第1章 【グッド・ガイ】

第108話 感動とは程遠い、兄弟の再会と共闘


 *1


 「つーわけで、別行動だ。お前は、お前の仲間を探してウユニ塩湖まで行きなマグソキッド! ウユニ塩湖まで行ける『ロックス』は全部ジェイトの野郎が奪っていっちまったからな」


 少し厳つく話すローザ。


 僕はてっきり『Nox・Fangノックスファング』の力を借りられると思っていたが、現実は甘くないようだ。


 しかし僕の仲間か……臥龍は戦力外だろ──心絵や鰐ヶ淵はどうだろうか? 微妙かな? あいつら任務なら動くけど、今回は完全な僕の都合だし……。


 ならば、残るは弟の鏡侍郎! いや、ないない。いやでも待てよ、鏡侍郎には現状を伝えなければいけない兄としての義務がある。


 でも言ったら多分……いや絶対に怒ると思うが。


 「なあローザ……本当に合同で共闘するんじゃなくて、別々の2チームで行動しないといけないのか?」


 「当たりめーだろ! あの何考えてるか解らねージェイトにスペイドだぞ? 絶対に、色んな罠を張ってるに決まってる。一緒に行動して、全員が行動不能になったらシャレになんねーだろ! こっちはシェルルのアネゴの能力だって奪われてるんだ! それにマグソ蛇女の自己再生能力と『ゲイン』見てーなパワーも奪われてるんだぞ!」


 そして最後に腕を組んで、フンと、鼻を鳴らすローザ。

 こりゃダメそうだ。

 一番の頼みの綱である灰玄まで力を奪われたのは痛いな。


 『思念気』を奪われたってことは、陰陽師の『精神思念法』の知識だけある、一般人と変わりない。


 錦花さんは敵対関係になっちゃったし、同時に錦花さんを敬愛してるポニーも敵に回してしまったことになる。


 うぅ……いくらチートになっても、能力には相性があるから、上手く相手の懐に一撃必殺の技をお見舞いすれば、ハイそれまでなんだけどなぁ……チート無双するにも、相手はそれなりに対策をしている。


 さらに、まさかの死んだふりで襲ってくる策士でもある。


 チート無双するイキリ君の最大の敵はジェイトみたいな、用意周到なやつなんだよね……。ご都合主義も期待できそうにないし。

 だって、そんなご都合展開、今ままであったか? ないよな?



 はあ……まあきっと、街羽駅近郊の裏路地の、危ない奴らの溜まり場にいそうだけど……正直行きたくない。


 不良が怖いのではなく、鏡侍郎に母親のことを伝えるのが怖いのだ。

 あいつ結構マザコンだし……。


 ここは一旦家に帰って作戦会議だな。44日後だから、まだ少しは猶予はあるだろう。


 なんだろう、この感覚。

 夏休み最後の3日間だけ、必死になって宿題をする中学生や高校生になったような──あっ、高校生だったよ自分。

 どうしよう、まだ宿題が──イヤイヤ、それよりよも自分の命だろ。


 「なあ灰玄──」


 「言わなくても解ってる。力は無くても知識はあるから、そっちでバックアップしてあげるわよ」


 「な、なんか悪いね。ゴタゴタに巻き込んじゃって」


 「お互い様よ。アタシもアンタを一回殺そうとしたから」


 感動的とまでは言わないが、普通の会話なのに中身が重いよ。


 「んじゃ、僕は仲間集めに一旦、家に帰るね『波動脚煌』」


 うお。前よりもジャンプ力が向上している。


 そんなこんなで、数瞬で、自分の家のベランダまで無事着地に成功っと。


 「──ッ!? 『波動烈堅』!」


 いきなりベランダの窓が割れたかと思ったら、もの凄い殴打の連撃が僕をお迎えしていた。


 「な、なんだこれ!?」


 「──ッ!! やめろ! 【グランド・バーサーカー】!」


 ん? 殴打の洗礼が無くなった。それに鏡侍郎の声もしたような──


 「おい。こんなところで何してるんだ? クソ兄貴」


 やっぱり鏡侍郎だ。それにまた少し身長が伸びたのかな?


 それとも、金髪のショートヘアを、ハードジェルでツンツンに立たせているからか? 前は少し長めのウェーブがかったパーマをかけていたが……。


 まあ、髪の話はどうでもいい。とにかくこれは千載一遇のチャンスだ。


 僕は、これまでの経緯(なんでベランダに飛んできて着地出来たのか)とジェイトに44日後に必ず死んでしまう死の宣告が、母親と鏡侍郎の身にも降りかかってしまったことを説明した。


 すると──ッ! 案の定ブチ切れてしまった。


 まず自分の知らない場所で、喧嘩を売られたことに対する、女々しいジェイトに対する怒りだ。


 鏡侍郎は、真っ直ぐな性格なので、影でこそこそ喧嘩を売られることに、女々しさを感じている。


 つまり鏡侍郎の中では、ジェイトは女々しいやつなので、気にくらないから殴らないと気が済まないらしい……。


 それと、母親の件だが、やはりマザコンである。


 これには相当ご立腹になってしまった。


 まあ、俺には関係ないと言われるよりかはマシだが、なんでそんな事になったんだと、胸ぐらを掴まれて怒られてしまった。


 僕の方がお兄ちゃんなのに……。

 しかも知らないうちに、この死の宣告を受けていたのだから、逃れようがない。


 もし自由に動けるなら、僕はタイマンでジェイトに勝つ……かは判らないが、かなり健闘していただろう。


 さて問題の鏡侍郎だが、もう頭の中はジェイトを倒すことで一杯のようだ。


 うむ、これで第一の関門は突破した。


 あとは、臥龍たちか……。


 これも厄介だ。


 ローザの話しが長くなったので、改めて今一度まとめると、なんでもオロメトンはミラーリング・ゲートの場所を特定するためのピース・アニマで、ミラーリング・ゲートを開かせる鍵は別にあるそうだ。


 それはフルメトンと呼ばれるピース・アニマで、アルシュレッガとかいうバーラーという機械の装甲に使われてるとか、なんとか。


 まあ僕も意味不明だったので、話し半分で聞いていたが。


 そして、タルマが開発したフルメトン回収用レーダーの場所が臥龍の店だったのだ。


 早い話が、誰がその最重要ピース・アニマを所持するかの相談も兼ねて、臥龍の店に行かないといけない。


 あいつの場合、すんなり渡すとは思えないが、ヘタレの臥龍が持っていたら速攻で負けて敵の手に渡るだろう。その前に臥龍は逃げると思う……。


 そんなこんなで、敵意剥き出しの、知らない奴が話しかけて来たら全員ジェイトの手先だと思って殴り倒すであろう、鏡侍郎という名の爆弾を連れて、臥龍の店に向かうことにした。

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