第102話 人生初のオークション会場と、新たな不穏


 *2


 今僕は携帯電話でゲームをしながら、お菓子を食べて、完璧なまでの冷房の効いた部屋にいる。


 天国があるなら、きっとここだ。というか、ここは臥龍の店だ。


 ビビは相変わらず、2階でお菓子を食べながら、漫画を読み耽っている。


 僕も2階の漫画みたが、結構面白そうな漫画がずらりとあったので、今度読んでみようと思っている──が、今はゲームの方に熱が入っている。


 無料RPGだが、あともうちょいでラスボスなんだよ。ここでやめたらダメだ。


 何とかオークションの時間までに、レベルを上げて倒さなくては!


 今は丁度お昼の12時だ。夜の7時に向かえば充分だろう。


 ────1時間経過────2時間経過────3時間経過────




 ────7時間経過



 ダァ! 何で倒せないんだよ! HPが半分以下になったら4回攻撃なんて反則だろ!


 こっちのパーティーメンバーなんて3人なんだから。

 これ、ゲーム調整ミスってんじゃないの?


 まあ無料だから文句は言わないけど。


 てか、もう夜の7時かよ。


 僕は早々にブレザーを着て、臥龍の店を出た──出た──出──暑い!!


 真夏だから仕方ないが、夜でも暑い!!


 ああ、せっかく汗も落ち着いてたのに、かかなくてもいい、汗をかいている気がしてならない。


 と言うか、クールビズはどこにいったんだよ!


 普通に半袖のワイシャツにネクタイでいいじゃん!


 こんな真夏でも金持ち連中は、ドレスコードなんかに気を取られているのか?


 貴族の社交界かっての!!


 歩いて行ったら、汗まみれになる、でも街羽市駅の中で、いきなり僕が飛んできても、大騒ぎになる……。


 仕方ない、徒歩で行くか。


 ああ『ロックス』があればな。


 タルマから、少し貰っておけばよかった。


 しかしだ、あの『ロックス』もどういう原理で動いているんだ?


 文明レベルか……臥龍は文明を遡り、タルマ達は僕達の文明の遙か先にいる。


 温故知新というが、あそこまで文明の違いを見せつけられたらな……。


 あいつら、いったい何なんだ?


 そんなことを考えながら歩いていたら、オークション会場の高級ホテルまで着いた。


 「おーい九条君! こっちだ!」


 臥龍が僕の方に手を振っている。


 なんか恥ずかしいな──そして、セキュリティの人に身分証明書を見せて、ホテル内に入ると、人で溢れ返っていた。


 ホテルとかでやる、ガチのオークションってこんなに人がくるのか。


 「俺は自分の席に座っているから。オークション開始は1時間後だ。それまで自由時間にするから、ホテルの中をぶらつくのはいいが、恥をかかせるようなことはするなよ。君はアベレージな学生なんだからな!」


 だから、最後の部分は余計だって。


 しかも、興味があるから、ホテル内をぶらつくけど、恥をかかせるなんてこと──


 「あら? 何よ鏡佑。何でアンタがここにいるの?」


 爆乳──いや灰玄だった。


 ドレスを着ているから、余計に目立つな──その、胸が……。


 「何で灰玄がこんな場所にいるんだ?」


 「それはこっちの台詞よ。何でアンタがこんな社交場にいるのよ」


 僕は臥龍に連れてこられたことを説明した。


 「ふ〜ん。まあアタシもこんな場所には興味はないんだけれど、ツルちゃんがポニーちゃんの看病があるからって、代わりに頼まれたのよ。それに代わりに行ったら、また欲しいものなんでもくれるって、約束もしたし」


 意外と現金な奴だな。

 俗世に興味なんて無いとか前に言って無かった?


 灰玄は、じゃあねと言って、僕の前から姿を消した。


 てかポニーちゃんの看病ってことは、ポニーはまだ回復していないのか。


 命に別状は無いと言っても、錦花さんからも恨まれていると思うと、ゾッと寒気がするぞ


 さてと、そろそろ時間か。自分の席に戻るとするか。


 そして、セリならぬオークションが始まると、司会者らしき人がマイクで何か叫んでいる。


 「レディースorジェントルメン! 紳士淑女は今宵、今までにない、幻の一品を手に入れられるかもしれない、運がいい人たちばかりです!」


 ああ〜はいはい。そういう前置きいいから、さっさとスキップして。


 だが、この前置きはその後も5分は続いた。


 僕はグッタリしながら、早く帰りたい気持ちでいっぱいになると──競売が続く中で、2時間ぐらいして、やっと、チャパラストゥルの書が出てきた。


 なるほど、安い順に競売されていくのか。


 「それでは、今回のメインディッシュと言ってもいい品。なんとあのギルガメッシュ叙事詩が最古のだといわる中で、より最古の叙事詩がこれだ! チャパラストゥルの書! では最初の落札金額は3億円から!」


 すると、皆がこぞって、値段を釣り上げていった。


 「3億1千!」


 「3億1千500!」


 「3億3千!」


 「3億4千!」


 「3億5千!」



 ──「もういらっしゃいませんか? では3億5千で……」


 「4億!」


 臥龍の声だった!


 これには会場中に驚きの声が響く。


 「4億です! 他には? ──では! 4億で落札!!」


 その後、裁判官が机を叩く木の棒で、大仰に机を叩く、オークショニア。


 つーか4億って……臥龍よ、お前はいったいどんだけ金持ちなのだ?


 「もっと値が釣り上がると思ったが、案外安く買えてよかった。九条君。俺は4億の小切手を渡しに行くから、先に帰ってなさい」


 そう言って、臥龍はどこかに消えた。


 つーか、思ったんだけど。


 僕がオークション会場に来た意味なくね?


 「おやおや。何でこんなところにキョースケがいるのかしら?」


 その声の主は、昨夜出会ったシェルルだった。


 流石に漆黒の軍服は着ていないが、臙脂色のスーツ姿である。


 「1つ訊きたいんだけど、もしかして、もうチャパラストゥルの書は、落札された?」


 僕は首を縦に振って肯定し、臥龍を指差した。


 「あらそう。あいつが落札したのね。なるほどなるほど。教えてくれて有り難うねキョースケ。これ教えてくれたお駄賃」


 そういうと、僕に3万円くれた。いい人だ。(またお金の魔力に取り憑かれている)


 「それじゃあ、私は帰るから。また近いうちにね。それじゃあ」


 颯爽と捨て台詞を残し、帰るシェルル。


 ていうか、また近いうちってなんだ?


 なんか不穏な気配しかしないんだが……。

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