第121話 ボーナスダンジョンで、フィーバーフィーバー


 *4


 地下6階層に降りると、そこはダンジョンではなく、ホテルの一室だった。


 「「「なんだこりゃ?」」」


 思わず三人同時にシンクロしてしまった。だって急にダンジョンから、ホテルの一室になったら驚くでしょ?


 テーブルの上には、お菓子のチョコやクッキーまで。


 その時、僕のジャケットの中でビビが飛び出してきて、そのお菓子を食べ始めた──猫の姿で。


 「お、おいビビ。大丈夫なのか? もしかしたら毒入りかもしれないんだぞ?」


 「大丈夫だビビ! もし毒でもナノマシンが全部無毒にしてくれるビビ!」


 はあ、なんかよく解らないけど、本人がいいって言うなら別にいいか?


 『パンパカパ〜ン! おめでとうございます! その地下6階層はボーナスダンジョンです』


 またあの不愉快な声だ。


 『なんと、なんと、その部屋では3問のクイズに全て答えて全問正解だと、一気に地下10階層の大ボスの部屋の前まで行けます。しかしペナルティーとして、もし1問でも間違えたら、また地下1階層からやり直し。つまり振り出しに戻ります。どうですか? このギャンブルをやりますか? それとも辞退して、コツコツと──』


 「いや、やるぜ!」


 あの……鏡侍郎君? お前一番クイズとか苦手なタイプじゃないの?


 いや、でも意外と洞察力に優れてるんだよな、ゲームはやったことない、ド素人だが。


 『嗚呼、なんてフィアー! こんなところに、生粋のギャンブラーがいたなんて』


 「どうでもいいから、さっさとクイズとやらを出しな」


 『ゴホン! いいでしょう。では第1のクイズ。泥棒が空き巣に入ると、その家には番犬がいました。仕方ないので泥棒は持っていたガムを犬に食べさせると、急におとなしくなりました。ちなみにこのガムは毒も睡眠薬も入っていません。どこのコンビニでも購入できる普通のガムです。ではなぜ、ガムを食べた番犬は大人しくなったのでしょうか? 制限時間は10分です。ではでは』


 うわっ! これ灰玄かいげんが得意なラテラルシンキングじゃん。


 こんなことなら顧問役に、灰玄を連れてくればよかった。


 「俺はもう解ったぜ。答えは──」


 「ストーップ! なあ鏡侍郎。これはただのクイズじゃなくて、意地悪クイズなんだ。普通の考え方じゃ、まず負ける。お前はどうせ、満腹だったとか、ガムで胃が膨れたとか考えてるんじゃないか?」


 「うっ! なんで解った!?」


 やっぱり……まあ、僕もラテラルシンキングはずっと勉強してきた。つまりこの問題は僕には朝飯前だ。


 「おい鏡佑! 俺もバリガチ答え思いついたぜ。答えは風船──」


 「だから違うって!」


 どうやら、この2人はミステリーの謎解きは得意でも、ゲーム感覚のラテラルシンキングは苦手みたいだ。


 「なあ、全部の責任は僕が取るから、ここは僕に任せくれないか?」


 「おいクソ兄貴! 勝算はあるんだろうな?」


 「もちろん」


 「まあ、俺は時間に余裕があるから、また地下1階層に戻ってもバリガチ問題ねえから、勝手にすればいいんじゃねえか」


 「ありがとうな、リコ」


 それじゃあ、問題の答えだ。


 犬に食べさせるのを限定にこの問題は作られている。ならば答えは1つ!

 犬にある特定のガムをあげるとグッタリする、その物質は、コンビニでも買える。


 だったら、これっきゃない!


 「問題の答えだ! 答えはキシリトールガムだったから!」


 そう犬にキシリトールを与えると、消化できずにグッタリするのだ。


 『ぐぬぬ。正解! 中々やりますね。ですが次はどうですかな? 第2問! スクリューで動く1本マストの船が、世界一周旅行の航海に出ました。船のどの部分が最も多くの距離を動いたことになるでしょうか?』


 おいおい、灰玄のクイズはもっと難しかったぞ。

 こんなの誰だって──いや、垂直思考の人には、働き者が一番動いたとか言いがちだが、この問題を整理すると、『船のどの部分』と言っている。


 人間を部分とは言わない。つまりこの答えは──部品だ。


 「答えは。スクリューの先端の部分だ!」


 『んなっ! せ、正解! ですがですが、最後の問題は、今までの問題とは違いますよ。では最後の問題! あるところに、とても足が速い男がいました。男は言いました。ベッドから10メートル離れた場所に電気スタンドがあるけれど、僕はベッドからスタンドの電気を消して、部屋が暗くならいうちに、ベッドに戻って来ることができるんだ。そんなことが可能なのでしょうか?』


 うん、これも簡単だ。灰玄に感謝だな。


 この問題のキーポイントは、寝るのは誰だって夜だと思い込んでいる所にある。


 つまりこの男が寝た時間は……。


 「答えは、真昼間の明るい時間だったからだ!」


 『クッ! 正解です……貴方、見かけによらず、中々賢いですね』


 見かけによらずとか、一言多いんだよ!

 僕のことをバカだと思ってたのか?


 『ではでは、約束通り見事3問連続でクイズに正解した貴方たちは、一気に地下10階層の最後の大ボスの前まで行くことができます。ですが、用心をこのゲーム。負けて死ねば、現実世界でも──』


 「死ぬんだろ?」


 『うぐッ! か、勘が鋭いですね。まさにその通りです』


 つーか、それぐらい基本じゃないか? だって刺客なんだし。

 僕たちのことを殺しにきてるんだから。


 『ではでは、地下10階層の最後の大ボスの前までレッツゴー!』


 言うなり──目の前の風景が変わり、僕たちは落とし穴に落とされた。


 痛くはなかったが、眼前を見遣ると、巨大な真っ黒な霧状に包まれた場所がある。


 この真っ黒な霧状の中に、大ボスが控えてるのか。


 よっしゃ、じゃあさっさと倒して、外の世界に出るとしますか。

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