第101話 オークションって、ネットだけじゃないの?


 *1


 僕は家で仮眠をして、朝の10時に臥龍の店に着いた。


 店のドアには張り紙で、営業再開と書かれている張り紙が貼られていたが、いったいどんな変人が、こんな店に来るのだろうと、毎回思ってしまう。


 っと、そんなことよりも、臥龍に謝罪を──


 「おっ。九条君。ビビ君から聞いたよ。大変だったんだって? 救急車に運ばれて」


 なぬ? 僕はビビに5年前の乾パンを食べて救急車に運ばれたなんて一言も──


 あれ? もしかして、ビビの奴。僕が本当に5年前の乾パンを食べるか、見にきてたのか?


 あいつのことだ、充分有り得る。


 僕が幼女姿のビビを見ると、無言で親指を立てるビビがそこにいた。


 いちいち親指なんて立てるんじゃねー! 元はといえば、お前があんなもん渡してくるから──まあ食べたのは僕だけどさ……。


 「しかし、数日も入院しているなんて、携帯に出ないのも納得したよ」


 あ、ビビの奴。ちょっと前に、僕が爆睡して店を無断欠勤したあたりまで、乾パンを食べて食中毒で入院したってことにしたのか。


 でも、あの時はまだビビに出会って無かったが、きっと、臥龍がビビに僕が無断欠勤したことを話して、口裏を合わせてくれたのだろう。


 まーいっか。これで一見落着だな。



 「さてと、続き続き」


 臥龍はいつもの本革の高級椅子にどっかと座り、本を読んでいる。


 本の表紙には、『骨董品カタログ』と書かれている。


 はは〜ん、あの本は、なるほどな。


 「臥龍さん。その本の中身にエロ本を隠して見てるでしょ?」


 「なんで急にエロ本の話になんだよ!」


 「だって、骨董品だったら、もう腐るほどあるのに、そんな本を読んでいるのは怪しいから」


 「違う! 今回の骨董品は本だよ! 本!」


 「本? 骨董品にもエロ本が、あったのか!?」


 「だからエロ本から離れろ。なんか君と話していると、いつもこういう流れになるな」


 「だって、劣学者だし」


 「劣学者じゃない哲学者だ! これだからアベレージな学生は困る。いいか? 俺が今狙っているこの本は、一冊3億円するんだぞ!」


 「さ、さ、3億円のエロ本だって!?」


 「だからエロから離れろっての! この本は、失われたギルガメッシュ叙事詩よりもさらに500年前に歴史が書かれている、幻の本なんだぞ!」


 「ギルガメッシュって、あのゲームの?」


 「そうそう、あの金ピカの──って、違う! あれはフィクション! こっちはノンフィクションだ!」


 「何で3億円も払って、そんな本が欲しいの?」


 「アベレージな学生の君には解らないだろうが、歴史とは男のロマンなんだよ。てなわけで俺は、俺は今夜、街羽市駅の高級ホテルで行われる、オークションに参加するために、スーツを選ばないといけないんだ。ドレスコードがあるからな。ちなみに君は俺の助手として来い。まあ学生だから学生服で大丈夫だろ。ちゃんとブレザーも着てこいよ!」


 「ええ! この暑い中でブレザーも? てか何時? あと場所は──ああ、街羽市にある高級ホテルは1つしかないから解るか」


 「時間は夜の8時だ! いいか? 絶対に遅れるなよ!」


 「はあ、全くエロ本の為に3億円とはねぇ……」


 「エロ本ではない! 幻の文化財産と言え! チャパラストゥルの書だ!」


 「ちゃぱ、茶が何だって?」


 「だから、チャパラストゥルの書だ!」



 言って、店を後にする臥龍であった。


 チャパラストゥル……めっちゃ噛みそうな名前の本だ。



 「所でさ、なあビビ。お前は行かないのか?」


 「ビビは留守番だビビ!」


 「とか言って、またお菓子を食いまくるつもりだろ?」


 「大正解だビビ! 今度は前よりも、もっとたくさん食べて、どこまで食べられるか自分の体で試すビビ!」


 「試すのはいいけど。その前に病気になるぞ」


 「そこも大丈夫だビビ! ビビはナノマシン群体だから、病気知らずだビビ!」


 「ナノマシンねぇ……」


 そういやこいつ、ホラキに恨みがあるとか言ってたけど、こいつの肉体はもう死んでいて、ナノマシンとか言う、ゲームの中でしか聞いたことがない、僕でもよく解らない物質で動いてるんだよな。


 もう死んでいるのに、なんて生き生きした猫なんだろう。


 そして、なんて生き生きとした憎たらしい猫なんだろう。


 ああ、もう死んでると言えば、黒宮もそうだったな。


 あいつは、ビビと違って、可愛いし素直ないいやつだった。


 どこかのダンディーなブタさんが言っていたよな。


 いい奴ほど、すぐに死ぬって。


 まさにそれです。


 てか、オークションか。


 僕はネットでしかオークションをしたことないが、いったいどんな風なんだろう?


 魚市場のセリみたいな奴か?


 でもスーツを着た人たちが、汗だくになって、セリをする姿も想像すると悍ましいな……。


 うーん、人生初のガチのオークションか。なんか少し緊張してきたが──あああ!


 助手で参加するってことは、特別手当とか出るのかな?


 でもなあ、あのドケチの臥龍のことだ、きっと、また、何かしら言い訳をしてきて、逃げるに決まっている。


 まあ、とにかくだ、一旦、家に帰ってブレザーを取ってきたら、また臥龍の店に戻って、夜になるまで、携帯のゲームでもしながらお菓子でも食べて待つとするか。

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