序章・【第二部・怨鎖のピーシーズ】

第二部・序章 麒麟児、グランド・バーサーカー

第一部までのあらすじと、これからのあらすじ



ジェイトに44日後に必ず絶命する死の宣告の技を食らい、ジェイトを倒すことを決意する九条鏡佑。


だが、この技は血の繋がったものにも技が適用される恐ろしい技であり、自分の母親と弟の鏡侍郎の2人を助けるべく、ジェイトの待つウユニ塩湖まで向かうこととなるが──鏡侍郎は自分の知らない場所で因縁をかけられたと怒りの念と奮撃の念を燃やし、自分も一緒にジェイトを倒す決意を固めるのだった。


【第二部・怨鎖えんさのピーシーズ】


♢ ♢ ♢ ♢



 


 電灯が点滅する真夜中の暗い場所に、その男はいた。


 ここは街羽市駅近郊にある、今は使われていないボーリング場。

 そんな薄暗い場所に男はいた。


 まだ15歳と言う年齢にそぐわない大人びた上下黒の高級スーツに、中はワインレッドの長袖のワイシャツを着ている。


 明かに面接に行く格好ではない。げんにその男はネクタイをしていない。


 ワイシャツのボタンは2つ開けて、その中にはブランド物のシルバチェーンのアクセサリーが怪しく光っている。


 左の腰にも、太いシルバーのウォレットチェーンをつけている。


 左腕にはどんなに背伸びをしても、学生には購入できない高級腕時計をつけていた。


 そんな高級な物をこの男が買ったのか?

 答えは否である。


 それらは、良く言えば貢ぎ物。

 悪く言えば、これで勘弁してくれと言わんばかりに、他者から貰ったものだ。


 さらに、その男は長身で190センチを超え、筋骨隆々、整った輪郭と容姿に恵まれた肉体はまさに容貌魁偉。


 外では、暴走族のバイクがずらり。

 爆音を奏でているが統一性がなく、ただの騒音と化している。


 ではこの男は暴走族のリーダーなのか?


 答えは否である。


 「鏡侍郎きょうしろう! 出てこいやあ! オラ! この人数にビビって出て来れねーのか!?」


 外のバイクの台数は200台を軽く超えている。


 他にも車が数10台。


 人数にして500人ほどは集まっている。


 男は、ゆっくりと立ち上がると、仄暗いボーリング場内を後にして、外に出た。


 けたたましい、排気音とヘッドライトの数に臆することもなく、一歩、また一歩と、暴走族達に近づいていく。


 「ブルって来ねーかと思ったぜ。ホラ、約束の1千万は用意できたんだろうな!?」


 時代遅れのアイロンパーマをかけた小太りの男が喋った。

 その男に負けず劣らずの恵まれた体躯である。

 怖いもの知らず──とはこのことを言うのだろうか……。


 小太りの男が喋りかけて話が終わった瞬間──重たい何かが、その小太りの男の顔面を砕いていた。


 「吹っ飛びな! ウッぜえええ!!」


 それはただの拳打だったが、小太りの男は殴られると3メートルは軽く吹っ飛んだ。


 それを見た外野が、今の行為を戦闘合図にし心の中で銅鑼の音が鳴り響く。


 「行くぞテメーら! 今日こそクタバリやがれ鏡侍郎!!」


 その言葉に呼応して士気が高まる。

 

 『うおおおおおおお!! 死ねや鏡侍郎おおおお!!』


 「来い! 【グランド・バーサーカー】!」


 その男の言葉に応じ、背後霊のように現出したのは、インド神話のカーリーのような姿をした、肌が黒く4本の腕を持ち後ろにも顔があり、額から第3の目がる人外であった。


 その悍ましい姿は、まさに戦闘狂の女神。


 大きな口を開けギラリとした牙を剥き出し、長い舌を伸ばし、暴れる高揚感に顔中を舌舐めずりしている。


 「吹っ飛びな! 『サウザンド・インパクト』! ウッぜえええええええええ!!!」


 その声と同時に、男が現出させた人外が音速を超える勢いで、幾千の殴打を繰り出して一瞬で暴走族達、暴走族のバイクや車を破壊し尽くした。


 無論、この人外は暴走族には見えていない。


 自分たちが一体何をされたのかすら理解する暇も与えず、男が現出させた人外の攻撃は、動くもの壊せるものが全てなくなるまで止まらなかった。


 気がつくと、数瞬で終わっていた。


 男の前には500人以上の暴走族が気絶し、バイクや車は粉々に破壊され、その男が手も出さずに、この惨劇を生み出したことを皆が不思議に思うことしかできない。


 だが1つだけ解ること。


 それは今日もこの男に、新たに東京を代表する暴走族チームが壊滅させられたことだ。


 男は鉄屑が焦げ、ガソリンの匂いが漂う中、この惨劇を目の当たりにして、小さく呟いた。


 「やれやれ。全く肩が凝る野郎共だぜ」



 男の名前は九条鏡侍郎くじょうきょうしろう

 街羽市の『グランド・バーサーカー』と呼ばれる、九条鏡佑の弟であった。

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