第109話 タバコを吸う時はマナーを──って、これ2回目だよね?
*2
さてさて、臥龍はともかくとして、心絵は仲間にしたいところだ。それに相手をしたくないが、鰐ヶ淵もだな。
僕がこれからのことを思案していると鏡侍郎が話しかけてきた。
め、珍しい。
弟の方から話しかけられたのなんて、最後は小学校5年生の時だ。
お兄ちゃん冥利に尽きるというか、なんというか……。
「おいクソ兄貴! 聞いてんのか?」
「ん? ああ聞いてるよ」
いかんいかん。つい感傷に浸っていた。
「……で、なんの話しだっけ?」
「やっぱり聞いてなかったんじゃねーか。やれやれ、全く肩が凝る野郎だぜ」
弟に野郎扱いされました。まあ、もう慣れてるけど。
「これから行く場所だが、本当に大事な用事なんだろうな? くだらなかったら俺は1人でジェイトを倒しにいくぜ? 俺たちには時間がないからな!」
「あ、本当に重要なんだよ。これがジェイトを誘き出す道具になるかもしれないんだから」
逆を言えば、ジェイトに命を狙われる道具にも、なるかもしれないんだがな。
言っているうちに、臥龍の店についた。まだ朝の9時だから鍵は空いてないよな。
僕は臥龍の店の鍵を開けると、逆に閉まった。つまり開いていたのだ。
不用心だな──さてはビビがまた漫画に影響されて妙なことでもしてるのか?
「開いてるみたいだから、中で待ってようぜ鏡侍郎。ちなみに店の中は冷房ガンガンの楽園で、お菓子も食い放題だぞ」
「興味ねえな。それに俺は煎餅派だ」
「……あっそ」
言って、中に入るなり、なんとも表現出来ない芳しい香りと、甘い香りのタバコの匂いがした。
誰かいるのかな…………ッ!!!!
一瞬、雷に打たれた衝撃を感じた。
今まで、心絵や、鰐ヶ淵や、灰玄も、みんなみんな美人さんだったが、頭ひとつ抜きん出ている。
僕の美人スカウターが故障するほどの絶世の美女が、キセルで紫煙を燻らしていた。
凛としていて、羽団扇を持っている姿は、まさに女性版の諸葛孔明のような雰囲気を出している。
それに灰玄に似てかなりの美人さんだが、灰玄とは全く違う高貴な貴族のような美しさだ。
まるで真珠のような白い肌で、今すぐにでも、シャンプーのテレビCMに出れるぐらいの艶やかで、腰まで届きそうな癖が1つも無いストレートで長い黒髪をしている。
そして、こんなにも暑いのに、汗ひとつかいていない美しい顔をした人に出会うのは、僕の人生において二度と無いだろう。
容姿が整っているとか整っていないとかいう次元の話の前に、外見だけの容姿から心の中まで美しさが溢れているみたいだ。
そして瞳は透き通って、一点の曇りもなく、きっとこの女性とすれ違う全ての人々を釘付けにし、心を捕えて虜にしてしまいそうな、そんな瞳をしていた。
早い話が超美人である。
服は着物姿で、これまた着物姿が様になっている。
眩いほどの純白の着物姿に純白の丸帯には、紅色の大きな蝶の刺繍が施されている。
純白の足袋に純白の草履が、この人の心の色を表しているようだ。
だがなぜか、丸帯の腰には鉄扇を差している……。
「おいテメー! 俺たちは未成年だぜ!? 呑気に未成年の前でタバコなんざ吸うんじゃねえ! タバコの臭いが服に移るだろうが、このタコ!」
ちょ、ちょっと鏡侍郎君!? な〜に言ってんの!!?
「おお。そうだな、悪かった」
そう言って、携帯用の灰皿に燃えている細刻みタバコの火を落とした。
鏡侍郎はその姿を見て、満足そうだ。
どうやらタバコの臭いが嫌いらしい。
「ふふ、威勢がいいな、存外に中々の若衆ではないか」
怒ってはいないようだな──良かった。
「ところで
「あに、うえ? ですか? うーん、ちなみにですけど、その兄上さんのお名前は」
「おお。そうであったな。リンだ。臥龍リン」
ど、ドヒャアアアアアア!! この綺麗な人が、あのモアイ像よりも暑苦しい顔をした臥龍の妹さんなの!?
ま、まじかよ。
その時、またもやドアを開ける来訪者が──やっと臥龍の──
「あら。アナタこんなところで何やってるの?」
心絵だった……つーか、お前がフルプレートアーマーを壊すから、毎日臥龍の店に来る羽目に──
「おっ! 鏡佑氏ではないか!? ついにボロン──」
「するわけねーだろ!」
「なんじゃなんじゃ? 騒がしい下女どもじゃな、前が見えぬぞ! 早う進まぬか!」
ん? この声どっかで──鰐ヶ淵の後ろに隠れるようにして立っていた、チビっ子の正体は、以前、倉鷹が捜査と嘯き地下アイドルのライブに連れて行かれた時に、見た、ライブをしたゴスロリチビっ子だった。
相変わらずの、クロワッサン風の金髪ドリルツインテールに全身漆黒のゴスロリファッションだ。
「なあ心絵。このチビっ子は誰なの?」
「ああ。ただのおチビさんよ」
「ワラワのことをチビと呼ぶでない! 控えよ下人が! ワラワは木の流派の陰陽師であり、権門勢家である臥龍本家の分家にあたる
その瞬間、臥龍の妹さんが無言で御魅神と名乗るチビっ子に、キセルを投げて、そのキセルがチビっ子の額に当たった。
黙れという合図なのだろう。
「あっ。コチョウお師匠様。あの自分はその、あの、すみません……」
な、なんなんだ? このチビっ子も心絵と鰐ヶ淵の仲間なのか?
じゃあ、あれだな。うん、あれだ。
ポンコツ三人娘だな。
てか、心絵をわざわざ呼ぶ手間は省けたけど、早く来い臥龍!
こんなドタバタ三人トリオをまとめられる自信なんて──ああ、お師匠様って言ってたな確か。
名前はコチョウか。
うむ、綺麗な名前だ。
いや、だから、そうじゃなくて、早くこい臥龍!
僕と鏡侍郎と母親のタイムリミットが近づいているんだ!!
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