第107話 死闘のピリオド


 *7


 「試してみるか『呪轟天じゅごうてん』」


 言うなり、晴天だった空は雷雲が蠢き、天から無数の雷がこの漆黒のベールに落ちた──が、それら雷は、ベールに当たると、たちまち消えてしまった。


 「やはりダメか。ならば肉を切らせて骨を断つまで。『呪雷衝じゅらいしょう』」


 なんと灰玄は自らに、掌から創り出した雷を撃ち放った。と、同時に言い放つ。


 「さっきの技。もう一回やってみなさい」


 「自棄っぱちか? まあ良いだろう。『ラッシュアワー』」



 ──────────


  ────────────「捕まえた! 『波動爪牙』!」



 「ッ! 私を守れ『クロルス』!」


 一瞬の判断ミスが命取りになる場面で、シェルルは13体の人影の騎士に守られ、灰玄の『波動爪牙』から、身を守った。


 「勝算があると言ったのは嘘ではないようだな」


 「だから言ったでしょ。アンタを殺す方法が解ったって」


 「しかし、私の技が発動したまでに、若干のタイムラグがあるようだな。それでは私に勝てないぞ」


 僕には解った。


 限りなく電気信号を止めるなら、電気椅子のように限りなく体内に電気を流し込めばいい。

 灰玄にしかできない荒技だ。


 そして気がついたら100メートルほども灰玄が吹っ飛んでいたのは、あの13体の人影の騎士に攻撃されたからだ。


 その後も両者の死闘は、先ほどの繰り返しのように続いていた。

 最早、どちらかが、力尽きるのを待つだけの状態になっている。




 ────────────


 「はあはあ、良い加減に殺されなさいよ……!」


 「貴様も良い加減、諦めろ……!」


 そして、両者は同時に地面に頽れた。


 「あ、アネゴ! アネゴ大丈夫か?」


 「ふん。これぐらいで死ぬわけないだろ。それよりもミラーリング──」



 悪い予感はすぐ当たる。


 そう子供の頃からだった──その悪い予感が今、静かに忍び寄り……全てを叩き潰さんばかりの、狂気の塊のような裂帛の声とともに突如姿を表したのは、ジェイトとスペイドだった。


 「フハハハハハ! シェルル! 貴様の能力を奪ってやるぞ!」


 「おいまたジェイト! アネゴはもうボロボロで──」


 だが、ローザの前にはスペイドが立ち塞がった。


 「おっと。貴方のお相手は、私ですよ」


 「なんだあ!? テメー! どきやがれスペイド! テメーらは死んだはずだろ!」


 その言葉に耳を貸さず、ジェイトはシェルルの額に手を翳した。


 僕も応戦しようと、向かったが、時すでに遅く、シェルルの能力は奪われた。


 「【デッドデイ・フォーティーフォー】! シェルルの【ライトニング・ライン】を奪え! ついでだ。アルシュレッガの髄液と名前がわからぬと、すぐに奪えないが試してみるか。灰玄の『パワー』を奪え!」


 すると、ジェイトの『ゲイン』は、灰玄と比肩するほどのオーラを湛えている。そしてアルシュレッガの髄液と称される、ナノマシンも同時に奪ったのだ。


 ジェイトはナノマシンの力を試すため自らの片腕を切断するが、一瞬で自己再生を始める切断した腕を見て、悍ましいほどの恍惚の笑みを浮かべている。



 「うん、うん。実にいい気分だ。これが不死身の肉体か。それに物は試しとはよく言ったものだな、灰玄の『ゲイン』に近い力は実に体に馴染む。貴様らに見せてやる、これが本当の能力の使い方だ! 【ライトニング・ライン】! 『ラッシュアワー』!」


 ──────


  ──────


   ──────


 仲間のスペイドすら動きを止め、ジェイトだけの空間になっている中で、小さく呟く。


 「能力も使いようだ。クズ能力の【インスタント・ドッペルゲンガー】も役に立ったな。それと、キョースケか。こいつのピース能力とピースネームを知らぬから、すぐには盗めないが44日後が楽しみだな。【デッドデイ・フォーティーフォー】! キョースケの能力を44日後に奪え! ──さてと、次は、いや、ローザの能力は、ハズレ能力だ。ローザ自身も知っているだろうが、あの能力には大きな欠陥がある。そんなものいらん。『ムーブ』!」


 「──ッ!?」


 まただ、また脳内の電気信号を止められたのか。


 しかしジェイトの能力にシェルルの能力が加わってしまうなんて。


 「もう貴様らに用は無い! 行くぞスペイド!」


 「待て! そうはさせるかよ! 『ディバラス』」


 「バカは死ぬまでたってもと言うやつだな。『ラッシュアワー』!」



 誰も動けない中で、ジェイトは『ロックス』を使い、オロメトンを回収し、スペイドとともに閃光の中に消えた。


 「──ッ! いない……クソ! 『ロックス』で逃げやがったな、あの死に損ないが!」


 ローザは怒りながら地面を蹴っているが、なんの解決にもなっていない。


 灰玄から思念気が消えている。

 ジェイトの奴、灰玄から思念気だけ盗んだのか。あれほどまでの思念気を全て……。


 それに、シェルルの能力まで。


 「お、おい。マグソキッド……お前の影……」


 「影? 影がどうしたの?」


 「お前の両足の先の影が少し薄れてるだろ! あいつに能力を盗まれる攻撃を仕掛けられたんだよ!」


 「え? じゃ、じゃあどうやって……」


 「ジェイトを殺すしかねーな。それにその能力は血縁者にも伝播する。つまり血が繋がってるものも、44日後に死ぬってことだ」


 なんじゃそりゃあああああ!!

 弟の鏡侍郎が知ったら怒り狂うぞ!!


 その前に、僕の母親の命が。


 ジェイト。


 この手で殺さないと、母親と鏡侍郎の命が……やるしか無いのか。



 ──────


 斯くして、まだ幼き青年は誓う。

 母親と弟を守る為にジェイトを倒すと。

 だがこれはまだ序章に過ぎない。


 そして本当の戦いが、これから幕を開け九条鏡佑を待っていたのだった。



 第陸章・不還生書ふげんせいしょ・了


 第一部・陰陽の因果・完

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