第110話 マザコンとブラコンの狭間で


 *3


 二時間ぐらい待っただろうか──臥龍が店に来る気配がない。


 この五月蝿い3人組がどうやら、自分のお師匠様のコチョウさんの前では、かなり大人しい。


 うん、いつもコチョウさんがいればなあ……。


 痺れを切らした鏡侍郎が僕に問い詰めてきた。


 「おい! 一体いつになったら、終わるんだ? 時間が無いのはクソ兄貴も知ってるんだろ?」


 確かに。こんな悠長に待っていられるほど、僕と鏡侍郎には時間がない。どうしたのか──と、考えていると、臥龍がひょっこり店に顔を出した。


 あっ! 臥龍だ!


 「おい! テメーが臥龍か? さっさとフルメトンを出しやがれ!」


 いきなり臥龍の胸ぐらを掴み、脅す鏡侍郎。


 だから。鏡侍郎く〜ん! な〜にやってんの!


 話がややこしくなるから、暴力はいけません!


 「な、なんだ!? 話せ! このアベレージな不良が!」


 あ、何にでもアベレージって付けるんだろ。身内以外には……。


 それは、そうと、ムルティなる、ローザたちが使っている凄い携帯電話の出番が来たぞ。


 なんでも、ガルズでは当たり前に使われている携帯電話でが、僕らの地球では使われていないようだ。それをタルマが改良して作ったらしい。


 僕は、ことの真相を伝えるべく、事情を説明し、ムルティを使ってみた。すると、ポケットサイズのムルティの画面から、ホログラフィックでローザが映り、真相を事細かく説明してくれた。


 曰く、最重要ピース。アニマのフルメトンは、臥龍の家にあること。

 その見た目は、オロメトンに非常に酷似していること。


 なんでも、使用すると形状が変わるとかなんんとか。


 そして、臥龍がフルメトンを持っていると、ジェイトの刺客から狙われるから、自分たちに寄せということ──らしい。


 しかし、臥龍が首を縦に振った。


 どうやら、そのフルメトンは、例の怪しい古物商から、なんと1千万で購入した、大事なお守り刀だかららしい。


 いやはや、なんとも臥龍らしい。


 「おいオッサン! こっちはテメーの道楽に付き合ってるほど時間がねーんだ! 大事な母親の命がかかってんだよ!」


 「おい童!! 兄様に向かってオッサンとは何だ!」


 コチョウは臥龍にベッタリ寄り添っている。

 ハハ〜ん、さてはブラコンだな?


 「ああん!? ドケチなオッサンだからオッサンって言ったんだろ! さっさと、その大事な何かを渡しやがれ! 母親の命がかかってるって何度言わせるんだ!」


 「兄様! こんな礼儀知らず莫迦に渡す必要などありませんよ! おい! 心絵たち! 塩もってこい!」


 いうなり、僕らは、コチョウの命令通り、心絵たちに塩巻かれた。


 「うえ。ぺっぺっぺ! しょっぱい! てか待ってください! 僕にいい案があります! フルメトンは臥龍さんが預かって。警備にコチョウさんが24時間つくというのはどうでしょう?」


 「何? その案、最高では無いか! 中々に機転が効く若衆では無いか! 兄様と24時間〜! 兄様と24時間〜!」


 すんごいブラコンだ。鏡侍郎のマザコンに負けず劣らずだな。


 では、わたくしは、兄様の側を護衛する。心絵たち3人は外を見張っておれ!


 え? 心絵たち取られちゃうの? せっかくの戦力が……。


 僕はコチョウさんにどうしても、今は戦力が必要だから、心絵たちの力が必要だと言ったら、代わりの戦力が居ると言われ、臥龍の住む武家屋敷に招待された。


 武家屋敷と知ったのは、小声で、心絵が、臥龍家には、分家は中々出入りできないが、相当の屋敷であると教えてもらったからだ。


 それに戦力とは、臥龍の弟さんだとコチョウさんから聞いた。


 なんでも、生まれた時から、才覚があり、1000年に一度の逸材と言われているが、これがまた超問題児らしく、修行が大嫌いでいつも逃げるそうだ。


 はあ……まじで大丈夫なのか?


 でも戦力は1人でも多い方がいい。


 ここは一度、臥龍の住む武家屋敷に行くしかないな──こんなこと呑気にやってる時間なんてないのに……。

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