第116話 順調な時ほど、いきなり嵐はやってくる


 *3


 「おーい! リコー! あとどれぐらいで、オーストラリアに着くんだ?」


 「そうだな。あと1時間ちょいだな。しっかし敵さんはバリガチビビってんのかね? 台湾でもフィリピンでも誰も襲ってこなかったぞ」


 「何にもないなら、それで良いじゃねーか。かかなくてもいい、汗をかく必要がないんだからな」


 そう、上海を出発してすぐに現れた、あのアホなジェイトの刺客以来、航路は順調に進んでいたのだ。

 恐ろしいぐらい順調に。


 そして、嵐がやってきた!


 また耳を聾するほどのサイレンを鳴らし、例のジェットボートがボイススピーカーを大音量にして、やってきた。


 「おいバカコケ野郎共! 約束通り、ぶち殺しにきたぜ!」


 「懲りねえ野郎共だぜ! お前ら三人組の相手なんかしてらんねーんだよ!」


 鏡侍郎の言葉になぜか憤慨するサース兄弟と言われていた、超絶アホな奴が大声で叫んだ。


 「バカコケが! 俺たちは三人組じゃねー! クリケットだ!」


 「いや、それを言うならカルテットだぞ。サース兄弟」


 「……そうだカルテットだ! バカコケが! 今日は4人揃った4兄弟の恐ろしさを見せてやる!」


 僕がよく見ると、大中小に極小が一人。やはり団子みたいだ。


 それにサース兄弟と言われてるやつは、一番大きいが、脳みそは逆の極小らしい。

 可哀想に。


 「なんだ? また天文学的に知能指数が低いバカか?」


 あっ……今度は目の前で、本人にトドメ刺しちゃったよ。


 「おい! 何がバカだコラ! マジでオカカに来たぜ! 俺様は気が短けーんだ! 10数えるうちに、俺様達に殺されるか、それとも大人しくフルメトンを渡すか選びやがれ! 10!」


 「いや、それを言うならトサカに来ただぞ。サース兄弟」


 「……マジでトサカに来たぜ! 9!」



 「なあ。おいどうする? 相手の能力が判らないから、ここは三人で力を合わせるか?」


 「いや。あんなバカは。俺一人で充分だ」


 「な〜にカッコつけてんだよ! 飛行機じゃ俺がいなかったら、お前らバリガチあの世行きだったんだぜ?」



 「5! …………」


 「5の次は4だぞ。サース兄弟」


 「……4!」


 「おい! テメーは数も数えられねーバカみてえだな。俺が相手になってやる!」


 ちょっと! 鏡侍郎! 火に油注いでどうするんだ?


 バカな人にバカっていうのが、どれほど危険か──


 「こんの野郎! 俺様はバカって言われるのが大嫌いなんだよ! このバカコケが! 誰にも俺様をバカなんて呼ばせねー! 耳かっぽじってよく聞けや! 俺様にバカって言ったバカコケ野郎共は、今じゃ全員仲良く、坂の下で寝てんだよ!」


 「いや、それをいうなら墓の下だぞサース兄弟」


 「……そうだ、墓の下で全員仲良く寝てんだよ! つまり俺様をバカにした奴は全員ぶっ殺されんだよ! つまり、ジェイト様のとこには行けねーってこった! テメーらはこの海の下で、3人仲良くゲームボーイなんだよ!」


 「いや、それを言うならゲームオーバーだ。サース兄弟」


 「そうだ、ゲームオーバーだ! もうお喋りは終わりだ! このバカコケ野郎共を全員ぶっ殺すぞ! 兄弟達! イース兄弟準備は良いか?」


 「大丈夫だよ。ノース兄弟は?」


 「よろしいです。ウェース兄弟は?」


 「そうですね。よろしいかと。ではこれから私たちの恐ろしさをお見せしましょうか。兄弟の皆さん」


 「「「おう!」」」


 「そんじゃ、全員合わせて! このバカコケ共をぶち殺す! いくぜテメーら!」


 「「「「四位一体の力! 【インフェルノ・カルテット】!」」」」


 その言葉に呼応して、晴天だった空は暗澹の如く漆黒に染まり黒い雷が雷鳴とともに暴れまわる。


 さらに僕らのクルーザーの周りを取り囲み脱出できない大嵐の壁に包まれた。


 間髪入れずに、嵐の中から巨大な氷の刃が絶えず出現し、少しでも触れれば嵐と氷柱で切り刻まれる中、炎獄が渦巻いている。


 これは──確かに地獄だな。


 「おい、どうする? ああいう単純な力技なら、俺一人でも充分相手にできるぜ。まあ肩は凝るがな」


 「はあ!? そうやって手柄を立てて、バリガチ良い気になりたいんじゃねーのか?」


 「おいおい喧嘩してる場合じゃないだろ!」


 その時、僕のジャケットがモゾモゾと動いたかと思ったら、ビビが飛び出してきた。


 「あれ? あの時の猫じゃねーか? なんでこんな危険な場所に、バリガチいやがるんだ?」


 「俺はずっと退屈してたビビ。ちょっと暴れたい気分だビビ! 【ボルケーノ・クイーン】!」


 「んな!? 猫が、喋りやがった!」


 「鏡侍郎、これには深い訳があって、後でちゃんと説明する」


 「それは解ったが、ただの猫が、こんな地獄みたいな場所にいたら一瞬で──」


 鏡侍郎の言葉を遮るかのように、ビビは炎炎と燃え盛る劫火の大虎に変貌した。


 流石に、その姿を見た、鏡侍郎とリコは、驚倒して声も出せなかった。


 「ふう。やっぱり元の姿に戻ると、体が楽だビビ! それじゃあ、鈍った体の準備運動をしてくるビビ!」


 なんとも剽げた口調で、ビビは、あの黒い雷が暴れ、嵐が渦巻き氷柱が絶えず嵐の中から、高速で出入りを繰り返し、その中枢では炎獄が天まで逆巻く地獄の中に、飛び込んで行った。

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