第97話 謎の組織のリーダーは、本当に大物だった


 *6


 「終わったな……そんじゃ──おいタルマ! おるんやろ! 隠れてないで出てこいや!」


 「ひ、ヒィィィ! ご、ごめんなさいぃぃぃ! ッパ!」


 声だけするがタルマの姿がない。


 いったいどこに?


 「はよ出てこんかい! せやないと、コイツらみたいになるで!」


 「は、はい。すぐに。ッパ!」


 言うなり、なんとすぐ僕の目の前に姿を現した。


 白いローブを脱ぎ捨て……。


 まさか、あの白いローブが姿を隠す道具なのか?

 コイツらだったら有り得るな。


 一瞬で姿を消して、コイツらのホーム改めアジトに移動できる『ロックス』も作ったのだから。


 「やっと姿を見せたかタルマ! さっそく本題やけど、シェルルちゃん殺そうなんて、何狂ったこと考えとんねん! シェルルちゃんにどんだけ恩があるか解っとんのか? おどれもシェルルちゃんに恩を仇で返すようなこと考えとったら、今すぐ──」


 「う、うっわあああ! 違います! ボキはジェイト……さん……に、ミニチュア・ボムで強制的に『ピーシーズ』計画を……ッパ……」


 「んな! おどれ! 人造ピースの黒石の『ピーシーズ』は、体への悪影響が強いから師団会議で却下されて永久凍結された議題やろ! まさかシェルルちゃんに黙って『ピーシーズ』を造って、それがバレたから殺そうなんて、ガキみたいな考えやったんか!?」


 「あ、いえ、その、はい、そ、そうです……パッ!」


 「図星かいな! かぁ〜呆れたは……。おどれらシェルルちゃん殺したら、親代わりの、シャークールのあんさんが、どれだけ悲しむか解っとんのか!?」


 「そ、それは解ってます。ッパ! でも脳内に爆弾を埋め込まれて──」


 「せやったら、なんで俺らに相談しなかったんや! こんボケが!」


 「いや、そう、相談したくても、相談した瞬間に自動的に爆弾が作動して、脳みそが吹っ飛んでしまうんですよ、この能力は。ッパ!」


 「せやから相談できんかったんか……。でもなんか方法があったやろ!」


 「色々考えましたが、無かったです……ッパ……」



 「あの……お取り込み中のとこ悪いんだけど──あのさあシュセロ、早く上着のジャケット着た方がいいんじゃない? 風邪ひくよ?」


 僕がシュセロに質問攻めにされている、タルマを見兼ねて助け舟を出してあげた。


 てか、背中の大きな孔雀の刺青を見ていると、なんかヤクザが素人さんに因縁を吹っかけているように見えて、タルマが可哀想に見えたからである。


 「ん? ああ、せやな。おいタルマ! お前もこのキョースケちゃんの気遣いを見習えや!」


 「あ、はい。解りました。ッパ」


 なんかちょっと、不貞腐れている。


 メンバー以外の奴を褒めたからか?


 だが、シュセロの詰問はまだまだ続いた。


 「おいタルマ。他にも訊きたいことが、仰山あるんやけど、例のパープルの実験は仕方なく、シェルルちゃんが承諾したが、他にも何か悪巧みしとったんちゃうんか? この際、洗いざらい全部吐けや! せやないとジェイトやスペイドみたいなになんで!」


 「あ、あ、いや、あの」


 「はよ言わんかい!!」


 シュセロの脅しにも似た叱咤に、タルマはもう半べそをかいている。


 あまり、そっち方面に対しての耐性はないんだな。


 耐性とう言うか、メンタル面が弱いというか。


 「じ、実は、師団会議で却下された、動物兵器実験を──」


 「おどれ! 動物兵器の実験をしたんか! このドアホ!!」


 「ひ、ヒィィィィィィ! で、ですからボキは反対派だったんですが、二人に無理矢理」


 「んで? ホラキは?」


 「ホラキさんも、無理矢理、脳内に爆弾を埋め込まれて、実験をやらされていました。ぼ、ボキ達二人は加害者じゃなくて、被害者なんです! ッパ!」


 随分と無理がある理屈だな。


 まるで、自動車に乗って、助手席から、人を轢き殺せと脅されたから、人を轢き殺しました。みたいな言い方じゃないか。


 まあ被害者かもしれないが、実際に手伝ったんだから、可哀想だが、ここは加害者の一人だろ。


 「そうか、タルマ。お前も辛い思いしとったんやな……」


 ええええええ! シュセロさん! そこ許すの?


 チョロ過ぎるでしょ!


 なんかシュセロは正直に話せば、なんでも許して貰えるみたいな雰囲気が漂っている。


 ちょっと、いや。かなり怖い菩薩様みたいな感じ……。


 「あ、あのシュセロさん」


 「なんやタルマ」


 「ボキはこれから、いったいどうなってしまうんでしょうか?」


 「うーん……こればっかりは、シェルルちゃんに話して、緊急会議を開くしか──」



 「その必要はないぞ、シュセロ!」


 遠くの方で声がした。少しだけ、嗄れて太い女性の声だ。


 ハイヒールでこちらに向かって来ているのか知らないが、カツンカツンという、心地良いとは言えない、不穏な音がトレーニングルーム内に響いていた。


 そして、僕らの近くまで、来ると──僕はその女性を見上げる形になった。


 大男ならぬ大女だ。


 漆黒の軍服コートを羽織り、葉巻き吸っているその女性の身の丈は、軽く2メートルに達していた。


 さらに、今の僕でさえ凌駕するほどの『ゲイン』の圧を滾らせて、僕達3人の前に立っているこの40代前半ぐらいの女性はいったい……。


 「なんやシェルルちゃんおったんか!」


 えええええ!!


 この大女の人が、『Nox・Fangノックスファング』の師団長なの!?


 な、なんという貫禄だ……。

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