第106話 因縁の決着
*6
「おい。マグソ蛇女! なんでアタイが『ブラックベール』にしたか解るか? この漆黒の帷は、深紅の帷じゃない。この空間内に誰も入れないし、外からも干渉できない。外の光は入って来ても誰も入れないベールなんだよ」
「ふ〜ん。あっそ。それで、そんなことよりも、2人まとめてかかって来てもいいわよ」
その発言にシェルルは口を開いた。
「いや。全ての責任は私にある。私が1人で相手になる」
「随分と余裕じゃない」
最早、怒張を隠さない灰玄。
口調は穏やかでも、その先にあるものは、憤怒の念しかないのであろう。
しかしだ。僕が前に見た時は、中からでも、深紅の色がはっきり見えたが、今回は見えない。マジックミラーみたいになっているのか?
これでは、どこまで半径を伸ばしたか判らない。
きっとそれこみの技なのだろう。
的にベールの半径を知られない技。
これは非常に厄介だ。
僕が考えていると、シェルルは胸に下げていた13個のドッグタグを掴み、首にかかっているチェーンを力づくで切って、その13個のドッグタグを地面に放り投げた。
なんだ? あれは仲間のドッグタグじゃないのか?
僕が考えていると、そのドッグタグは見る見る影になって行った。
その瞬間、轟と吹き荒れた凄まじい『ゲイン』の奔流が、いったいどこから、来ているのか、僕だけ判らなかった。
僕が瞠目していると、巻き上がる暴風の中で、屈強な『ゲイン』の影の塊──否、あれは、火の形をしている。
フルプレートアーマーの影の騎士が13人。
だがその全ては、影のようであり、はっきりした姿が判らない。
顔面も兜に覆われ、細い線となったスリットの奥から、埋み火だった弱い光が徐々に熾火のように爛々と輝く双眸の不気味さだけがあった。
黒き闇が纏わり付いた鎧には、禍々しい『ゲイン』が嵐のように巻き上がっている。
判らない。
僕も色々な敵と戦って来たが、この13体の影の実力を推し量ることができない。灰玄はできているのであろうか?
「また出したわね。その影の玩具を。鬱陶しいのよね。切っても壊しても、また次々と元に戻るから」
「それはこちたとて、同じ言葉を返させてもらうわ」
どうやら、この影と対峙するのは、これが初ではないらしい。
一刹那──この13体の影が一斉に灰玄に襲いかかった。
「遅い! 『波動脚煌』!」
見えた! 前は見えなかったが、灰玄が波動思念を使うと同時に、13体の騎士の攻撃は空を切り、まとまった13体の騎士の兜を灰玄は粉々になるまで、何度も殴りつけた──が、すぐに影は元の闇を纏った騎士になった。
キリがないのはお互い様だと、先ほど言っていたが、勝算無くして無鉄砲に戦う灰玄ではない。
そこは僕がよく知っている。
灰玄は大きく深呼吸をすると──言い放った。
「『波動壮丈』」
先ほどまでも、尋常ならざる思念気の渦が異常なまでに逆巻く!
まるで、巨大な滝──そう巨大な瀑布が逆巻いているのだ!
その正体は灰玄の本当の、瑠璃色に輝く思念気の滾りだった。
まさか、ここまで灰玄の思念気が強いなんて。
その圧倒されるまでの思念気の奔流に流されるかの如く、13体の人影は砂塵のように、風圧で消し飛んだ。
「アハハハハ! まさか私の『クロルス』を『ゲイン』の威圧だけで消しとばすとは。貴様、本物の化け物か? ならばこれならどうかな? 【ライトニング・ライン】。《ラッシュアワー》」
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「『ムーブ』」
「──ッ!」
なんだ? 今一瞬だけ、何かが止まったかと思ったら、灰玄が100メートルほど先に吹っ飛んでいる。上半身と下半身が泣別れた状態のまま
しかし、すぐに、亡き別れたはずの上半身と下半身は、自己再生をして、何事もなかったように、平然と佇立する灰玄。
しかし、あの灰玄が避けられなかった一撃とは……。
「前から、不思議に思っていた。アンタのその攻撃、時を止めているとしか思えないのよ」
その発言に、シェルルは豪笑した。
「時間を操ることなど、宇宙の物理法則を捻じ曲げないことには無理だ。そんな能力があるならお目にかかりたいものだな。冥土の土産だ、教えてやろう。この技は脳内や、身体中に流れる電気信号を一時的に、限りなく遅くさせる。つまり脳内に送られる情報が送れ、時間が止まったように見えるのだ」
なるほど、それなら納得できるが、それでは勝ち目がないではないか。
だが灰玄は涼しい顔で言い放った。
「良い土産をありがとね。おかげで、アンタの殺し方が解ったは」
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