くして、北アメリカチームのリーダーであるローザ率いる女性戦闘員4人組が、今、カナダのバスに揺られてアメリカ国境を目指している。


 率いるメンツはシュセロが選抜した、攻撃や応用能力に長けた四人組──だが、とにかく五月蝿い。


 メンバー同士は仲良く無い訳ではないが、この4人が集まると、大騒音の塊となる。


 まずは、ローザ。


 言わずと知れた、ヘビースモーカーに大酒飲みで、かなりの戦闘狂であり、『Nox・Fang』内では選ばれし8人の精鋭部隊と言われる『四獣四鬼しじゅうしき』の一角を担っており、彼女の通り名は『夜霧よぎり隠形鬼おんぎょうき』と呼ばれ、師団内では尊敬とともに恐れられている人物である。そして、この4人組のリーダーを任されている。


 そして次にクスターナ。


 この四人組の中では一番増しな方だが、躁鬱の気が強く、戦闘の最中に躁状態になると、誰も止められない。

 幼少期からビジュアルバンドにハマり、口に鉄の棘がついたマスクを装着していて、素顔を見たことがあるのは、誰もいないらしい。


 次にルクリル。


 見た目は小さな幼女のようだが、貧乳であり、爆乳の女性に恨みを持っており、過去2回ほど、ローザと師団内で喧嘩と言う名の死闘をするなど、問題行動が多い。


 舌足らずで、声が大きくよく噛む癖や、幼い口調をしているが、本気で怒ると、なぜか舌足らずが治る。


 周りのメンバーからは、少しでも可愛く見られようと、わざと舌足らずの演技をしているのではと噂されている。



 最後にラーチャ。


 言わずと知れたコスプレマニアで、この四人組の中では一番灰汁が強い性格でピース能力も『四獣四鬼しじゅうしき』と同等と言われるほどの能力者である。

 言葉の語尾にいつも『なぁ、なぁ、なぁ』と言うが、本人も直そうと努力しているらしい。


 だが一番灰汁が強いのはそこではない。

 彼女はシェルルと歳が近く30代後半なのだ。

 つまり他の20後半の3人と一緒に見られたく、自身は厚化粧で若作りをしていて、自分も他の3人と同様に若く見られようとしている。


 さらに、ローザが頭を抱えている点は、ラーチャは、おばさんと言われると激怒して感情の制御ができなくなるところだ。加えて、大喰らいなので、太い体を隠している。なので太っているという言葉も禁句である。


 もし言おうものなら、誰にも手がつけられないほど、暴れ散らかす。

 つまり、年齢や体重や太いなどという響きに近い言葉に対し、異常なほど反応する癖がある、危ない奴なのだ。


 以上の4名が、アメリカから、南下してくるチームであり、一面雪化粧をした路面がデコボコの大地に揺られながら、アメリカ国境行きのバスに乗っている4人組である。


 ──────



 外は溜息が出るほど、曇りガラスを拭いても、一面が雪、雪、雪の雪景色。


 楽しい観光ではないとラーチャが溜息をついている。


 「なぁ、ローザ。あとどれぐらいでアメリカの国境なんだ? なぁ、なぁ、なぁ」


 「えっと、ああ、あと4時間ぐらいだ。この雪の中じゃ、スピード出せないしな」


 「ちくせう! 4時間も何してろってんだ! ゲームでも持って来ればよかったぜ! イン!」


 ルクリルが話しに割って入ってきた。


 「つーか、クスターナ! オメーさっきから何携帯をいじり倒してんだ?」


 「せっかくカナダまで来たんだから、自撮り写真を撮ってるんだけど……嗚呼! なんでベックスにボストしてんのに、いいねが40件しかねーんだ。既読スルーの奴、全員殺してやる! ぶっ殺してやんよ! でも……40件か。私は40件の女なんだ…笑いたきゃ笑えよ……」


 またクスターナの鬱の気が酷くなっている。


(ああ、こんなんだったら、シュセ兄と変わってもらいたかった。こんな馬鹿3人を相手にしなくちゃいけないのかよ)


 ローザは心の中で独りごちた。


 あのローザでも手を焼く3バカ娘が今ここにいるのだ。


 (外の景色を見るって言っても雪しか──あ?)


 ローザが外の景色を見ていると、紛れもなくクスターナが鬱の気が強くなりすぎて、ルクリルをナイフで刺し殺そうとしている景色を見た。


 「な、なにいいい!? なんだこれ!」


 次に見たのは、4人が仲間割れして、誰かが死ぬんじゃ無いかと思わんばかりの大喧嘩をしている景色を見た。


 「ま、またかよ! おかしい、なんなんだよいったい!!」


 ローザは車掌席まで行き、車掌にバスを止めるように促すと、車掌はローザの声に振り向こうとした瞬間、真っ二つに割れ血飛沫を撒き散らした。


 「な、なんだとおおお!?」


 ローザが車掌席から、他の3名の方を振り返ると、他の乗客も全員が真っ二つに割れていて、床一面が血溜まりになっている。


 「一体なにがどうなってんだああ!?」


 『四獣四鬼』のローザでも、今までにこんな経験は初めてだった。


 他の3名は微睡みの中にいたが、ローザがこの非常事態に全員を起こすと、3名とも緩慢な動作で、ローザの言葉を聞いている。


 そして、真っ二つになった車掌や乗客を見遣ると、ローザと同じ反応を取った。


 すぐさま、4名はバスを降りると、辺り一面が白銀の世界に包まれている中で、薄っすらと、黒い人影が佇立しているのが見える。


 ローザはここで、長年の野生的直感が働く──あいつはピース能力者だと。

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