第122話 地下10階層での激戦、大ボス・撃鉄のゴーレム


 *5


 いよいよだな。ここの大ボスを倒せば外に出られる。


 僕と鏡侍郎とリコの三人は颯爽と、黒い霧状の壁の中に入った──瞬間。巨体のゴーレムからマシンガンの洗礼が待っていた。


 おいおい、いきなりかよ。

 大ボスなんだから、なんかゲームの登場シーンみたいのがあっても──うわ! お次はショットガンか。


 威力的には、通常兵器と同じぐらい。つまり当たってもさほどダメージはないが、問題は、バカスカ銃を撃ちまくっているから近づけない。


 『波動烈堅はどうれっけん』で肉体強化をして近づくしかないな。


 しかし、一定の距離まで近づくと、後ろに飛び退り攻撃しようとしても回避される。


 中ボスみたいに、一定のキャラ限定じゃなくて、全員で倒せればいいが、何かおかしい。さっきから鏡侍郎とリコの援護が無い。


 「おい鏡侍郎にリコ! なんで援護を──」


 「う、うるせえ! こっちもバリガチ動こうとしてるが、黒い霧が空中に纏わり付いて、動けねーんだ!」


 見ると、鏡侍郎もリコと同じだった。


 「どうなってやがる! ピース能力も封印されちまった!」


 なるほどね、このボスはタイマンでの勝負で、僕が死んだら、後続に控えてる、どっちかの黒い霧が消えて、またタイマン勝負ってか。


 シンプルだが、連携技で、すぐに終わらそうと思っていたので、やりずらいな。


 どわっ! また撃って来やがった。今度は鎖に繋がれた腕を飛ばして来たぞ。


 まあこの攻撃はゴーレムっぽいけど、銃の乱射は鬱陶しい。


 洗面所で歯を磨いているときに、目の前で蚊がブンブン飛び回っているぐらい、鬱陶しいぞ。


 だが、喋らないな、中ボスの魔女と違ってゴーレムだからか?


 『撃鉄で殲滅する』


 うお! やっと喋った。そんなことよりも、まずはダメージがどれだけ入るかだ。


 ゴーレムだから防御力は高そうだから、顔面を狙って攻撃だ。


 「『波動脚煌はどうきゃっこう』に『波動烈堅』! そして顔面目掛けて『波動穿孔はどうせんこう』だ!」


 僕の攻撃で、なんとゴーレムの顔面に穴が空き、そのまま、重力に負けて、ゴーレムの顔面は地面に落ちた。しかし、攻撃はまだ止まらない。


 なんだよあのゴーレムは。不死身か?


 しかし、僕が攻撃した時に、不思議な動きをしていた。


 明かに顔面を狙って攻撃したのに、自分の腹を両手でガードしたのだ。


 まあ、あれだ、なんとも解りやすいボスだ。


 要はこのゴーレムには、コアがあり、コアさえ破壊しなければ、永遠に攻撃をしてくる単純なボスということ。


 ただ普通の能力者なら、この威力の攻撃は防ぐのがやっとだが、今の僕には石礫を飛ばしてるだけだ。全くダメージに入らない。


 それじゃあ、コア目掛けて──


 『警報装置作動。部位損傷率が50パーセントを超えたので、回避モードに移行します』


 すると突然、攻撃もしないのに、ゴーレムは軌道が読めない動きで、飛び退り、こちらの攻撃がまともに当たらなくなった。


 マジかよ、空でも飛べたら──ん? そう言えばリコが空を飛ぶ波動思念を使ってたな。


 「おーいリコ! お前がさっき空中を飛んでた波動ゲンホの漢字を教えてくれ!」


 「はあ? まあそんぐらいバリガチいいけど何か企んでやがるな。『波動幻歩はどうげんほ』のゲンホは幻想の幻に歩道の歩だ」


 「サンキュー!」


 確かに飛び退る速さは、かなりのもんだ、回避モードとはよく言ったもんだな。だが『波動脚煌』の疾走に加えて、『波動幻歩』の空中移動さえあれば楽勝モードだ。


 さて、今度こそコア目掛けて渾身の『波動穿孔』をお見舞いしてやりますか。幸い攻撃は無いから『波動烈堅』は必要ない。


 「食らえ! 『波動脚煌』からの『波動幻歩』!」


 よし! この速さなら確実に射程内に──届いたぞ!


 「いっけえええ! 土手っ腹のコアに『波動穿孔』だ!」


 僕の攻撃が炸裂し、ゴーレムの腹部には大穴が空いている。


 攻撃した瞬間、何かが割れる音がしたが、きっとそれが、このゴーレムのコアだったに違いない。


 そしてゴーレムは動かなくなり、魔女同様に、黒い霧状になり消えた。


 攻撃力は大したことない敵だが、意外とあの巨体でゴーレムにしては素早いやつだったな。


 すると、またあの不愉快極まりない声が聞こえた。


 『アメージング! エクセレント! なんとなんと、このダンジョンを攻略してしまうなんて。私は絶対にクリアできないと思っていたのに──』


 「おい! クリアしたんだ! さっさと外に出しやがれ!」


 『せっかちな人ですね。せっかくエンドロールも用意しておいたのに。まあいいでしょう外の世界に戻しますよ。それではまたお会いしましょう。次のダンジョンでも貴方たちの奮闘を期待していますよ。ではではこれにて失礼いたします』


 そういうと、僕たち三人は黒い霧に包まれた。



 ──────



 「お客さん! お客さん! もう繁華街にはつきやしたぜ! 三人とも何回起こしても起きないから大変だった」


 「うーん。なんだ? 眠っていたのか?」


 だが体の火照りは残っている。


 どうやらあの能力者は、こちらが寝ている時に、夢の中に侵入して攻撃してくるタイプの能力みたいだ。


 そんなことよりも……。


 「へっぶし! うお寒っ!」


 タクシーの窓が開いたから冷気が急に体全体を包み込む。


 「おいリコ! は、早くコート買いに行こうよ!」


 「お、おうそうだな。ほらオヤジ、15ドルだ。釣りはいらねーよ」


 「釣りも何も、あんたら起こすのに1時間もかかったんだ、15ドルでも足りないぐらいだよ!」


 そういうと、さっさと車から降りろと言わんばかりに促され、外の繁華街に来た。


 ていうか、1時間も寝てたのか?

 それよりも、敵の正体も解らなければ、夢の中から襲って来たから、今頃もう逃げてるだろうな。


 「やれやれ、逃げられたか。全く肩が凝る野郎だぜ。次に会ったら必ず、顔面の形が変わるまでぶん殴ってやる」


 鏡侍郎もゲームをクリアすれば、ぶっ倒せると思っていたのに、相手が見つからず逃げられたから、冷静を装ってはいるが、内心はかなりご立腹の様子だ。


 まあとにかくだ。今の最優先事項は僕のコートを買うことだ。



 第3章・了  デッドデイまで残り、40日と5時間。

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