第99話 びっくら仰天、天高く浮遊する大霊廟


 *8


 眩い閃光が少しずつ、晴れていく──いつになっても、これだけは慣れない。


 だって閃光手榴弾みたいなんだもん。


 まあ実際のとこ、閃光手榴弾を食らったことはないけれど。


 つーか、そんなことよりも、なんて大きな空間だ。


 しかも壁が前面ガラス張りで──いや驚くことはそこじゃない。


 この空間、天に浮いてます。それも尋常じゃない高さに。


 どういう原理なんだろう……。


 そのまえに、こんなものが天空に浮いてたら落とされないか?

 自衛隊か警察に。


 「なあタルマ。この場所って──」


 「ふん、まあチミには理解できないだろうが、ボキが作った霊廟だ。シェルルさんから言われて、死んだ後はせめて太陽の日差しの下でって、言われてな、ッパ!」


 「いや、それよりも、こんな馬鹿でかい建造物が空中に浮いてたら、追撃とか──」


 「そんなこと百も承知だよ。だからステルス迷彩で、周りからはただの空の風景にしか見えないようにしてある。あっ、それと。この霊廟の原理だけど──」


 「あっ、いや。今度聞くよ。今はほら、ジェイトとスペイドをお墓に入れないと」


 「そうだったな。ッパ」


 危なかった〜〜〜〜〜。


 ま〜たタルマの長い長い自慢話が始まるところだった。


 さてと、シュセロとシェルルは──いないいいいいいい!!


 あんの二人! 仲間思いかと思ったら、お墓に入れるのはタルマと僕に任せて、どっか行きやがった!


 「おいおいタルマ! なんでシュセロとシェルルがいないんだ?」


 「当たり前だろ。二人とも忙しいんだから。こう言うのは非戦闘員の仕事なんだよ。それに浮遊霊廟にチミが入れたことに対して、二人に感謝するんだな。っぱ!」


 ま、まあ夜景はすごいから、なんか得した気分だけど。この二人を僕とタルマでお墓に入れるのか。


 なんだか喧嘩になりそう。


 それにしても高いな。いったいどこに──ってえええ!!

 ましたもガラス張りなのでよく見える。ここは病院の真上だ。

 でもそれよりも。


 「なあタルマ。ちなみにこの霊廟の高さって何メートルなの?」


 「ん? 驚くなよ。222メートルだ、ッパ!」


 マジかよ。すげー高いじゃん。


 でもつくづく知りたい。どうやって浮いてるんだ?


 動力源はなんなんだ? てかこんなものまで作るとか、何なんだ、この集団は?


 しかしなんて、なんてたくさんの鉄の棺の数だ。


 もしかして、ジェイトがこの数えきれない棺の主たちを殺したのか?


 そして、殺してピース能力を奪ったのか?



 「ほらほらチミ。邪魔だよ」


 タルマが僕に言ってきた。


 見ると、無骨な人型のアンドロイドが、骸になったジェイトとスペイドを、鉄の棺に入れている。


 な、ぬあんだあああ!

 あ、あ、あれはSF映画とかに出てくるアンドロイドだああああ!!


 「何驚いた顔をしているんだ? ッパ! もしかしてアンドロイドを見たのは初めてか?」


 「いや、初めてじゃないけど、実際に見るのは初めてだ」


 「まあ、この世界の文明レベルから言ったら、アンドロイドの運用は、あと100年先だろうね。っぱ!」


 す、す、す、すげええええええ!!


 僕の目の前で、アンドロイドが……つくづく、どんな集団なんだ?


 とう言うか、文明レベルか……この世界か……って! こいつらどこからやってきたの!?


 「なあタルマ! お、お、お前……未来人なのか?」


 「はあ? 違うよ。ボキはこの宇宙と全く同じ二元宇宙のガルズから『ミラーリング・ゲート』で、この兄弟宇宙のアースに飛ばされてきたんだ! ッパ! でも文明レベルが余りに低くて驚いたよ。ッパ!」


 そりゃあ、いきなり目の前でアンドロイドなんて見せられたら、驚きますよ。


 文明レベルが低いって言われても、言い返せないよ。


 「さてと、お仕事は終わりだ。もうそろそろ朝か。眠い……シュセロさんから言われてたけど。チミを霊廟に案内したら、安全な場所まで『ロックス』で転送しろって言われてるから、転送するよ。ッパ」


 「いやいや待て。僕はまだ入院中で──」


 「あ〜そのことなら、ボキが上手いこと洗脳しておくから大丈夫だ。ッパ!」


 せ、洗脳って……何考えてんだ?


 だが、僕が言い返す間もなく、タルマは僕に『ロックス』を投げてきた。


 「うわっ! 眩しッ!」



 拡がる閃光が薄れていき、周囲を見ると、僕はボケっと臥龍の店の前に佇立していた。


 てか、やっぱり気になる。


 あの浮遊する物体の動力源が。

 それと、あのジェイトにスペイドがあんなに呆気なく死んだとは、まだ僕の心の中で思えない部分がある。


 そんな一抹のしこりを残して、僕は家路に向かった。


 家路に向かう時に、小声で臥龍の店に向かって、「ビビのバ〜カ」と言うと、ビビが猫の姿で、僕に飛びかかってきて、顔を爪でガリガリと引っ掻かれたことは言うまでもない。


 全く、とんでもない地獄耳だな。あの猫は!




 第伍章・浮遊霊廟ふゆうれいびょう・了

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