第98話 大物は、心も寛大だった


 *7


 で、デカい。しかし何なんだこの強烈なまでの威圧感は。


 これが師団長の格の違いというやつか? それに、何か他の人とは違う風格も持ち合わせている。


 というか、てっきりアジア人だと思っていたが、シュセロがアジア人なのに、その上の師団長は金髪碧眼の西洋人なんだな。


 早い話が高身長の容姿端麗の──おばさんだ。


 しかし、こいつらのグループの総本山だからか、凄い火傷の跡だ。


 髪はウェーブがかかった長髪のブロンドに、上下ともに臙脂色のスーツとスカートを着ていて、長いストッキングを履いている。


 靴は白いハイヒールなので、余計に背が高く見えてしまう。


 それに中に着ているシャツが、真っ白なカッターシャツを羽織っているだけなので、その、なんだ、とにかく、デカいのだ。


 胸がな。


 その胸がより強調されているわけだ。服装で。


 そして胸元にはドッグタグを下げているが、ドッグタグの数がこれまた多い。


 13個はあるぞ。


 死んでいった者達のドッグタグの数なのだろうか……まあ僕は詮索屋ではないので、あまり気にしないが。


 にして、なんだあの火傷の凄さは、ポニーの頬の銃痕レベルではない。


 左の顔全体から首筋にかけて、しかも、あろうことこか、胸元まで痛々しい火傷の跡が見える。


 よく見ると、左腕の甲のあたりまであるぞ。


 うーむ、もしかして、腕までも火傷の痕だらけなんじゃないか?


 それにだ、やはり軍服ではなく、軍用コートだが左に腕章ではなく、くっきりと銀色で『Nox・Fangノックスファング』と刻まれている。


 腕章は付けない派なのだろうか?


 それに左胸には、歴戦の猛者にだけ許される、勲章がずらりと付いていた。


 まさに大物だな。



 「おーいシェルルちゃん! この裏切りもんたち、さっさと地下5階の廃棄場になっとる暗澹所に捨てに行こうや!」


 そのシュセロの言葉にシェルルが声を荒げた。


 「ダメだ! 浮遊霊廟に安置する」


 「なんやて! こいつらは、シェルルちゃんのこと、殺そうとしたんやで!」


 「それでもだ、たとえ一度でも戦火の中で戦った同士を、無碍にはできない!」


 「甘いのうシェルルちゃんは、甘々やで!」


 「なんだ? シュセロ。私に意見しようとでも?」


 「当たり前やがな! こんなゴミども暗澹所送りに決まっとるやろ!」


 「ほう。では力づくで、私にYESと言わせてみろ!」


 「望むところや!」


 「ちょちょちょ! ストーーーーーーップ! やめやめ二人とも! 二人が喧嘩してどうすんの!」


 全く、こんな場所で暴れられたら、こっちが困る。


 それに師団長に副師団長はもっと仲良くしないと。


 「んま、キョースケちゃんがそこまで言うんやったら、許してやってもええけどな」


 え? もう許すの? チョロ過ぎません? シュセロさん。


 でも、まあ無事に喧嘩にならずに、よかった


 「おい。お前がキョースケか?」


 シェルルの声だった。


 僕の方に向かって歩いてくる……流石に戦闘はないと思うけれど、なんだろう?


 「最重要危険人物だと聞いて、写真は見ておいたが、実際に見る方が、男前じゃないか」


 へ? 今? 褒められた?


 う、嬉しい。

 考えて見ると、いつも心絵達にバカにされて来たから、真顔で褒められると……涙が。


 「シュセロのお気に入りみたいじゃないか。だが、掟は掟。今日のところは多めに見て見逃してやるが、次に会った時は、命はないと思え」


 こ、怖い……なんて威圧感だ。

 天国から一気に地獄に叩き落とされました。


 「おいタルマ!」


 「は、はい! なんでしょうシェルルさんッパ!」


 ふ〜ん。師団長とかって言わないんだ。


 割とアットホームな師団なんだな。


 軍人ってもっと規律を重んじる風だと思ってたけど。


 「ロックスで、ジェイトとスペイドを浮遊霊廟まで連れ行くぞ!」


 「は、ハヒィ! す、すぐに! ッパ!」


 でもやっぱりビビってはいるんだな……。


 僕が思ってるうちに、タルマはすぐに『ロックス』をポケットから出すと、死んだジェイトとスペイドの骸を、指先を広げて、掃除機のように吸引し、僕たちの前まで、持ってくると、そのまま『ロックス』を床に投げた。


 僕とシュセロ、シェルルにタルマ、そしてジェイトとスペイドの骸が、閃光の中に包まれた。

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