第112話 麒麟児vs風雲児


 *5


 真昼間なのに、人っ子一人いない。

 あたりまである、ここは民家の中、それも、ゴルフ場が軽くスッポリと入ってしまうほどの、面積を誇る、大屋敷に僕がいる。


 そこに居合わすのは、臥龍リンに妹のコチョウ、そしてポンコツかしまし三人娘の心絵アグニ、鰐ヶ淵アミリ、御魅神アザミである。


 そして、僕の眼前に佇立する怒れる二人。


 もう僕の中では、二人のアダ名は決まっていた。


 プッツンコンビだ。


 そのプッツンコンビがプッツンして睨み合っている。


 「おいテンパー野郎! もし、俺をこの場から少しでも後ろに下がらせたら、テメーのことを認めてやるよ」


 「んな〜にがテンパー野郎だ! バリガチ舐めたクソガキだ! いいじゃねーか。バリガチ泣かせてやんよ!」


 お互いに刃物のような鋭い眼光で威嚇し合う。


 両者の睥睨が火花を散らし──リコがまず動いた──瞬間ッ!

 鏡侍郎の声も響いた。


 「来い! 【グランド・バーサーカー】!」


 まるで、悪魔じみた姿形は、化け物を束ねる化け物のようだ。


 と、同時に、二人のオーラーが輝きだす。


 鏡侍郎の『ゲイン』が暴走しているように、渦巻くと、リコの思念気も負けず劣らず逆巻いて暴走している。


 お互いの力は五分五分といったところ、あとはどれだでの戦闘経験で決まる。


 動いたのはリコが先だったが、攻撃は鏡侍郎の方が先だった。


 「吹っ飛びな! 『サウザンド・インパクト』! ウッぜええええええ!!」


 殺意を秘めた殴打が、真夏の照り付ける太陽に陽炎のように見えた時だった。


  僕でも目で追えない速さの殴打のラッシュが、リコの総身を捕えていた。


 「やるじゃねえか。『波動幻歩』!」


 すかさず、空に逃げるリコ。


 だが、その判断は正しかった。


 現出型には射程距離があり、その攻撃の射程距離が短ければ短いほど、相手に与えるダメージが大きい。


 逆を言えば、距離があればあるほど、その威力は落ちていく。


 鏡侍郎のグランド・バーサーカーの攻撃の威力の射程距離は10メートル。

 それを越えれば、威力どころか、攻撃すら届かない。


 それを知ってか知らずか、鏡侍郎が佇立している場所から、空中15メートルの場所にリコは浮いている。


 野生の感──否、これが風雲児と呼ばれた所以である。


 解ってしまうのだ、相手の弱点を無意識に。


 「今度はこっちだぜクソガキ! 『波動脚煌』からの〜『呪風衝じゅふうしょう』だ!」


 破壊的な思念気の奔流が、『波動脚煌』によって嵩上げされたスピードは想像を絶するものであった。

 空を蹴り上げ大地に向かい右の掌を開くと、大気を圧縮させ屈折させる。さらに待つのは空圧の洗礼であった。


 超高圧に凝縮されていた空気を烈風の衝撃として鏡侍郎に叩きつける技──『呪風衝』


 ただの陰陽師が同じ技を繰り出しても、ここまでの威力は出ない。


 せいぜいが、大地を軽く穿つ程度、しかし、リコが同じ技を繰り出すと、大地に大穴のクレーターが出来てしまう。


 しかし、自分に近づいてくるなら好都合、そう鏡侍郎は踏んだ。


 射程が短くなれば、鏡侍郎のグランド・バーサーカーの独壇場である。


 「ペシャンコになりな! クソガキ!」


 「来やがれ! 吹っ飛びな! 『サウザンド・インパクト』! ウッぜええええええ!!」


 幾千の殴打が空圧を殴り続ける。

 だが、重力に比例するように、風の圧がおさまる気配はない。


 そして、刹那のうちに、リコが地面を穿つかのように、掌を地面に叩きつけると────二人の間には土煙が立ち濛々としている。


 果たして、決着は?


 「あっ! 鏡侍郎!」


 僕の言葉が先に出てしまった。


 鏡侍郎は数センチだが、後方に下がっている、というか力で押されたという方が正しい。


 「チッ。まさか初めて力負けするとはな」


 しかし、リコにも顔面に擦り傷がある。どんな相手でも、傷ひとつ負わなかった、木の流派の風雲児に、傷を負わせたのは、その場にいたコチョウを絶句させた。


 なぜならば、もし真面目に修行をしていれば、当の昔に、自分なんかよりも、高みにいたであろう、臥龍リコのポテンシャルを、一番理解していたからだ。


 「両者そこまで!」


 コチョウの声だった。


 「痛み分けだな。この勝負、私が預かる。リコ、一発殴れられたな?」


 「ああ!? あんなんバリガチ痛くもねーし。それよりも、あの野郎も少し移動してんじゃねーか! 俺の勝ち──」


 「クラァ! 痛み分けと言っただろ」


 「ちぇ、解ったよ」


 リコは気に入らない表情を浮かべているが、鏡侍郎の力は認めたようだ。


 しかし、鏡侍郎には1つの疑問がある。自分だけにしか見えていなかった、グランド・バーサーカーが皆にも見えていたのか、否か。


 「おい! 勝負のことよりも! お前ら! コイツが見えているのか!?」


 鏡侍郎が大声で質問すると、臥龍リン以外、全員が頷いた。

 当然僕も。


 「まさか見えるやつが、俺以外にもいるなんてな……」


 コチョウは勝負も終わり、晴れて味方になる僕と鏡侍郎の説明をした。


 「ふ〜ん、なるほどね。そっちのヒョロっちいのが、九条鏡佑で、無駄にデカいの九条鏡侍郎か。そんじゃよろしくな!」


 リコが握手を求めてきたので、僕は握手したが、鏡侍郎は無視して、茶でも出せと言いながら、屋敷の方に歩いて行ってしまった。


 「まあ、次は俺がバリガチ勝つけどな。皆がいるから本気が出せなかったんだよ」


 飄々と語るリコ。

 うーむ、これを強がりと取るべきか、本気と取るべきか。


 鏡侍郎が屋敷内に向かう途中、鏡侍郎は感じていた。


 あのリコとか言うやつ、かなり強いな──と。


 「やれやれ。全く肩が凝る野郎だぜ」


 鏡侍郎は小さくそう呟くのであった。

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