第120話 鬼畜ダンジョン中ボス、恋慕の魔女『ラブ・ウィッチ』


 *3


 「キヒヒヒヒ! あたしゃ良い男に目がないのさ! 名前を教えな」


 「鏡侍郎だ」


 「キヒヒヒヒ! キョーシローか。良い名前じゃないか」


 鏡侍郎の上をブンブンと飛び回る魔女。

 しかし、能力とは言えよくできたゲームだな。


 本当にアトラクションにしたら、いかんいかん、また妙なことを、今は取り敢えず、また何かギミックがあるかもしれないから、録画をしておこう。


 でも5分ぐらい録画をしても、鏡侍郎の上を飛び回るだけで、攻撃してこない。


 何かの設定ミスか?

 それとも、攻撃回避から攻撃してくる系の敵かな?


 多分後者だろうな。


 「おーい鏡侍郎! 試しにそいつ一発殴ってみてくれ!」


 「いや、スピードは俺の方が上だが、高さがあって、射程圏外だ。これじゃあ攻撃しても届かねえ」


 「「困ったねえ」」


 ん? リコもいたのか。


 「なあリコ、俺よりも早く空中移動できるか?」


 「当たり前だろ! 鏡佑よりも俺の方がバリガチ速いぜ!」


 「だったらさあ、あの魔女に攻撃してみてくんない?」


 「あれは鏡侍郎の獲物だろ?」


 「いや違くて、試しにだよ。試しに」


 僕の勘が正しければ、この魔女は特定の条件でしかダメージを与えられない。


 そして、自分から言っていたあの言葉──良い男が大好き。


 つまり、鏡侍郎を今ターゲッティングしているなら、鏡侍郎の攻撃だけダメージが入る可能性が高い。


 要は、あの魔女は、この場にいる誰かをターゲッティングして、ターゲッティングしたものが攻撃してきたら、逆ギレして攻撃してくるパターンだと思う。


 だから、鏡侍郎の上をブンブン飛び回り攻撃してこないのだ。


 さらに言うなら、ターゲッティングしていないものが攻撃した場合、一度だけ反撃はしてくるが、また攻撃はしてこない。


 もしこの仮説が正しければ、僕の作戦で鏡侍郎が勝てる。


 「んじゃいっちょブチかましてやろうか。バリガチにな! 『波動幻歩はどうげんほ』からの〜『波動爪牙はどうそうが!』


 空中をブンブン回る魔女に、弾丸のような初速で飛び刃のような拳打が魔女を攻撃する。


 「グアア! あ〜た〜し〜の〜邪魔を〜するな!! 『フル・エア』!!」


 「うお! なんだ? 真空波みたいなもんが!!」


 流石リコ、防御だけでダメージは無しか。


 真空波みたいなものか──『フル・エア』、名前からして、この魔女の属性は風か。制作者のピース能力者は解りやすいタイプの人間かもな。


 とまあ、そんなこんなで第2波は? 


 ────無しか。


 やっぱりだ、僕とリコにはターゲッティング無し。


 きっと、最初の時点で、誰がターゲッティングされるかランダムに決まるのだろう。そして、その決まった相手が鏡侍郎ってわけか。


 だが、リコの攻撃を受けて、一瞬だが落下した。


 まあこの場合、この戦法を何度してもダメージは入らないと思うが──と言うかダメージの概念が解らん。


 せめて、HPゲージでもあればな。しかし、案ずるなかれだ。あのリコの攻撃で一瞬だが地面に落下したならば、鏡侍郎の射程圏内に入る。


 そうすれば、あの中ボスの魔女を一発で倒せるであろう鏡侍郎のラッシュでトドメだ!


 問題は同じ攻撃を2度食らってくれるかだな、まあその辺は中ボスなんだし余裕だろ。


 「リコ! 今の技、もう一度頼む!」


 「別に良いけどよ。なんか手応えなかったんだよ──っな!」


 言って、もう1度、魔女に同じ攻撃を仕掛けるリコだった──が、あの速度を避けられた。


 「邪魔だ〜『フル・エア』!」


 先ほどと同じ風の魔法か。


 参ったな、まさか中ボス程度と侮っていたが、2回目は許されなかったようだ。


 なら、やることはたった1つだ! 連携技!


 「鏡侍郎! 聞いてるか!?」


 「ああ。なんだよ?」


 「今から鏡侍郎の前に、その魔女を落とすから、渾身のラッシュは叩き込めるか!?」


 「当たり前だ! クソ兄貴!」


 クソ兄貴は余計なんだけど……まあいっか。


 僕はもう1度、録画したリコの攻撃を動画で見直した。


 うん、やっぱり。

 攻撃モーションに入る時に露の間だけど、魔法を繰り出す溜めがある。


 これなら────


 「おーいリコ! 悪い! もう1度だけ、あの魔女に攻撃してくれ!」


 「なんか策でもあるのか?」


 「ああ。試したい策がある! 大丈夫か!?」


 「解った! バリガチOKだ!」


 よし! こいつが決まれば!


 「それじゃあバリガチ行くぜ!」


 まずは、リコが攻撃して避けられる──そして魔法を繰り出す時に溜めが入る。この一瞬の溜めの時だけ動きが止まる。そこを攻めれば──行ける!


 「チキショー! またバリガチ避けられた! なんちゅー速さだ!」 


 ゲームのキャラと言えどもリコの初速を避けるのは、相当の能力者だろう、だがこっちにも秘策はある。


 「邪魔を〜するな〜。フル──」


 この瞬間だ!!


 「食らいやがれ! 『波動脚煌はどうきゃっこう』からの『波動爪牙』!」


 「ゲボハ!」


 そして頼むぞ鏡侍郎!


 「待ちくたびれたぜクソバアア! 来い! 【グランド・バーサーカー】! 吹っ飛びな! 『サウザンド・インパクト』!」


 目の前で鏡侍郎の『サウザンド・インパクト』の超絶殴打ラッシュを食らったんだ。あれじゃあオーバーキルだな。



 「ぎゃあああああああああ!!」 


 やはり僕の思った通りオーバーキルだったようだ。

 魔女は断末魔をあげると黒い霧状になり消えた。


 つまり倒したのだ。


 うっし! これが連携技ってやつだ!


 「やるじゃねえか。俺よりもバリガチ策士かもな〜」


 「やれやれ、全く肩が凝る野郎だったぜ。だが、クソ兄貴。今回は助けられた。礼を言っとく」


 いや、それよりも、褒められるのは嬉しいけども、君たち本当にゲームやってきてないんだね……。


 『地下5階層にて恋慕の魔女、ラブ・ウィッチを撃破。地下6階層の階段が出現します』


 アナウンスとともに、僕らはそのまま、地下6階層に向かった。

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