第113話 YESの梯子、【グッド・ガイ】


 *6


 3人分のパスポートよしっと!


 今、僕たちは羽田空港にいる。

 目指すは、ジェイトがいるウユニ塩湖がある側のラパス空港まで向かい、着いたらバスでの移動になる。


 僕こと九条鏡佑と、弟の鏡侍郎、臥龍リンの弟の臥龍リコの三人である。


 「それじゃあ行くか!」


 「行くビビ!」


 え?


 「おいビビ! 何勝手について──お前まさか……」


 「そうだビビ! あの半ピエロ野郎とホラキをぶち殺すビビ!」


 猫の姿で、ぶち殺すって言われてもなぁ……。


 「お〜い鏡佑! 何やってんだ? バリガチ置いてくぞ!」


 うーむ、どうしたものか、猫の場合はペット扱いになるし。


 「大丈夫だビビ! ビビには秘策があるあるビビよ」


 そう言って、見る見る小さくなり、僕の薄手のジャケットのポケットに入ってしまった。


 どこまでも、ビックリ動物である。


 そしてポケットの中から小さく声がする。


 「ビビはナノマシン群体だから、どんな姿にもなれるビビ」


 ……益々わからん!



 そうこうしている内に、僕らはラパス空港行きの飛行機に乗ると、早速、キャビンアテンダントさんに声をかけられた。


 「お飲み物は、いかがされますか?」


 「じゃあコーラで。お前たちもコーラでいいか?」


 「ああ、構わねえぜ」


 「俺もバリガチOKよん」


 「氷は入れますか?」


 「じゃあお願いします。お前たちは」


 「ああ、入れといてくれ」


 「俺もねー」


 「カッターレモンは添えますか?」


 「え? じゃあお願いします。お前たちは──」


 「さっきからしつけーんだよ! YESだYES! もう訊くんじゃねえぞ!」


 「すぐにプッツンする奴はモテねーぜ! 俺もレモン頼むは、そんで、あとはお姉さんに任せるからよ。頼むぜ」


 「かしこまりました」



 ────────────



 ッ! 慣れないせいか突然目が覚めたが──そういえば、ラパス空港まで何時間だ?


 「すいません、キャビンアテンダントさーん!」


 ん? 返事がない、僕は周りを見渡すと──乗客の全員が俯いている。


 「チッ! コーラに混ぜた睡眠薬はまだ効いてるはずなのに! だがオメーはアタシの【グッド・ガイ】のYESの梯子で、アタシに攻撃することは出来ねーんだよ!」


 しまった。こいつジェイトが送りつけてきた刺客だ!


 鏡侍郎にリコはまだグッスリ寝てるし──乗客の人を巻き込んで戦うわけには──


 「オメー! 乗客のことを気にしてたろ? だが残念でした。乗客はもう全員死んでんだよ! ついでにパイロットも死んでる。今は、自動操縦でイタリアに向かってる最中だ。アタシが大好きなキャンティ・ワインを本場で飲む為にな」


 「ぜ、全員。お前、ジェイトの仲間だろ!」


 「仲間? アタシはただジェイトに金で雇われた殺し屋さね」


 金で雇われただと? じゃあこの先、ジェイトの仲間以外に金で雇われた傭兵も相手にしないといけないのか。


 とにかくコイツを殺すまでも、2度とは向かえない様に痛めつけて、僕たち三人は、早く飛行機から抜け出さないと。


 「くらえ! 『波動爪牙はどうそうが』!」


 ──ッ!


 「グハッ!!」


 なんだ? 奴に当たった瞬間に、僕にダメージが……。


 「だから言っただろ? アタシに攻撃することは出来ねーんだよ!」


 「んだよバリガチうるせーな……」


 「おいテメーら。人が寝てるのに邪魔すんじゃねー」


 鏡侍郎とリコが起きた。


 だが形勢逆転になったわけじゃない、このカラクリをなんとかしないと。


 「おい鏡佑なにバリガチ吐血してんだ?」


 「今、目の前にいるキャビンアテンダントは、ジェイトに金で雇われた刺客だ!」


 「ほう、なら話が早い。俺は女だろうと敵には容赦しねーからな! 来い! 【グランド・バーサーカー】! 吹っ飛びな! 『サウザンド・インパクト』!」


 「────ッ! グハアアアアア! 確かに攻撃は当たったはず」


 「鏡侍郎! 理由は解らないが、コイツに攻撃するのはまずい! 攻撃が全部自分に跳ね返ってくるんだ!」


 「そ、そういう大事なことは、先に言いやがれクソ兄貴!」


 僕と鏡侍郎が狼狽する中で、クスクス笑うやつが1人いた。リコである。


 「昔だが、暇な時に修行サボってコールド・リーディングの本を読んだ甲斐があったもんだぜ」


 リコは何を言ってるんだ?


 「コイツが俺らに接触してきたのは、コーラの時だ。その時にYESの梯子を掛けられたんだよ」


 そう言うと、リコは迅速でキャビンアテンダントが、飲み物や食べ物を置いおく休憩室まで行き1本のナイフを取り出した。


 「ふん、そんなんで一体どうしようって言うんだい?」


 「こうするんだよ!」


 リコは言うなり、キャビンアテンダントの手首を掴みながら、自分の手首を切った。


 「ぎゃああああああ!!」


 キャビンアテンダントの悲鳴だった。

 見ると、リコが自分の体に傷をつけた場所に、キャビンアテンダントの手首から血が流れている。


 「反転。考えてみればチープな手品だ」


 「ご、ごのお童貞のクソガキのチンボコ野郎が! いつから気がついた!?」


 「お前が妙に訊きまくってきたから、なんか怪しいと思って、ずっと寝てるふりをしてたんだよ」


 え? じゃあ僕と鏡侍郎は殴られ損じゃね?


 「タネもバレたとこで、バリガチ食らいな! 『波動連撃はどうれんげき』!」


 リコはまたもや、キャビンアテンダントの手首を掴むと、自分に数百発の殴打をした。


 鏡侍郎ほどのパワーはないが、これは確実に、骨が粉々になる威力である。


 「ぎゃああああああああああああああああ!!!!」


 断末魔を上げて、敵は動かなくなった。

 死んではいないが、しばらく。半年ぐらい? もっと?


 多分それぐらい動けないだろう


 とりあえず、このままイタリアまで行ったら、そこでまたジェイトの刺客がいるかもしれない。とにかく、飛行機から飛び降りて、ギリギリのところで、『波動脚煌』を使って、空中を思いっきり蹴るんだ。


 パラシュートよりも、よっぽど安全だ。わかったか?


 言われるがまま、僕と鏡侍郎とリコは飛行機から飛び降りて脱出した。


 いきなり、こんなトリッキーな奴が相手だったなんて──リコがいなかったら死んでたな。



 第1章・了  デッドデイまで残り、42日と6時間。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る