第115話 海は広いな、良い思い出も無いな


 *2


 なんとか飛行機から脱出し、海に落ちたが、遠くに灯りが見えたので、灯りの方へ向かうと、そこは世界でも有名な観光スポットの上海だった。


 「おい。このまま空港をまた探すのか?」


 鏡侍郎の質問にかぶりを振るリコ。

 どうやら、違う提案があるみたいだ。


 「空路はバリガチ危険だ。ここは臥龍家のクルーザーで、海路からウユニ塩湖を目指す」


 ええ……。また海かよ。


 海には良い思い出が──てか、今、臥龍家のクルーザーって言ったのか?

 どんだけ金持ちなんだ? 臥龍家は……。


 「俺はクルーザーがある場所まで、言ってくるから、お前らは腹ごしらえでもしとけ、いいか? バリガチ面倒なことは起こすなよ!」


 言って、リコはどこかに消えた。


 しかし上海か。もっと時間に余裕がある時に来たかったな。


 言葉は片言だけど通じるみたいだ、だけど──お金の換金所とか解らないから、悟飯を食べるって言ってもねえ。


 「おーい! お前ら! クルーザーの準備が出来たぜ!」


 早くね? まだ30分ぐらいだよ?


 でもまあ、早いに越したことはない。

 そして、なぜか上海ドルも持っていたリコが適当に屋台を見つけ、中華料理を食べたが、安いのに絶品だった。


 やっぱり本場は違いますねえ。


 「うっし。腹ごしらえも終わったところで、バリガチ出航だ」


 「出航って言っても港は?」


 僕が訊くと、リコは溜息をついた。


 「あのなあ、ここは上海だぜ? 港だったら犬も歩けばバリガチ棒に当たるってもんなんだよ」


 「どうでもいいが、テメーら。もう飯は食ったんだ、さっさと行くぞ」


 鏡侍郎に促されて、僕らは早々にクルーザーがある港まで着いた。


 しかし、海に、クルーザーか……例の沖縄珍道中を思い出すな。


 もう海は懲り懲りだと思っていたが、まさかのここにきて、またクルーザーですか。


 まあ、あの時と違って、今回は鏡侍郎もリコもいるし、僕もかなり強くなってる。

 もっと言えば、僕のジャケットのポケットの中に、得体の知れない猫も1匹いるし、コイツは巨大な燃える大虎になる。


 戦力的には問題ない。

 だが、僕は海に縁がない、また妙な事件、というかジェイトの刺客が来ないように、祈るばかりだ。


 そして、クルーザーは出発。


 現在夜の11時。


 燃料の補給もあるから、まずは、上海から台湾、台湾からフィリピン、フィリピンからオーストラリア、オーストラリアからアルゼンチンに向かうのだそうだ。


 しかし、臥龍家の人間はみんな船舶運転免許を持っているのか?


 あの時は、臥龍が自慢げに言っていたが。


 そしてクルーザは、真っ暗な夜の海を駆け抜けた。


 僕は、ボーッと暗い闇が解けたような海を眺めていた。


 すると、突然──耳を聾するほどの、けたたましいサイレンとともに、大音量のスピーカーから、船を止めるようにと、アホ丸出しの声が聞こえてきた。


 「おい! そこのバカコケども! さっさと船を止めやがれ! テメーらはジェイト様にとって邪魔な存在なんだよ! この俺様がギタギタにしてやる!」


 ジェイトの刺客か、こんな海のど真ん中で──やっぱり海に縁がないんだな。僕って。


 そして、追いかけてくる、小型ボートをクルーザーの横につけて、さっきのアホ丸出しの声に主が上がり込んできた。


 それと、他に2名いたが──コイツらの仲間だろ。


 「俺たちはルーバ4兄弟! 4人揃っての連携技でお前らをギタギタにしてやる!」


 ご丁寧に訊いてもいないのに、自分の素性をベラベラ喋るこの男は3人の中で一番背が高い。

 三人並んで大中小。なんだか団子みたいだ。それに見るところ、日本人ではないみたいだ、欧米人か?


 それよりも4人兄弟って言ってなかったか?


 「おい! しょぼくれた黄色い食パン面のへなちょこ野郎! 俺様たち4人兄弟が今すぐお前らをぶっ殺してやる!」


 「いや、今日は無理だ。兄弟が全員揃ってないから能力は使えないぞサース兄弟」


 一番冷静そうな、大中小の中ぐらいの人が言った。


 「それなら明日ぶっ殺してやる! バカコケ野郎共が!」


 「いや、明日は俺らの誕生日会があるから無理だぞ。サース兄弟」


 「……明後日は何か用事があったか? ノース兄弟」


 「いや、明後日は何もないぞ。サース兄弟」


 「なら、明後日ぶっ殺してやる! 明後日の……明後日は何曜日だ? ノース兄弟」


 「明後日は月曜日だぞ。サース兄弟」


 「それじゃあ、明後日の月曜日に、お前ら全員ぶっ殺してやるからな! このバカコケが! それまで、このだだっ広い海でロマンスでもしてろ!」


 「いや、それを言うならバカンスだぞ。サース兄弟」


 「……そうだ! バカンスでもしてろ! 逃げようなんて思うなよ! もし逃げたら挙げ句の果てまで追いかけてやるからな!」


 「いや、それを言うなら地獄の果てだぞ。サース兄弟」


 「……引き上げんぞゴラァ! こんな海しかねー場所なんざクッソ面白くもねー! いいか? 明後日の日曜日だからな!? 覚えてろよ!」


 「いや、明後日は月曜日だぞ。サース兄弟」


 「……もう一回だけ言ってやる! お前ら月曜日に地獄を味あわせやるからな! このバカコケが!」


 「いや、それを言うなら味わわせるだぞ。サース兄弟」


 「……とにかく逃げんじゃねーぞ! テメーら全員、首を拐って待ってろ!」


 「いや、それを言うなら首を洗ってだぞ。サース兄弟」


 「……そうだ! 首を洗って待ってろ! このヒヨッコの腰抜けの腑抜けのバカコケ野郎共が! 行くぞ兄弟達!」


 大声のアホの人は、そのまま兄弟を連れてジェットボートで夜の闇に消えて行ったのだった。


 「おいクソ兄貴。なんなんだ? あの天文学的に知能が低い野郎は」


 ああ……鏡侍郎のやつ、トドメ刺しちゃったよ。


 でもあのアホの人が居る前で言わなかくてよかった。


 「うーん。なんでも明後日ぶっ殺しにくるって言ってるけど、明後日だったら、順調に行ったら、どこまで行けるの? リコ」


 「そうだな……オーストラリアのシドニーだな」


 オーストラリアか、まあ、あのアホの人からは逃げるとして(2日も猶予があるから余裕で逃げられるでしょ)オーストリアに待ち伏せの刺客がいないかどうかだな。


 それに燃料を補給する場所にも、刺客がいるかも知れない。


 ああああ! もう面倒だ!


 ジェイトがウユニ塩湖まで一瞬で行ける『ロックス』を独り占めしなければ、今頃全員でウユニ塩湖まで行って、ジェイトを倒してるのに。


 まあとりあえず、最初の燃料補給の台湾まで行きますか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る