第105話 開け、ミラーリング・ゲート


 *5


 『ロックス』の閃光が消えると木多林大学病院に着くと、開口一番、シェルルが僕に訊いてきた。


 「おいキョースケ。ちゃんとチャパラストゥルの書とオロメトンは、持ってきたんだろうな?」


 「あ、うん。大丈夫だよ」


 てか2つとも、こいつらの所有物なんだし、それを勝手にオークションに出されて、お金をとっちゃいけないよな。

 盗人猛々しいとはまさにこのこと。


 その前に、チャパラストゥルの書はわかるけど、オロメトンって確か、以前に沖縄に行った時にローザに襲われて、臥龍が持っていた妖刀ならぬ、お守り刀の鈍だよな?


 一応念の為にオロメトンも臥龍の机に乗っていたから、拝借してきたが、これで合っているのだろうか?


 僕はシェルルにオロメトンが合っているか確認してみたところ、間違いないそうだ。


 しかし、こんなものを、何に使うのだろう?


 「はあ……長かったなローザ」


 「ああ……そうだなアネゴ」


 2人は、何か長編物の大冒険のRPGをクリアした時のような、僕の顔になっている。


 やっと、終わって解放されたような……。


 「あっ! でもその本だけど、中身は開かなかったよ? いったいどうするの?」


 僕の質問にシェルルが応えた。


 「これはな本の形をしたピース・アニマだ。そして、オロメトンが鍵になって、発動し、『ミラーリング・ゲート』が開く」


 そこに割って入ってくる、1人の女性の声。灰玄だ。


 「ちょっとアンタたち! 何さっきから、アタシのことを置き去りにして、話を進めているのよ」


 だが、これは『Nox・Fangノックスファング』の悲願なのだろう。なんと、あのシェルルが、『ミラーリング・ゲート』が開くまで、両者の因縁のケリは待ってくれと頭を下げた。


 これには灰玄も驚き、その勢いで承諾してしまったのだ。


 「よし。チャパラストゥルの書は本物だ。オロメトンが本物か試すぞ。おいローザ。【クリムゾン・ジェイラー】を発動してくれ」


 「さっきから、やってっけど、うんともすんとも反応しねーよ。これは間違いなく。アンチ・アニムスのピース・アニマだ」


 「よかった。それじゃあ──」


 よく見ると、本を開く端っこの真ん中に、何やら穴がある。


 この穴にオロメトンを差し込むのだろう。


 シェルルは、オトロメトンをチャパラストゥルの書の、僕が今見つけた穴に差し込んだ。


 ビンゴ! なんかだんだん、こいつらの武器や陰陽師の考えとか解ってきたな。


 解りたくはないけど……。


 だが、突如空は暗雲が立ち込め、雷が鳴り響いた。


 灰玄は何食わぬ顔で腕を組んでた。


 「せ、成功だ」


 シェルルが言うと同時に、チャパラストゥルの書から警報のような、けたたましい音が鳴り響く。そして同時に機械音声が流れた。



 ────────────



 ロックキー解除確認!

 ロックキー解除確認!


 座標及び標高の確認計算を行います!


 計算が終了しました。


 南緯約20度16分。

 西経約66度58分。

 標高約3660メートル。

 現代の固有名詞ウユニ塩湖と断定。


 ミラーホールのプロテクトを解除します!

 繰り返します!

 ミラーホールのプロテクトを解除します!


 直ちにミラーホールをオロメトンで解除して『ミラーリング・ゲート』を開いて下さい!


 尚、1440時間が過ぎますとロックキーが変更され、再び新規プロテクト解除の処理が必要になります!


 

 ────────────



 「アハハハハ! やっとだ! やっと帰れるぞローザ! やはりユニ塩湖だった!」


 「ああ! やったなアネゴ!」


 ウユニ……えんこ?


 「なあ灰玄。ウユニえんこって、任侠映画によく出てくるあれのこと?」


 「そうそう。けじめをつける時の──って、それはエンコよ! アンタはウユニ塩湖知らないの?」


 「知らないよ」


 「かなりの絶景ポイントだから覚えておきなさい。ウユニ塩湖はボリビアにある塩の湖って書いて、ウユニ塩湖よ」


 「ああ〜はいはい。動画のバイト数を圧縮させるあれね」


 「そうそう。動画のバイト数が高いと動画を観る時に──って、それはエンコードよ! アタシが言ってるのはウユニ塩湖!」


 灰玄の奴、ノリツッコミ派なんだな、やっぱり。

 しかし臥龍並みにちゃんと相手をしてくれるから、きっといい奴だ。

 て言うかボリビアってどこ?


 「アンタたち。浮かれてるとこ悪いんだけど、これでもうアンタたちがやるべきことは済んだわよね?」


 「ああ、待たせてすまない。ガルズに帰還する前に、ちゃんと因縁のケリをつけないとな」


 「はあっ!? まさかアタシに勝てるとでも思ってるの? 能天気ね」


 きっと今、灰玄の瞋恚は頂点に達しているだろう。それを顔に出さないのは流石と言うべきか。


 いつも冷静な灰玄らしい、上から口調だ。


 「まあ、戦えばその是非がわかる。ローザ! 準備しろ!」


 オロメトンの効果は、今、チャパラストゥルの書に差し込まれているので、ピース能力は使える状態にあるらしい。


 「あいよアネゴ! 【クリムゾン・ジェイラー】! 『ブラック・ベール』!」


 ローザが言うなり、いつもの深紅の帳ではなく、漆黒の帷が僕らを包んだ。

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